第34話 とっておき
なんか一発芸の披露みたいになってきたけど続けて大丈夫なんだろうか。
一応ドライガンさんに投げた斧が目標を捉えても手元に返ってくるのか確認したが、当然のことながら推進力が落ちて基本的には戻ってこないらしい。残念。
すごすごと引き下がるドライガンと入れ替わりでゼクスベルクが出てくる。
「オイラに任せろ!」
ゼクスベルクが取り出したのは金砕棒のようだが、普通のものとは違ってすべて金属製のようだ。
あんなものを振り回せるなんてどんな腕力なんだ。
大きな岩の前に歩み寄ると両手で持った金砕棒を振りかぶり右から左へ水平に振り抜いた。
『
金砕棒をその身に受けた岩は砕けることなく飛んでいき、きれいな放物線を描いてはるか遠くに落ちて土煙を上げた。
女性陣は目が点になっているが、見方によっては凄いと思う。あれだけの力を砕くことではなく飛ばすためだけに使うなんて発想は僕にはなかったし、思いついても出来なかったと思う。やらなかったとも言う。ただ、もう少しなんとかならなかっただろうかとは思う。
思っていた評価を受けられなくて、やはり肩を落として席に戻るゼクスベルクが哀れに見える。
「男どもは情けないにゃ。うちの出番にゃ。カナタ、実際に体験するにゃ。」
えー、痛くされるのやだー。
もしかして昨日逃げた仕返しですか。
「大丈夫にゃ。触るだけにしておくからカナタは全力で触られないようにするにゃ。」
僕、言っておくけど閃光持ちですから動きの速さには対応できますよ。
「避けられるものなら避けてみるにゃ。」
『
どこの伝承者だ。
何やら僕の周りを不思議な動きで移動し始めるキャトレーブ。
なんだこれ。間合いがよくわからない。僕の背後に回ろうとするのを追いかけて向き合おうとするがいつの間にかさらに背後へと回られる。一旦、距離を取ろうとした矢先に真正面から抱き着かれた。
「捕まえたにゃ。ご褒美欲しいにゃ。」
何故そうなる。
ところで今の動きは何でしょう。最後正面から来られたということは全然見えてなかったということなんだろうか。
「よくわからにゃいけど、視界の外、意識の外に動くようにしてたらこんな感じになったにゃ。」
ふーん、じゃあもしかしなくても人間相手にしか使えなさそうですね。動物とか顔の横に目が付いてるのもいるから視界が広そうですし、昆虫のように複眼だとさらに難しそうだ。相対するものの大きさも関係しそうだし本人にもよく判らないなら習得するのは難しそうだ。
「ご褒美貰えなくてしょぼんにゃ。技も伝授できなくてしょぼぼんにゃ。」
がっくりと肩を落としたキャトレーブと入れ替わりで出てきたのはセットフィーネだった。
「次は妾がいくのじゃ。カナタ、良く見ておくのじゃ。」
曰くのありそうな弓を取り出すとこれまた曰くのありそうな矢を番えて引き絞る。
『
放たれた矢の軌跡が七色に輝いてまあ綺麗。鼻垂れたよ。
「どうじゃ、美しいじゃろ。ドライのように飛んで戻ってくるだけとか、ゼクスのように飛んでいくだけなんて信じられないのじゃ。」
そうですね、夜空に放ったらさぞかしきれいでしょうね。だからどうしたって話ですけど。
「カナタが冷たいのじゃ。」
肩をすくめてセットフィーネが席に戻る。
「次は拙者が行こう。」
大きな岩の前に立つと一つ大きな呼吸をして鍔の無い刀に手をかけるサンクレイド。
鞘から抜かれし美しい刀身の切っ先がゆっくりと真円を描く。
『
袈裟懸けに放たれた一撃は岩を真っ二つにし、その斬られた面の滑らかさに滑り落ちるようにして二つに別れる。
「またつまらぬものを斬ってしまったのだ。」
一振りして納刀する仕草も見事なまでに美しい。
でもそれってどうしても必要なのか。普通に袈裟斬りだけでもいけそうなんだけど。
「これは様式美というものがあってだな、この所作にこそ我が流派の…何故そんな顔をするのだ。カナタには分かってもらえると思ったのに残念なのだ。」
悔しそうな表情をしながら席に戻ると次に席を立ったのはユイトセインだった。
