第25話 転移門

次の日、さすがに回数が堪えたのか体が怠かったので昼近くになってからの行動開始にした。

胃の中に倉庫ストレージから出したものを適当に放り込んでライラの店に向かう。


昨日話したこの世界での十代の過ごし方には続きがある。15歳で形式的には見習いが取れるわけだが、そこから5年を目安に探索者として生きていくかの見極めをすることになる。様々な支援があるとは言っても危険であることには変わりはない。油断したり対策を怠れば、最悪死に至ることもある。僕のように一人で活動するなら尚更だ。

探索者は基本的にダンジョンに行って魔物を倒しドロップしたものを売ることで生計を立てている。なので、自分と仲間の力量でどれぐらいのドロップを得られるかの見極めが必要で、大した稼ぎにならないと見切りをつけると他の働き口を求めるようになる。

ただし、ステータスを向上させることは他の働き口でも有効なことが多いので、まったくダンジョンに行かなくなるというのも稀だ。逆に、身に付いたスキルを有効に使うことで事業を起こしたりして成功する例もある。例えば、薬師などは質のいい薬を調合できるようになればいい値で売れるようになるので副業的に探索者をしている人が多い。単純な割合で言うと、20~50歳の三割ぐらいが探索者を主軸にしていると思う。50歳を過ぎると体力の衰えを感じるようになり、キリが良いこともあり引退する人が多いみたいだ。引退した後は、学園で後進の指導をしたり、それまで稼いだ財産で悠々自適に過ごすなど人それぞれだ。

僕はこれからどんな人生を歩むのかな。必ず勇者と共に魔王を倒して生き延びてやる。二十歳にもならずに死んでたまるか。そのためにも十英傑からいろいろと情報と力を貰わないとな。


「遅いぞ、カナタ。」


ライラは店の前で待っていた。


「こっち来い。じゃーん、ライラ特製カナタ専用ジャケットだ。普段使いも可能な優れものだぞ。格好いいだろ。身に着けてみてくれ。」


自動二輪から降りる暇も与えず引っ張っていこうとするので、手早く自動二輪を倉庫ストレージに格納して店内に入るとなかなかお洒落な感じの上着があった。


「予定通り六属性に耐性のあるものに仕上がったぞ。弱い魔法なら腕とかで受けても何の問題もないはずだ。動きにくいところとかないか。」


さすがギアードでも五指に数えられたこともある防具職人だ。何の違和感もない。

そう言えば、ギアードっていうのは中央大陸の西側の一帯を指して言うときの呼称だ。有史以前のずーっと昔には国っていうのがあって、その時の名残というか通称というかそんな感じのものらしい。ここミースとノーマン、タルテスの三大都市とその周辺都市がギアードに含まれている。国があった頃には都市以外の空白地帯にも人がいたみたいだけど、今はよほどのもの好きでもない限り都市の外には住んでいない。

本来の僕の予定ではミースで一定の成果を上げたらゼノビアのグレースを経由して世界最大都市であるアメインを目指すはずだったんだけどどうなることやら。ゼノビアっていうのはギアードと同じように中央大陸の真ん中を占める地域をまとめた呼び方だ。残りの東側はレーシアって呼ばれてる。ゼノビアのアメインはダンジョンを5つも抱え人口二千万人超の文字通りの世界最大都市だ。武者修行を始めた時から行ってみたかった場所の筆頭でもある。


「おーい、カナター。聞いてるかー。ぼーっとしてると全部脱がしちまうぞ。」


いかんいかん。ライラの前でぼーっとするなんて猛獣の前で隙を晒すようなもんだ。

見た目としても気に入ったことを感謝を込めて伝える。


「そうかそうか。気に入ってくれたか。お礼はカナタのカラダでいいぞ。じゃあ早速…。」


こらこら、奥へ連れ込もうとするな。


「えー、この十日間頑張ったのにー。お披露目にも行かずに我慢して仕上げたのにー。カナタの張形造ってひとりエッチで慰めてたのにー。」


そういえば、沿道でも見かけなかったし、列にも並んでいなかったな。ちゃんと仕事してくれたんだ。って、え?何作っちゃってくれてるの。


「これが一番ギンギンになった時で、これが一番かわいい時の大きさ。こうやると段階的に大きさと硬さが変わるからすごくいい感じで使えるんだぞ。」


何、その無駄に凝った再現。恥ずかしいから見せないでほしいんだけど。


「すっごくいいからカナタの名前付きで売り出していいか。絶対に人気が出るぞ。」


それだけはやめてください。お願いします。


「なら、やることは判ってるよな。」


そう言って満足気に笑みを浮かべるライラの顔は正に至福と表現するに相応しいものだった。


◇◆◇


「そうか、ミースを離れるのか。残念だがこれで永遠の別れというわけでもないだろ。そうだ、カナタの防具は私が全面的に担当したいから勇者機構に口添えしてくれると嬉しいな。」


