第36話 竜虎相搏

スキル欄の最初の[+]を作動させると見聞きしたことのあるスキルが一覧表示された。その数錚々たるものでとても数えきれるものではなかった。恐らく神意排他能力増幅機関システムの管理する全スキルなのだろう。ご丁寧に取得条件を満たしていないものは選択できないようになっているようだ。だが、僕には「統べる者」としての力があるので取得できなくても似て非なるスキルを作成して自分のものにすることができるだろう。どういうスキルがあるか知ることができるだけでも有用だ。取得できるものについては選択すると消費するMPが提示されて取得するかを確認してくる。どこかで時間を取ってじっくりスキルを研究しよう。


適当なところで勇者にスキルを使わせるのをやめて、僕たちはフォルティスのダンジョンに向かうことにした。


「ワタシも行くー。連れてってー。」


当然のように勇者もついて来ようとするがお呼びじゃない。どうやって言い包めようかと考えているとプリメーラが先んじる。


「久しぶりに会った身内の集まりのようなものだから遠慮してもらえるとありがたいのだが。」


「身内というならカナタの将来のお嫁さんのワタシも参加してもいいわよね。」


「誰が誰の嫁だと。」


「だからぁ、ワタシがカナタのお嫁さん。」


「そんなことは他の誰が認めても自分が認めないのだ。」


あのー、そんな向になって勇者と張り合わなくてもいいと思うのだけれど。


「あーら、もしかして十英傑の筆頭は、若い勇者に嫉妬されているのかしら。おほほ。」


何かを感じ取った勇者が挑発に出る。おいおい。


「小娘が何を寝言を言っているのだ。お前のような小童にはカナタはもったいないのだ。」


「だーれが小童なもんですか。聞き捨てならないんですけどー。」


二人の背後に竜と虎が見えるよ。

誰か止めてあげてー。


「プリム、負けてはならぬのじゃ。」


「がんばるにゃ。」


「ん。」


扉三人衆は追随しなくてよろしい。

こらこら、手四つに組むんじゃありません。


「しゃー。」


「がるるる。」


威嚇音を出し始めると一気に子供染みてきた。

はーい、そこまでー、終了ー。

どうにか二人の間に割って入る。二人の顔を抑えて引き離すと何故か二人とも少し嬉しそうでなんかヤダ。


勇者はフォルティスに戻って勇者機構の人に十英傑が帯同することになったことを知らせるように言いつける。

十英傑が帯同するならもうこれ以上他の人を選出する必要もないだろう。職員の手を煩わせないのも勇者のお仕事です。

勇者がしゅんとするので燻製肉を取り出して咥えさせると不満は残るようだがフォルティスに帰ってくれた。


「あれでは嫁というよりは飼い犬でござるな。少し勇者が気の毒なのでござる。」


「カナタの嫁の座は勇者なんかには渡さないのー。いい気味なのー。」


ははは、僕のお嫁さんになる人は大変そうだな。小姑がいっぱいだ。


「何を言っておるのじゃ。妾たちを娶るのは当然としてその列にあのような者は加えとうはないということじゃ。」


「何人お嫁さんいてもいいにゃ。でもやっぱり仕方ないけど正妻はプリムにゃ。」


「な、何を言っている。自分はカナタと一緒にいられるだけでいいのだ。」


「だからー、あんなのが嫁にいると一緒にいられないのー。あほなのー。」


「ぐぅ。そ、その通りだな。一致団結するのだ。」


「「「「「おー。」」」」」


「ん。」


「お前さんは苦労しそうだな。応援してやるから頑張れよ。」


ツヴァイクが慰めてくれ、ドライガンとゼクスベルクがむち打ちするぐらい激しく同意してくれていた。


この後フォルティスのダンジョンの地図マップ情報をもらうと人のいない所を見計らって転移した。

転移最高。もう転移なしの人生なんて考えられないかも。


魔物に対峙するとまずは自分で必殺「岩山落とし」をしてみると思ってた通りMPが少し増えた。


「カナタは、その…普段からそんな闘い方をしてるのか。」


案の定、十英傑が引いている。

僕だってこんなのここ何日か前からですよ。特に今は検証のためということもあって、と言い訳というか説明して納得してもらった。

で、同じように僕以外でも確かめたいので被験者を募った。


「うちがやるにゃ。」


「私がやるのー。」


「あーしにやらせる系~。」


「いや拙者が。」


「ん。」


「妾に任せるのじゃ。」


「自分にさせてくれないだろうか。」


