第33話 剣聖プリメーラ
扉を開けるとちょっともじもじしているプリメーラが立っていた。もじ子がいる。是非、全身黒タイツを着用してほしい。
さっきまでの服装とは違って寝るために着替えたのだろうか羽織ってるものの隙間から覗くそれは寝間着のようだ。
「さっきの話で魔王が人間だというのは確定でいいのだろうか。」
美しく整った唇から発せられたのは真面目な話だった。残念、夜這いではなかったようだ。
プリメーラを部屋に招き入れると部屋にあった長椅子に並んで腰かける。
魔王が人間かどうかは正直なところまだよく分からない。
「人間だとすると千年近く生きているとは信じられないのだが、カナタはそこはどう思っているのだ。」
ああ、それね。千年生きているのが事実なら特別なスキル、例えば「不老不死」なんて持ってるんじゃないだろうか。僕が特殊な力を持っているように、魔王も何かしらの力を持ち込んだのだと思う。
「なるほど、だが不死ならば厄介なことになりそうだな。」
死なないなら死なないでやり様はあると思う。僕らも「大いなる存在」の分け身ですが、余裕で死ねますよね。魔王の体も人間として死を与えるだけならなんとかなるかもしれません。死を与えられないなら
「ほう、カナタはよくそんなことを思いつくものだ。その発想力も「統べる者」として与えられたものなのか。」
それは僕には判りませんけど、よく訳の分からない変なことを思ってしまうのも関係があるのだろうか。
それよりさっきから少しずつ距離をつめてきていませんか。
そうなのだ、少しずつ、ほんの少しずつ座る位置を僕の方にずらしてくるので僕はその分距離を取ろうとするんですけどもう後がないんですよね。
「…それを言うなら、なぜカナタは自分から距離を取るのだ。…自分のことが嫌なのか。」
少し熱を帯びた眼差しになって問い詰めてくるプリメーラ。
えーと、嫌とかそういう話ではなくて…、その質問に答えるなら当然嫌ではないですよ。ただ…。
「自分はこれまで男に触れることすら避けてきたのだ。何故だかは自分でもよく判らなかったがな。小さい時から父親にも触れさせなくなっていてがっかりさせたものだ。」
あらら、お父さん可哀そうに。
「大いなる存在」ももう少しうまく調整できなかったのだろうか。特に女性陣の被害は大きそうだ。初めてを捧げるという行為が力を渡してしまいそうとかで無意識的に拒絶反応でもあったのだろうか。一線を越えられていない人が多すぎるような気がします。プリメーラに至っては触れ合うことすらできていないのだから気の毒すぎる。
「だが、自分は知ってしまったのだ。カナタに触れ、触られることで感じられる安心というか喜びというか心地良さみたいなものを。…だから、…もっとしてほしいのだ。…こんな自分をはしたないと軽蔑するだろうか。」
軽蔑なんてしませんよ、絶対に。そんなこと言うんだったら僕なんて自分で自分をどれ程軽蔑しなくちゃいけないんだって話になります。自己嫌悪で穴があったら入りたくなっていくら数があっても足りませんよ。
「そうか、穴があったら入れたいのか。ならば自分のを使ってくれていいんだぞ。」
違いますよ。そういう話ではないです。
いや、だから全然してあげてもいいんですけど…その…。
「頼む、部屋に一人でいたらカナタにされたことを思い出してカラダが熱くなって眠れなかったのだ。自分だけ入れてもらっていないのだ。もう自分で自分が何を言っているかも判らないのだ。」
顔を真っ赤にしながらそう捲し立てるともう我慢できないのか抱き着いてきて唇を重ねてくる。
ここで拒絶してはプリメーラを傷つけるかもしれない。プリメーラは…気付いてないんだろうな。後で面倒なことになりそうだけどちゃんと向き合うことにしよう。
大丈夫ですよ、そんなに焦らなくても。
赤みの強い髪を優しく撫でて受け入れてあげると強張っていた唇も柔らかくなって僕の舌が滑り込むことができた。
抱き合って舌を絡ませていると余裕が出てきたのか僕を押し倒すように覆いかぶさってくる。
「はぁ…はぁ…もっと…もっとカナタを感じさせてほしいのだ。でもサンクやみんなにしたみたいのは嫌なのだ…。」
あんな風にはしませんから安心してください。