ライラ、いいやつだな。


「今日の感触で『マイ・カナタくん』がもう一段階性能を上げられそうだしな。良かった良かった。」


前言撤回します。絶対売るなよ。絶対だからな。売るなよ。売れってフリじゃないからな。売るなよ。


「根元をぎゅってしてやると硬さが増すのとか再現できるといいな。やってみるか。」


もしもーし、技術力を無駄に使ってませんか。でも自分じゃ良く分かんないけどそうなんだ。すごく恥ずかしいぞ。


「後はな…。」


あーあーあー。聞こえなーい。それ以上は言わなくていいでーす。


「しょうがない。私が個人的に楽しむのに止めておいてやろう。」


そうしてください。お願いします。武士の情けじゃ。

そう言えば、武士ってジョブないな。武士は刀を使うらしいけどそれは刀士があるし。クラスアップしても他の武器種と同様に刀豪、刀王、刀聖ってなるんだよね。戦士は戦豪、戦王、戦聖じゃなく武豪、武王、武聖になるから不思議だ。これって誰が決めてるんだろう。僕はスキルを新しく作っちゃうからジョブも新しく作れたりできるといいな。


「次はライラ特製カナタ専用下着を作成予定だ。それと併せて『マイ・カナタくんⅡ』ができたら送るから是非感想を聞かせてくれ。」


僕はそれをどう使えばいいんですかっ。万が一、本当に送る時には厳重に包装して中身が判らないようにしてくださいね。

さて、ちょっと早いけど遅れて夜通しでする羽目になるのも嫌なので、ディスマルクさんより先に行って待つことにしよう。


こんなに近くで転移門ゲートを見るのは初めてだ。

扉には複雑な文様が彫り込まれていて文字のようにも見えなくもないが意味があるのだろうか。超常的な力を生み出す魔法とか秘術とは似て非なるものなのかなぁ。転移を一度経験したら何か判るといいな。


「カナタさんは転移門ゲートを利用するのは初めてですよね。今回は勇者機構本部のあるフォルティスに行っていただきます。ディスマルク殿からの通知メッセージで他の十英傑の皆さんも既にお集まりいただいているそうです。8P楽しみですね。」


フィオレンティーナさんも人が悪い。


「折角、愛称で呼んでいただけるようになってこれからが私のお楽しみの時間だったはずですのに、突然ミースを離れられてしまうんですもの嫌味の一つも言いたくなるということですわ。」


ちょっぴり拗ねた態度でそんなことを言う。何それ、超絶かわいいんですけど。


「前にも少しお話しましたが、「捧げる者」をそれぞれの大都市に集める計画が進行中です。日程は十英傑との面会を済ませた後に決定される運びとなっております。」


一転、お仕事モードになってきりっとした表情になる。そっちも相変わらず素敵ですよ、フィーナさん。


「その計画主任もしてますので、その…役得を期待しています。」


愛称で呼んだことにほんのりと頬を赤らめて反応するフィオレンティーナさんがまた可愛い。ドSなのに。実は演じてるだけだったりするのか。

全世界の地図マップの情報があれば「捧げる者」の情報は渡せるはずだが、一万人超の情報となると手作業だと限界があるだろう。僕から通知メッセージを送る分には一斉送信できるんだけどなあ。そのあたりも含めて計画を立ててもらおう。それとライラのことも伝えておく。もちろん張形のことではなく防具担当の件だ。


「彼女も「捧げる者」だったんですね。歳が近いからよく知ってますよ。ギアードでも五指に数えられることもありましたしね。腕が錆びついていないなら何も問題ないでしょう。近いうちに会いに行ってきましょう。彼女の腕ならいろいろと造れるかもしれませんしね。」


あ、今悪い笑みを浮かべましたね。まさかライラと同じ発想してないですよね。一体何を造らせる気ですか。あれだけは勘弁してくださいよ。


「フフ、内緒です。」


二人を引き合わせる形になったのは失敗だったかもしれない。ちょっと後悔しているとディスマルクさんが現れた。


「フォルティスで8Pするのー。」


この人、本気で言ってるな。

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