「「「「「どーぞどーぞ。」」」」」


やっぱり十英傑ってお笑い劇団じゃないのか。息ぴったりなんですけど。

っていうか、みんなプリメーラが大好きなんだな。何においてもプリメーラを優先させる心遣いが感じられる。

まあ、一人じゃなきゃいけないわけでもないし順番に協力してもらった。

その結果わかったのは、同じ魔物は同じ量のMPを増加させるだろうということ。推測なのは僕以外は僅かにずれがあったのだ。今回、僕はスキルの上昇を意識せずにMPを貯めるように意識したからだと思う。結果として僕は全てをMPとして貯められたが、他の人は「岩山落とし」でもレベルの上昇にいくらか使われてしまったのだろう。スキルを使って倒すと更にMPの増加量が減ったことからもこの推測は正しいと思われる。

次に確かめたのは僕への力の譲渡についてだ。これも思ってた通りMPで行われていることが確認できた。


「どんどんどんぱふぱふーなのー。これより第一回カナタに力上げます王決定戦を開催するのー。勝負するのは今日の18時までに貯めたMPの量なのー。勝者にはしっぽりカナタに力を渡す権利が与えられるのー。」


最初の内はディスマルクがまたあほなことを言いだしたと皆聞き流していたが、最後の言葉に女性陣が色めき立った。


「それは燃えるにゃ。絶対勝つにゃ。」


「うむ、再戦のために是が非でも勝たねばならぬでござる。」


「妾もあんなことして、こんなことさせたいのじゃ。」


「ん。」


「カ、カナタとしっぽり…。」


あのー、僕を賞品みたいに扱うのはどうかなーって思うんです。

主張するが誰も耳を貸してくれない。


「俺様たちには旨みがないと思うんだが、参加しないとダメかい。」


「なら、勝者にはもう一つ選択肢を与えるのー。カナタに好きなスキルを生やしてもらうといいのー。」


「カナタ、「筋肉隆々」で筋力を上げるみたいなのもできそうか。」


勇者のスキルに似たようなのもあったし多分できると思うよ。

そう答えるとドライガンとゼクスベルクが俄然やる気を漲らせて二人で腕を組み合わせて健闘を誓い合っていた。

その横でツヴァイクがにやにやと良からぬことを企んでいそうな顔をしていたので皆から白い目で見られていた。

この後、細かい規定がいくつか決められて戦いの火蓋が切られた。


「よーいドンなのー。」


ディスマルクの合図と同時に十英傑が一斉にダンジョンに散っていく。

18時まで二時間近くある。何もせずに待つのももったいないので僕もMPを貯めることにした。僕が全力を出すと皆の魔物を奪ってしまうので別のダンジョンに転移したのは言うまでもない。

そこでひたすら「岩山落とし」をしていたので気にならなかったのだが、ふと気付いて見てみたんだよね。魔物のステータスを。そうしたらやっぱり見えるのよ。レベルとランクだけでなくて僕たちと同じ攻撃力や防御力だけでなくSTRやINT、さらにはスキルを持っているものはその情報まで丸見えでした。おまけにMPまで見えて、どうやらこの数値が魔物を倒したときに得られるMPの総量であることが判った。これらの情報を公開したらより安全に効率的に魔物を倒すことができそうなんだけど、それは優先順位を下げて考えた方がいいかなと思った。先ずは魔王を排除することが第一だからね。

そういうあれこれを検証しながら狩っているとあっという間に時間が経ち18時の15分前になっていたので、十英傑のいるダンジョンの入り口に戻って皆の帰還を待つことにした。


僕が転移した時には既にプリメーラとサンクレイド、ユイトセインが戻っていた。

18時に一秒でも遅れたら失格という取り決めになっていたので三人は無理をせずに早めに戻って来たらしい。プリメーラとサンクレイドは慎重派なのは納得できるが、ユイトセインは少し意外だった。

三人のMPを確認するとかなりの僅差でユイトセイン5322、サンクレイド5309、プリメーラ5271の順で並んでいた。結果を伝えてあげると二位以下が確定した二人はもっと悔しがるかと思ったがそうでもなさそうだ。


「まあ、今日のところは様子見でござるからこれぐらいがちょうどいいのでござる。」


「そうだな。最初から初日は手の内を晒さずに皆の出方を見るつもりだったから何も問題はないのだ。」


「ん。」


あのー、何を言っているんでしょう。蚊帳の外なのは僕だけなの。

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