第27話 冷静お姉さん

「お主、なかなかやるではないか。」


冷静お姉さんの前にはぐったりとしてあられもない姿で横たわる妖艶お姉さんと猫お姉さん、無口お姉さんにお酒お姉さん、ディスマルクさんがいた。

魔眼を発動してこれでもかと弱いところを責め立てれば呆気なく力を手放してしまったのだ。どうやらディスマルクさんもそうだったが、皆さん初めてだったようで刺激が強すぎたようだ。最初にイッちゃったはずの猫お姉さんは未だに痙攣している。


「次は拙者がお相手仕る。いざ、推して参る。」


なんで勝負するみたいに言ってるの。何が始まるの。


「お主、人によって違うところを攻めておったようだが、拙者はどこを突いてくるのだ。」


じっと見てただけあって冷静お姉さんはちゃんと判っていたようだ。ちなみに魔眼に依れば冷静お姉さんは今は右の首筋が弱点のようだ。そう、魔眼の情報は刻一刻と変化して最も弱い部分を教えてくれるという使い方もできるのだ。ただし今は倒すわけではないので力任せに攻めるのではなく、時に触れるか触れないくらいに撫で、時に跡が残るくらい強く吸い、緩急もつけて攻略するのだ。魔眼の情報に従い冷静お姉さんの手を取り引き寄せると優しく首筋に舌を這わせる。


「おおう、ぞくっと来たぞ。いいぞ、もっとだ。」


次は右の二の腕の内側と右の鎖骨の窪み辺りに印があるので、指の腹でそっと腕を撫で、鎖骨の方を舌先で突くようにする。


「思わず身を捩りたくなるぞ。くうっ。」


その後も魔眼の情報を主軸に責め立てる。


「なぜ、右ばかり攻めるのだ。左が凄い切ないぞ。ほれ、左乳も揉んでくれ。揉んでくれぬのなら自分で…こら、腕を抑えるな。揉ませるのだ。はうっ。」


左の手首を掴んで自由を奪う。体を捩って僕に擦りつけようとしてくるのをうまく躱し冷静お姉さんの左側に極力刺激を与えないようにする。


「右はもういいのだ。左だ、左をしてほしいのだ。はあああん。」


限界まで焦らした後に左の乳首を強めに捻りあげると軽く果てたようでカラダをビクンビクンと震わせる。そんな彼女に追い討ちをかけるように一気に突き立てる。


「あ~~、今はダメなのだ。ひぃ、すごいのが来る、来ちゃう、来ちゃう、来ちゃう、あああ~~~~。」


無事、冷静お姉さんからも力を貰うことができた。

残るは恥ずかしがりお姉さんだけだ。彼女の方に向き直ると若干怯えているようにも見える。


「こ、来ないでくれ。こんなものを見せつけられては自分ではとても耐えられる自信がない。」


耐える必要なんかないですよ。さっさと力を渡すか、身を委ねるか選べばいいだけです。

相変わらず両手で顔を覆っているが指は大きく開いたままだ。


「た、頼むからその…ブラブラさせているものを仕舞ってくれないか。」


了解です。しないで力を渡してくれるんですね。はい、服を着ましたよ。握手でいいですか。

手を差し出しても握ってくれない。


「…自分は不器用で剣だけに打ち込んできて「統べる者」を待っていた。「大いなる存在」の意志に従い「統べる者」に力を渡すのは当然のことだ。だが、その後はどうなる。自分たちはもう必要とされないのか。この先、自分はどうしたらいいのだ。」


何も事情を知らなかった他の「捧げる者」とは違い、「始めの十人」はスキル収集っていう使命を帯びて送り込まれたってディスマルクさんが言ってたっけ。しかも最終的にどうするかは伝えられないまま。僕と今日会うまでの長い年月を不安に苛まれながら過ごしていたのだろうか。それをディスマルクさんが謀ったとは言え、いきなり押しかけた僕に無条件でカラダを差し出せみたいな展開になっては戸惑いもあっただろう。大変申し訳ないことをしてしまった。


