第30話 創造の力

「俺様は勇者のことを少し調べてみた。勇者機構の資料によると魔王打倒に旅立った時の勇者の平均レベルは109。先代勇者が最高を更新して124の記録が残っている。俺様たちが現状レベル80前後であることを考えたら驚異的な数字だ。今の勇者は先日95を超えたと聞いている。このまま成長すれば恐らく最高記録を更新するだろう。だがしかし、それでも魔王に敵うかどうか。」


理知的な情報を提供してきたツヴァイクさんに皆が疑うような目を向けていた。それほど意外だったのだろう。

代を重ねるごとに勇者の育成については研究が進められてより良いものになっているようだ。共に闘う者たちも厳選され、経験も十分に積んで脂の乗り切った30代の人たちが選ばれる傾向にあるとのこと。前回、帯同したのは剣聖、槍聖、弓聖、賢者セージ聖者セイントは二人ずつの計七人で平均レベルは75だったとか。それでも誰も帰らなかった。

それ以上の強さにならなければ魔王の相手にすらならない…本当にそうだろうか。そもそも強さって何だろう。そこを深堀りしないといけないんじゃないだろうか。それを示唆してくれたのは次のことだった。


「今のままでは魔王を排除できないと判断していた、にも拘らず「大いなる存在」が我々にスキルを収集させたのは何故か。拙者はそこに疑問を感じていた。魔王を倒せないのはスキルが足りないからなのか、違うだろう。そうであればいずれ誰かが打倒してくれると期待して待つこともできたのではないか。しかし現状は何百年かけて裏口を作り、我々を送り込んでいた間もそれは成らなかった。単純にスキルの多さやレベルの高さでは太刀打ちできない強さが魔王にはあるのだろう。そして「統べる者」はそれを必ずや超えてくれるのだと思い、その時を待ったのだ。だが、…。」


問題は「統べる者」である僕が何をすべきかを知らないことですよね。そのことにについては身に覚えがないので本当にどうしようもない。これまでに夢でも現でもお告げを受けたこともないし、意味深なお手紙が届いたこともない。誠に遺憾であります。


「…お主は何も知らないという。拙者たちがしてきたことは無駄なのか。」


そんなに顔を曇らせないでください。

そうではないと思います。ここまで聞いて僕がすべきことの一つが判ったような気がします。その証拠というか成果をお見せしましょう。


「…本当にあるのか、そんなものが…。あるなら見せてもらおう。」


細工は流流仕上げを御覧じろってね。僕も初めてだから少し不安だけどね。だけどやるしかない。目標は部屋の扉の向こう。誰もいない、大丈夫だ。発動させると僕のカラダが淡い光に一瞬包まれて皆の前から消失する。


「なっ!?何処へ行った?」


「消えちゃったにゃ。隠れたとかそういうのではなさそうにゃ。」


「室内を高速で動き続けている…わけでもなさそうだな。」


「扉が開いた様子はなかった。自分たち全員の目から逃れるなどあり得ないことだ。」


そこまで考察が進んだというか無事に転移出来て僕自身が落ち着いたところで扉を開けて中に入る。

先程僕が発動させたのは「転移」のスキルで、転移門ゲートを利用した際になんとなく仕組みを理解して僕のスキルとして構築したことを説明する。


「本当に個人の力で転移したのか…。そんなの絵物語でしか聞いたことないでござるよ。」


「カナタっち、すげーし。他の人も一緒に転移できるの?」


多分、大丈夫じゃないかな。二十人ぐらいなら転移先の空間を把握することはできそうだし、余程特殊な場所を選ばなければ可能だろう。


「ん。」


ユイトセインさんが何事かしがみついてくる。これは一緒に転移しろということだろうか。

しょうがないなあ、ちょっと行ってきます。

ということで、どこにしようかな。転移門ゲートの所まで転移してみた。


「んっ。」


ユイトセインさんが目を見開いて感動している。戻りますよー、しっかり掴まってください。でも股間はやめてください。

十英傑の皆さんがいる部屋に戻るとユイトセインさんがみんなに親指を立てて何やら主張している。


「距離はどこまで…いや、そんなことより…お主がこのスキルを新たに生み出したということが言いたかったのだな。」


その通りです。これまでの話を聞いてふと思ったんです。魔王を排除できないのは何故か。「大いなる存在」が「始めの十人」にスキル収集を命じたのは何故か。そして僕が新しいスキルを作り出せることを結びつけるなら、魔王には普通に取得できるスキルでは太刀打ちできないのではないかと。皆さんが収集したスキルを僕に理解させることで新しいスキルを生み出させることが目的なんじゃないかと。