僕に席に戻るように促して座ったことを確認すると徐に両手を空に向かって突きあげる。
「ん。」
何も起こらないんですけど。だが十秒ほど経つと何が起こっているのかようやくわかった。周囲のマナがどんどん集まってユイトセインの突き上げた両手の上空で渦巻いているのが視認できるほどになったからだ。まだまだ大きくなりそうだったが直径が30mを超したあたりで面倒臭くなったのか手を降ろすとその方向に上空のマナの塊が飛んでいき地面に着弾するととんでもない爆発が起こり、少し遅れて爆風が届いた。なんだ今のは。オラ、ワクワクすっぞってな感じになるすげえやつだ。説明を求めたがいつもの調子で「ん」と身振り手振りしか返ってこないので理解するのは無理そうだ。
次はプリメーラが出ていこうとしたがそれを制してヌフクールが立ち上がる。
「プリムは最後にどんと控えてるのがいいと思う系~。あーしが先に行くしー。」
お、
ヌフクールは僕に向かって右手を翳すようにすると何やら唱える。
「……くぁwせdrftgyふじこlp…ぱぱらぱー。」
『
ん?何かされたのか?体を見回しても特に何も変化はないようだけど。
「ユイ。」
「ん。」
セットフィーネがユイトセインに目配せすると阿吽の呼吸でユイトセインの手が僕の股間を弄り始める。
こらこら、だからよしなさいって。執拗に与えられる刺激には耐えられずちょっとむくっとした時にそれは起こった。アレに激痛が走ったのだ。苦悶の声を上げて蹲るが痛みは収まらず、その痛みでアレが萎えると同時に傷みも無くなった。
「ヌフ、カナタに一体何をしたのだ。」
「プリム、そんな怖い顔するなし。ちょっとあーしの許しなく大きくできないようにしただけなし。」
「なっ、なんてことをするんだ。カナタとするためにはヌフの許可がいるというのか。何をすればさせてくれるのだ。」
そういう話ではないと思うのだけど。他の女性陣からも不満の声が上がる。
「カナタはうちのカナタにゃ。とっとと解除するにゃ。」
「うちの、とは勘違いがあるようじゃが、解除することには大いに賛同するのじゃ。」
「ん。」
「そんなのはツヴァイクにしてやるのがいいのー。やりちんやろーにはちょうどいいのー。」
「それだけは勘弁してくれ。とばっちりはご免だぜ。」
「あーしがしたのにしかできないっぽいー。だからツヴァイクとはしたくもないから出来ない系~。カナタのはもう解除してるしー。」
「ほっとしたけど、一言余計なんだよ。」
念のためにちょっと妄想してむくむくさせてみるが痛みはないことにひと安心する。
で、僕はこれをどう使えばいいんだ。
「結界の応用なんだけど使えない系?」
んー、このままだとなぁ。難しいかなー。何より接触した対象に限定されるのがな。
「さて、残るは自分とディスだけだが、ディスには何かあるのか。」
「戦闘で使えそうなのは特にないのー。だから私はいいのー。」
「ならば自分が最後だな。」
いよいよ真打登場か。剣聖の技に期待しよう。
プリメーラは十本ほどの件を取り出すと空中に放り投げた。
『
剣は地面に落ちることなくプリメーラの周りを踊るように回転し始める。
「カナタ、自分に斬りかかってみてくれ。」
言われた通りに
「カナタを万一にも傷つけることがあっては悲しいのでしていないが、これは防御だけではなく攻撃にも機能するのだ。」
一定の間合いに入ってくる対象に対して自動的に反応して防御と反撃を行うようにできるという。プリメーラは五本から始めて今では十本まで制御できるようになったとのこと。ただ惜しいかな、魔法的なものに対しては対処しきれないようだ。それでも今日見せてもらった中では一二を争う技だと思う。
この後はお昼まで僕が実際に体験していないスキルを見せてもらいながら有意義に過ごしていたのだが、天災は忘れたころにやってくる。
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