第22話 錬金王ディスマルク
扉から入ってきたのはフィオレンティーナさんが言っていた通りに小さくて可愛いほよんほよんした印象の女性だ。身長は140cmぐらいだろうか。紫がかった灰色の髪がツインテールにまとめられている。
「あなたが私に会いたい…。」
僕と視線が合って十英傑が固まった。いつものことだが次の展開はいつも通りではなかった。
「あ~~~~~、すべるもの~~~~~~!!」
僕を指さして叫んだかと思うと突進してきて抱き着いてくる。勢い余って身長差があることも災いして僕が鳩尾に頭突きを喰らう形になってしまい、一瞬気が遠くなりかける。
「あうー、頭痛いのー。でも、やっと会えたのー。これで楽になれるのー。あと、抱いてほしいのー。」
なんかゆっくりした口調の割りに怒涛の勢いで喋ってくる。そしていそいそと脱ぎ始めないでほしい。
それに結構重要なこと言ってませんでしたか。僕が「すべるもの」みたいなこととか。
「そんなことはどうでもいいのー。早くひとつになるのー。」
随分と取り乱しているようで、自分が脱ぐのも中途半端に僕を脱がしにかかってくる。仕方なく身長差を活かして十英傑を持ち上げてしまうと、じたばた暴れ出す始末だ。
「こんな扱いはひどいのー。拒む理由はないはずなのー。」
あのー、ちゃんと説明してくれたら悪いようにはしないので、まずはお話しませんか。
「なんで説明が要るのかわからないのー。まさか記憶がないのー?」
記憶?なんのことだ。
「うーん、「統べる者」以外は席を外すのー。」
案内してきた女性も「紫」だし無関係ってわけでもないんだけど、ここは十英傑の言うとおりにした方が良さそうだ。
床に下ろしてもそれ以上は暴れないようなのでフィオレンティーナさんに目配せして下がってもらう。
「畏まりました。カナタさん、隣室に控えておりますのでご用の際は通知(メッセージ)でお知らせください。」
二人が出ていくと改めて十英傑と正対する。椅子に座るように促し、僕も向かいに座る。
「とっとと理解してひとつになるのー。「統べる者」はどこまで理解してるのー?」
正直なところ何一つ理解できてないと思います。まず、その「統べる者」ってなんでしょう。
「えー、話が長くなりそうでいやなのー。先に一発済ませるのー。」
見た目に似合わず、ド直球な物言いにちょっと引いてしまう。
前に身を乗り出してくるので体の小ささに似つかわしくないたわわな胸が中途半端に開けた服からポロリしそうでけしからんです。じゃなくて、頑張って理解するので手短でもいいので説明お願いします。
「焦らされるのはつらいのー。「統べる者」はそうやって女を甚振る悪趣味やろーなのー。」
酷い言われようだ。
我慢できないのか十英傑はその間も自分の胸を揉みしだき股間に手を伸ばし自分を慰めにかかる。
目は潤み、溢れる欲情が露となって彼女の太腿を濡らす。
しょうがないなあ、先っぽだけですよ。
◇◆◇
当然、先っぽだけでは済みませんでした。何度も果てたように見えてそれでも「紫」にならず、最後の最後で流れ込んできた力はこれまでに比べようもない量でスキルもさすが錬金王ならではと思わせるものがいくつも生えていた。
「はふー、すごいよかったのー。貯め込んだ分全部捧げられたのー。「捧げる者」の本懐を遂げられて満足なのー。」
さり気なく重要なこと言いましたよね。もう、ちゃんと説明してくださいね。
「「統べる者」は何も覚えていなくて役立たずなのー。でもアソコだけはそそり立って良かったのー。」
はいはい、そういうのはいいから先に進めてください。
「「統べる者」も「捧げる者」も「
は?