「今、こうしていてもお前に縋りつきたい衝動ととてもそんな破廉恥なことはできないという狭間でせめぎ合っている自分がいるのだ。…自分のことばかりだな、すまない。」


改めて見ると恥ずかしがりお姉さんは絶世の美人さんだ。その頬を涙が伝って零れ落ちる。これはきゅんです。きゅんきゅんです。

思わず一歩近づいて抱きしめようとするが、するりと躱される。おろ。


「プリムは二つ名を不可侵剣聖。男が苦手で避けまくってるだけって話もあるから触れるだけでも一苦労だぞ。」


冷静お姉さんがだらしなく涎を垂らしながらも教えてくれる。

何とか捕まえてみようと近寄ってみるが、一定の距離以下には決して近づけない。さすが剣聖といったところか。

触れないで力の譲渡ってできるんだろうか。うーん、できるならこれからの計画にも活かせそうではあるが、なんか無理な気がする。


「すまない…さっきまでのアレを見せつけられるとどうしても…。」


そうか、恐怖心を植え付けてしまったか。あー、それならアレやってみますか。ということで一旦退室する。


「プリムもサンクもよくアレを目の前にして冷静でいられるのー。会って速攻大洪水だったのー。」


「拙者は平常心を保つことを常としているからな。だがしかし、これはこれでなかなかいいものだな。貫かれた時は桃源郷が見えたぞ。今一度、仕合ってもらいたいものだ。」


「自分は冷静でなどではない。激しく行ったり来たりする情動が辛うじて男を避ける方が勝っていただけだ。「捧げる者」としての使命も果たせず情けない話だ。」


「プリムを縛りあげて身動きできないようにしてしまえばいいのじゃ。」


「剣で語り合うのはどうかにゃ。」


「酒の力を借りるってのはどうなのさ。」


「お主たち、ようやく戻ってきたか。」


「ん。」


「そうね、だけどまとめてイカされたのはちょっと悔しいのじゃ。誰も「統べる者」をイカせられていないのじゃ。」


「あうー、天国にイカされたにゃ。」


「飲み過ぎて記憶を失くした時より心地良かったのは間違いない系~。」


「ここはひとつ、「始めの十人」の筆頭としてプリムに「統べる者」を打ち負かしてもらおう。」


「む、無理だ。自分なんかが敵う相手ではない。それ以前に触られることも触れることもできんのでは話にもなるまい。」


「そんなこともないのじゃ。こんなに立派なものを持ってるんだからその気にさえなれれば、ねえ。」


「ひゃっ、こ、こら、セッティー、胸を揉むな。」


「女にならなんとか気を許せるから私たちが抑えてる間にぶち抜いてもらうのー。それか薬でも盛ってアヘらせるのー。」


「自分を敵に回したいのか。それならそれで構わないが。」


「ちょっとした冗談なのー。そんな怖い目で見ないで欲しいのー。」


「ゴゴゴって音がしそうだったにゃ。」


「セッティー、いつまで揉んでいる。そろそろ離れてくれないか。そしていい加減服を着ろ。」


「はいはい。ところで「統べる者」はどこまで行ったのじゃ。諦めて帰ってしもうたか。」


僕が部屋に戻ったのがこの時だった。


「おい、お主。今取り込み中だから後にしてくれないか。」


冷静お姉さんが僕に近づいてきて部屋から退出させようとする。よし、今のところは気付いていないようだ。はい、お察しの通り隣室でエクセラとの経験を活かして化けてきました。さすがに声を出すとあっという間にばれそうだから他の人が協力してくれないと成功しないと思う。なので、冷静お姉さんを取り込むことから始めよう。近寄ってきたところに耳打ちするとぎょっとして僕を二度見している。こらこら、ばれるから最初の時のように冷静にお願いします。


「ほう、なるほど。そういうことか。相分かった。」


冷静お姉さんは大きく頷くと僕を連れて皆の所へ戻る。


「先ほどセッティーには気心が知れてることもあり逃げずにカラダを触らせていたように、「統べる者」ともそういう関係になれれば触らせることもできよう。しかし、そこまでになるには何年かかるか分かったものではない。ということで、先ずはこの見知らぬ娘から慣らしてみるというのはどうだ。」


「触られることに嫌悪感を失くすところから始めようというわけじゃな。やってみるのじゃ。」


「この娘がダメなら見知った者に代えて徐々に試せるしー。どうなの、プリム。」


妖艶お姉さんとお酒お姉さんも気付いていないようだ。しかも話に乗っかってくれている。いいぞ。


「そうだな。少しずつでも進まないよりは増しだな。挑んでみよう。よし、娘、妙なことを頼んで申し訳ないが頼む。」


お、恥ずかしがりお姉さんは意を決したようだ。ここまでくれば焦らずじっくりと攻略するとしよう。いきなり直に触れることは試みず、物を介してから始めてみようか。ということで、フィオレンティーナさんから譲り受けた羽箒を取り出す。


「それはなんじゃ?ほう、いきなり手で触れるのではなくて、それで触れてみようというのじゃな。其方気が利くのじゃ。」


皆の視線が僕が持つ羽箒に集まる。これで視線が僕の顔から外れることでばれにくくなり一石二鳥だ。

羽箒が恥ずかしがりお姉さんの左腕前腕部に徐々に近づく。あと5㎝、3㎝、1㎝。皆の生唾を呑み込む音が聞こえそうなくらい静まり返る中、無事に羽箒は恥ずかしがりお姉さんの腕に触れることができた。


「やったにゃ。大成功にゃ。」


「やったのじゃ、プリム。」


「ふう、何とか踏ん張れたようだ。」


そんなに大騒ぎするほどのことなのか。人類にとっては取るに足らない小さな一歩だけど、恥ずかしがりお姉さんにとっては大きな一歩だったようだ。

まあいい、このまま次段階に進むとしよう。

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