第31話 世界の理

いかんいかん、今はステータスウインドウの変化を検証してる場合ではなくて神意排他能力増幅機関システムの情報を共有することが先だ。僕はこのステータスウインドウの表示内容の変化、権限LVと管理者権限アドミニストレータ、僕の作ったスキル等を考慮してとんでもない仮説を披露してみた。


「つまり、お主はこう言いたいわけだ。この世界は神意排他能力増幅機関システムによって回されている、と。」


そう考えると辻褄が合うことが多いんです。


先ずはステータスウインドウですが、これって僕たちの頭の中に見えるものであって、他人と同じステータスウインドウを共有して見ることはできません。そして他人のステータスを見ようとするとお知らせが届きますし、普通は見える内容が制限されています。

これって誰がどうやって表示しているんでしょう。誰が誰を見たかなんてどうやって把握しているんでしょう。誰が他人の表示内容を制限しているんでしょう。

多分、この全部に神意排他能力増幅機関システムが関わっているんですよ。僕の特殊なスキルに「管理者権限アドミニストレータ」っていうのがあって、その説明には「神意排他能力増幅機関システムにおける管理者権限」とあります。「管理者権限アドミニストレータ」の前は「権限」っていうスキルでこの時はレベルがありました。このスキルを取得する前からですが、ステータスの表示内容が変わり、他人のステータスさえ自分と同じように見られるようになりました。


「ということは、お主には拙者が持っているスキルの全てが判るというのか。」


失礼して参照させてもらい、サンクレイドさんの持っているスキルを列挙する。


「その通りだ。驚いた。しかも参照されたお知らせが届いておらぬぞ。」


それは「管理者権限アドミニストレータ」に変化したからかもしれませんね。まだ確認していませんがステータスの数値等も変更できそうでしたから。サンクレイドさんのです。

いずれにしてもステータスに表示される情報を誰もが同じものとして見られるということが重要で、その基準・規格を定めているものがあると考えるのが自然だと思います。

そして神意排他能力増幅機関システムが関与している最たるものがジョブだと思うんです。生まれながらに決定される闘士か学士はどうやって決めているんでしょうね。これについてはコインでも投げて表か裏かで決めているのかもしれませんが、問題は勇者の存在です。勇者はいつの世も世界に唯一人だったそうですね。勇者がこの世からいなくなると新しく生まれた赤ん坊が勇者になる。こんな芸当ができるのは神意排他能力増幅機関システムが全ての情報を把握しているからに他ならないのではないでしょうか。


「なるほど、反論できる材料を自分は今のところ持ち合わせていないし、十分納得できる説明だ。見事というしかないな。」


「あーしの情報はしょぼくて恥ずいっしょ。マジヤバくねー。」


「ポンコツのはずなのに頷くことしかできなくてなんだか悔しいのー。」


そうですか。なら余計な茶々は入れずに黙って聞いていてください。

でも、話も長くなったしちょっと休憩挟みましょうということになった。

各自、倉庫ストレージから好きなものを出して一服している。プリメーラさん、セットフィーネさん、ユイトセインさんは紅茶党で、男性陣とディスマルクさんはコーヒー党、キャトレーブさんはミルク、サンクレイドさんは緑茶、ヌフクールさんは当然のようにお酒だ。僕は、プリメーラさんが紅茶を用意してくれるというのでありがたくお呼ばれした。

カップを受け取る時にプリメーラさんの指先に触れてしまったが、どちらかというとプリメーラさんの方が当てに来た感じでちょっと驚いた。同じ長椅子の隣に座らされ距離もめっちゃ近いです。それを目聡く視界に捉えてセットフィーネさんがにやけた顔で囃す。


「プリム、親睦を深めるためにも口移しで「統べる者」に飲ませてやるのはどうじゃ。」


「な、何を言っておるのだ。そんなことできるわけないだろう。」


瞬間的に顔を真っ赤にして抗議しているプリメーラさんがとても微笑ましい。それを愛でながら美味しく紅茶をいただくが、気付くとユイトセインさんが僕の股間を撫でている。


「ん。」


だからその親指はなんですか。それとそろそろ僕のことは名前で呼んでいただけると嬉しいです。


「そ、そうだな。…カナタ、自分のことは「さん」なんて付けなくていいのだぞ。」


赤みの引いた頬を再度赤らめて少し照れながらそんなことを言うプリメーラさん。何、この可愛くて美しい生き物。思わず映像に保存してしまったけど、自分以外は綺麗に保存できない…おおっ、これでもかという絶妙の瞬間がばっちり保存されていた。永久保存だな。これも管理者権限アドミニストレータの賜物だろうか、それとも僕だけ特別仕様なのか。どちらにしても役得だ。良かった良かった。

うん、わかったよ。これからもよろしく頼むよ、プリメーラ。


「こちらこそよろしく頼む。」


どちらからともなく手を差し出して握手を交わす。とてもいい笑顔だ。もう一枚いただきました。

その光景に周りは驚天動地の大騒ぎだ。


「マジかよ。プリメーラが男の手を握ってるぞ。今日で世界が終わるんじゃねえのか。」


「プリム、やったではないか。既に股間を弄り合った仲だからな。できると信じていたぞ。」


そんな言い方すると、ほらプリメーラの視線が僕の股間に行って再び顔を真っ赤にさせる。ころころと表情が変わっていつまでも見てられるなあ。当然、もう一枚いただきました。


「おー。」


ユイトセインさんがが諸手を挙げて驚いている、のか。


「ついでにぶち抜いてもらうといいのー。イッてしまえばいいのぉ……そんな怖い顔で怒っちゃいやなのー。」


「間違いなくゴゴゴって音がしてるにゃ。」


脳筋男性二人組がディスマルクさんに対して合掌している傍でヌフクールさんは静かに酒瓶をラッパ飲みしてる。十英傑ってお笑い劇団だったのか。


「いい加減にしないとカナタっちが呆れてる系~。カナタっち、あーしのことはヌフって呼べしー。」


「あぁっ、ずるいにゃ。カナタ、うちはキャットにゃ。絶対にゃ。それ以外はネコパンチにゃ。」


「ん。」


はいはい、判りました。ユイトセインさんはユイですね。だから股間はやめましょうね。

サンクレイドさんと、セットフィーネさんも判ってるよなって顔でこっち見てるので頷いておく。男性陣はよく判らないので様子見だな。


茶番も済んだことで話し合いが再開となったが、暗い雰囲気が無くなったこともありこのままの打ち解けた形で進めることになった。でもヌフクールさんのお酒だけは持つだけにしておけよと言いつけられていた。


それでどこまで話したんでしたっけ。ああ、神意排他能力増幅機関システムが全ての情報を把握しているんじゃないかって所まででしたね。

あれ?ここで僕は違和感を覚えた。これまでだったら世界のあり方で何か変だよね、とか歪だよねって感じたことがあっても最後まで考え切っていなかったよね、ましてや思い出して続きを考えることなんてなかったなあ、ということに気付いた。気付いてしまった。


思い返してみるとこういった世界のあり方に疑問を感じて考えているといつの間にか他のことに気を逸らされていたような気がするんだよね。だけど今はそんな感じが全くない。これも「管理者権限アドミニストレータ」のおかげなのだろうか。とするとそこにも神意排他能力増幅機関システムの介入が疑われるんだけど。それが事実だとすると、何のためにそんなことしてるんだろう。そこで僕は更に恐ろしい考えに行き着いてしまった。


もしかして人間は飼育されているんじゃないだろうか、と。

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