優しく羽織っていたものを取り去ると薄い服の上から躰を触る。そっと、でも熱が伝わるようにじっくりと。そうしているとプリメーラも同じように僕を触るようになる。こうしてお互いのカラダを確かめ合う。
「カナタ…カラダが…熱いのだ…いっぱい…溢れてくるのだ…止まらないのだ…。」
そんなに切なそうにされたらいくしかないじゃないですか。カナタ、いきまーす。
◇◆◇
プリメーラは満ち足りた様子でひと休み中だ。
さてさて、これからどうするつもりだろう。扉の向こうの人たちは。
プリメーラが部屋に来てから少しすると部屋の外に人の気配を感じたので探索で確認したんだよね。そうしたらキャトレーブさん、セットフィーネさん、ユイトセインさんがいたというわけなんです。
プリメーラをつけてきたのか、それぞれが夜這いに来たのかは判らないけど今のところ扉が開く様子はない。ならば今のうちに逃げてしまおう、ということでプリメーラに用意されている部屋に転移して送り届けて出て行こうとしたのだが、彼女のたっての希望で朝まで一緒に同衾することになった。
その後は、何もしてませんよ。一緒に寝てただけです。本当に。
彼女が目覚めた時に僕を抱き枕にして思い切りしがみついた状態だということに気付いて赤面していたことをつけ足しておこう。僕の右半身は柔らかな心地良さだったことこの上なかったことも。
食堂で朝食を摂っていると十英傑たちも何となく集まってきて、扉三人衆だけでなくディスマルクさんにも文句を言われた。理不尽だ。随分と眠そうにしてたけどあちこち探し回ったのだろうか。下手に適当な部屋を選ばずプリメーラの部屋に残ったのは正解だったようだ。プリメーラも根掘りん葉掘りん聞かれていて口は固く閉ざしていたが顔は雄弁に物語っていた。赤面したり、あわあわしたり、にやけたりと美人さんはどんな顔をしても絵になるということでもちろん永久保存させていただいております。
魔王が人間かどうか、魔王がジョブなのかどうかは正確なところは判らないけど魔王の居場所を突き止める当てはついたので、今日の予定としては僕が魔王に対抗する新しいスキルをつくる参考にするため十英傑の皆さんに取って置きを披露してもらうことになった。十英傑と呼ばれる人たちがどんな技を持っているかすごく楽しみだ。
どれだけ大暴れしてもいいようにフォルティスから少し離れた空白地帯にまとめて転移すると初体験のユイトセインさん以外はそれなりに感動していた。そしてなぜかユイトセインさんが小さい胸を張って誇らしげにしていた。
「ん。」
だから何でいちいち股間を擦るんでしょう。
ユイトセインさんは擦ることに満足するといそいそと
「それじゃあ、大したことはないが俺様から披露してやろう。」
後列から出てきたツヴァイクが
『
唸りが聞こえるくらいの勢いで捻りだされた槍は地面を抉り土を巻き上げるほどの竜巻を起こし、その竜巻は突き出された方向にあった大きな岩を粉砕した。
あー、うん。なんか思ってたのと違う。もっとドカーンとかずばーんとかぎゅいーんとかそういうのを想像してました。
「地味なのー。」
「だな。」
「竜巻とかなら態々槍じゃなくて魔法で起こせるんじゃねーって思うわけー。」
「仕方ないだろ。槍は突く、払うが基本だ。突くのも捻りを加えることで抉るようにして威力を増すんだよ。それを槍が触れない距離でも当てられるようにしたんだから賞賛してくれてもいいじゃないか。」
もちろん僕も槍使いますから基本は知ってますよ。だからこそその常識を超える何かを見せてもらえると期待していたわけで。
「あー、わかったよ。大したものを見せてやれなくてすまなかったよ。次は誰だ。」
「吾輩が行こう。」
ドライガンは
『
渾身の力で投げ出された二つの両刃斧は回転しながらかなり遠くまで飛んでいきそのまま飛び去ってしまうかと思えば弧を描いて飛び、ドライガンは手元に戻ってきたそれを鮮やかに掴み取った。
……ゲッターでGな3つの力が一つになっている、そんな感じで良かったですよ。
やっぱり十英傑ってお笑い劇団なんじゃないだろうか。
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