えーと、僕が「統べる者」だとして、うーんうーん、「捧げる者」が「青」なのか?それが元々は一つって分裂でもしたのか?そんでもって「
「「統べる者」ポンコツなのー。「大いなる存在」も手抜きしすぎなのー。あほなのー。」
またさらっと大事なこと言ったよね。もう少し詳しくお願いします。
「私達「捧げる者」は「大いなる存在」から分かたれた存在なのー。最後に送り込まれる「統べる者」は「捧げる者」が持つ力を統べることで「大いなる存在」に匹敵する力を得て魔王を排除し、「
何、そのとんでもない話は。エクセラとかも言ってたけど、僕に力を与えることが使命みたいに感じるとは言ってたけど、まさかそこまでだなんて。「捧げる者」は知ってて当然の話なのか。
「「始めの十人」は間違いなく知ってるのー。私は十番目なのー。「始めの十人」は十英傑なのー。多分、「大いなる存在」は途中からめんどくさくなって記憶を埋め込むの手を抜いたのー。あほなのー。」
げ、十英傑が全員「捧げる者」ってどんなだよ。
ああ、それで「統べる者」の僕に力を与えることを優先しているから勇者の申し出を断っていたのか。ちょっと納得した。
「「大いなる存在」は異世界からも魂を召喚して転生させたりもしたけど今の魔王を倒せなかったのー。どうやら今の状態ではどうしたって魔王には勝てないと悟ったのー。」
情報が多いなあ。
「大いなる存在」が直接的に魔王をどうにかすることはできなかったのか。
「「神意排他能力増幅機関(システム)」が変更されて本来の管理者である「大いなる存在」の介入を遮断されたのー。」
どんどん驚愕の内容が出てくるな。確かめようがないけど事実なんだよな。
「魔王に都合のいいように変更された「神意排他能力増幅機関(システム)」に数百年かけてなんとか裏口を作ることに成功したのー。そこから「大いなる存在」の力を与えた分け身である「捧げる者」を送り込み始めたのー。」
そうか、十英傑が「始めの十人」で三十歳だから十五年ぐらいかけてこつこつと送り続けたから一万人を超える「捧げる者」がいるんだ。計算すると…大体一日に二人ってところか。最後に送り込まれた僕より年下がいないのもそういうことか。
「三十年捧げられなくて溜まりに溜まってたのー。「始めの十人」はスキルを収集することは言いつけられてたのー。」
それでさっきの力の流入の時にいくつもの錬金王由来っぽいスキルが生えたのか。
「「
僕はダメな子だったんだ。あほの子でごめんなさい。生きててごめんなさい。
「大丈夫なのー。頑張って「
もしかしなくても新しいスキルを生み出す力はその一端なのだろうか。
それと怪しいのは「権限」だな。上げるのを躊躇っていたけど、これは上げた方が良さそうだ。
他はどうすればいいんだろう。ただレベルを上げるだけでは勇者に追いつかないと思ったようにダメな気がする。
「とりあえず十英傑全員に捧げさせるのー。他の「捧げる者」にも捧げさせるのー。でもその前にもう一回このカラダを鎮めるのー。」
容赦なく手籠めにされた。
◇◆◇
「私達はそういう存在だったんですね。正直信じられないです。」
フィオレンティーナさん達を部屋に呼び戻し、一通り説明した後の第一声がそれでした。
「でも、カナタさんと元々は一つの存在だったならそれはそれでいろいろ想像して楽しめますね。」
何を考えているんですか。なんか恥ずかしいのでやめてください。
「「捧げる者」は「統べる者」に吸収されたりしないですか。元の一つの存在に戻るようなことはできないのでしょうか。」
何それ、想像すると怖いんですけど。食べちゃって吸収するとか、溶け合って再結合するとか、変形して合体するとか、もはや人間じゃないよね。
「「統べる者」が全ての鍵を握っているはずなのー。「始めの十人」にも具体的なことは知らされてなかったのー。」
うーん、今のところ力を貰う以上に「捧げる者」との関係性は判ってないんだよなあ。「大いなる存在」とやらの力を引き出すにはどうすればいいんだろう。ディスマルクさんが言ったように、まずは十英傑と会うのがいいのかなあ。
「そうであれば勇者機構の本部にディスマルク殿と一緒に行かれるのがよろしいかと思います。」
勇者は一緒じゃなくていいよね。めんどくさそうだし。
「はい、引き止めておいて別口で送り返します。」
フィオレンティーナさんは容赦ないな。よろしくお願いします。
「うふふ、十英傑は残り六人も女性がいるからお楽しみですね、カナタさん。」
何その薄ら笑い。何とか穏便に済ませられないかなあ。
「私も入れて8Pで一気に済ませるのでもいいのー。お楽しみはこれからなのー。」
「戻られる前にこの場で4Pはいかがですか、ディスマルク殿。」
「それはとてもいいのー。8Pの予行演習なのー。」
また手籠めにされた。
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