「なるほど、一理あるでござる。お主はどんなスキルでも作れるのか。」


それはこれからやってみないと分からないです。でも理屈とか仕組みとかときっかけさえあれば何となく出来るような気はしてます。

ついでに通知メッセージも僕が生み出したことを言ったら結構な騒ぎになった。


「なんと、あれもお前が作り出したのか。人から人に広がるスキルなどそれこそ聞いたこともない。」


「カナタっち、すげーすげー。ばちくそすげーよ。」


「ん。」


だからユイトセインはなんで股間を擦って親指立ててるんですか。もしかして褒めてるつもりですか。


「そうかそうか、アレのお陰でカワイ子ちゃんに連絡しやすくなって俺様の活動が楽になるぜ。ありがとうよ。」


「カナタ、このスケベ野郎の通知メッセージを使用不能にしてやるのー。ついでに小槍も使用不可能にしてやるのー。」


「まさかそんなことできるのか。頼むから勘弁してくれ~。」


変な方向に話が行ってる人もいるが放っておこう。

そんなバカ騒ぎの横でサンクレイドさんの目から光るものが流れる。


「そうか…良かった…拙者たちがしてきたことは無駄ではないんだな…本当によかった。」


僕が何も覚えていない所為で余計なご心配をさせてしまい本当にすいません。


「んじゃ、あーしからは「神意排他能力増幅機関システム」のことちょこっとだけ。これって元々はこの世界を侵略者から護るためにあったんじゃねーって話なわけー。「大いなる存在」以外にも似たようなのがいてー、そのうちの一人が潜り込んできて「神意排他能力増幅機関システム」を変えちまったってー考えてみた系。」


「んー、逆はないかにゃ。」


「妾たちが侵略者側ってことかえ。存外なことを言うではないか、キャット。」


「一方的にうちらが正しいと主張するのはどうかにゃーってすこーし思っただけにゃ。」


「そうだな、俺様も嘘で塗り固めたことを真実と思い込まされている可能性を考えなくもなかった。」


ちょっと暗い雰囲気になってしまった。皆大なり小なり思っていたことではあったようだ。

ところで「神意排他能力増幅機関システム」って結局のところは何なのでしょう。


「うーん、その名前だけは確かに「大いなる存在」から聞いているけど詳細は聞いた覚えがないのー。」


「改変されたとか、元に戻せということは「もの」ではないのだろう。「もの」であれば元に戻せではなく、取り戻せだろうからな。」


そういう点で言えば、僕には情報が一つあった。権限LVのことだ。実は、十英傑から力を貰っている時にこのレベルを上げていたんだよね。途中でLV10を超えて上がるからどこまで上がるんだってちょっと不満気に思ったら別のものになっちゃいました。その名も「管理者権限アドミニストレータ」。やっちまったなぁ。

説明を見ても相変わらず意味が分からない。「神意排他能力増幅機関システムにおける管理者権限」だとさ。でもステータスの表示は様変わりしている。


名前:カナタ

生年月日:AS968.9.3(16)

生地:アムラダ

レベル:30 [+]

ジョブ:戦豪


活力:174.3/174.3

気力:121.5/156.5


攻撃力:90.9

防御力:89.3

魔効力:73.3

抵抗力:34.4

機動力:83.3


STR 70 [+]

INT 66 [+]

AGI 76 [+]

VIT 68 [+]

DEX 73 [+]

LUC 106 [+]


MP 420312


スキル:[+]、断撃LV4 [+]、衝撃LV1 [+]、抉撃LV1 [+]、強射LV1 [+]、重撃LV1 [+]、連撃LV4 [+]、全身全霊LV1 [+]、……


さてさて、何から確認するべきか。

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