第21話 フィーナの手腕

「どうやら映像でも十分に「青」の覚醒効果があることが確認できて良かったですね。」


「ふむ、その「青」と呼んでいる者が世界中に一万人以上もいて、私とフィオレンティーナもその内の一人というわけなんだな。」


「「青」の力を結集できればカナタさんの大いなる後押しになることは間違いないでしょう。」


「勇者機構でもできる限りの協力をさせてもらおう。まずは通知メッセージを拡散するところからだな。」


ついさっきまであんなに淫らに悶えていたのに、きっちり仕事の顔に戻っている二人が凄いです。二段重ねが脳裏にチラついて僕はまだ平常心になりきれません。


「今ミースには残り二人の「青」がいて、どうやらギルド長官と十英傑のディスマルク殿のようです。」


「なんと、ディスマルク殿もそうなのか。ギルド長官は男だから無難に済むだろうが、ディスマルク殿は大丈夫だろうか。」


何か問題でもあるんだろうか。まあ、十英傑が取り乱すところなんか滅多に見られないだろうし貴重な機会ではあると思うけど。


「いや、その、何と言うか…自分のことを棚に上げるようだが…いろいろ拗らせてなければいいなと思ってな。」


拗らせるとはどういうことだろうか。


「正直に言おう。私は処女だったんだ。失う機会はあったんだが、何故か踏み切れなくてこの歳になるまで温存してしまったんだ。だが、やっと分かった。カナタ殿に捧げるためだったのだと。」


「あら局長、奇遇ですね。私もカナタさんに処女を捧げました。」


お二人ともあれだけ独自の世界をお持ちなのに一線は超えていなかったんですね。


「それとこれとは別というか、人間だから欲情することもあるし、発散はさせないとな。」


ライラとかエクセラもそうだったとしたらあの独特な性癖にも納得できたりするんだろうか。


「それで局長、ディスマルク殿はどうしましょう。お引き合わせしてもよろしいのでしょうか。」


これまでの話からするとディスマルクさんは女性なんですね。


「私達が二人の接触について否諾いなせを判断するべきではないと思う。カナタ殿にお任せしよう。」


「では、接見を望まれるなら然るべきお部屋をご用意するということでよろしいでしょうか。」


「いいだろう。ということだカナタ殿。十英傑を手籠めにする時には特別な部屋を用意するので安心して臨まれよ。」


言い方がおかしいです。それに僕如きが十英傑を手籠めに出来るわけないじゃないですか。どちらかと言えば手籠めにされるのは僕なんじゃないでしょうか。


「そんなこともないだろう。聞くところによると勇者も悦んで足を開くそうじゃないか。その時も遠慮なく言ってくれれば部屋を用意しよう。」


身も蓋もない言い方するなあ。それより勇者の躾はちゃんとしてください。お願いしますよ。

それはさておき真面目な話、十英傑には会った方がいいだろう。勇者に同行できない理由の「すべるもの」がどうのこうのっていうのも「青」の十英傑なら詳しく教えてくれるかもしれないし。ということで、ディスマルクさんが地下迷宮から戻ったら良きに計らってもらうことになった。ついでにギルド長官にも連絡していただいて会う手筈を整えてもらうことにした。


「任された件は全て滞りなく処理しておこう。残りの「青」のことはこちらでも方策を検討してみよう。」


頼もしい局長だ。礼を言って局長室を辞去しようとするともう一声かかる。


「それと、私のことはティアと呼んでくれると嬉しいぞ。ご主人様。」


やや顔を赤らめて言うその表情に彼女の素を垣間見た気がした。愛称で呼ばれたいなんて可愛いところもあるじゃないか。


「それじゃあ、私はフィーナって呼んでくださいね。」


ちゃっかりフィオレンティーナさんも乗っかってくる。まあ二人とも長い名前だし、内輪だけの時ならいいかと応じておく。

さすがに真夜中を結構過ぎているので今日のところはこのまま勇者機構で休ませてもらうことにして部屋をあてがってもらった。


用意してもらった部屋の寝台に横たわり、今後の自分の育成計画を考える。

今日の握手会で大量の力を貰い、キリのいいところまでスキルが育ったからだ。

当初の予定通り倍速を取得し上位スキルの閃光にし、攻撃系の基本である斬撃、打撃、刺突、射撃は全て上位スキルに到達し、一撃の強さを求めて強撃と渾身も上位スキルにしてある。その後は魔法、秘術、調合、錬成をLV9まで伸ばし、八属性はLV3にしてある。他にもいろいろスキルは増えたがほとんど伸ばしていない。

魔法や秘術などをLV9止まりにしてるのは戦闘系としてこれ以上は不要かなと思ったのと、究極の器用貧乏になることを恐れたためだ。

方針としては大きく分けて二つ、戦闘系スキルを中心に増やし伸ばすか、戦闘だけでなく何でもできる万能型にするか。武聖を目指すとは宣言したけど、具体的にどうすれば武聖になれるのかは分かっていない。どのジョブも二段階目のクラスアップまでは大体こんな感じだろうというのは推測ができているが、それ以上になると到達している人も少なくなり、気が付いたらクラスアップしていた等ということもあり詳しい条件は判明していない。武聖に至るには戦闘特化でいいと思うんだけど、今の勇者の戦闘力に追いついた時には更に成長しているだろうし到底並び立てるようになるとは思えない。勇者に比するくらい強くなるにはこのまま段階を踏んでいてはダメな気がする。そもそも世界に唯一人の勇者に年下の僕が追いつこうとすること自体が無謀なのか。いや、僕にはまだ一万人の「青」がいる。彼等の力を借りられれば或いは。そうだな、手始めに勇者のスキルを僕に生やすことができれば少しは近づけたりしないだろうか。今度改めてステータスを見せてもらおう。他は取り敢えず、攻撃系の基本をさらに上位スキルにすることを目指すことにしよう。

そこら辺で記憶がなくなっていて、式典の疲れに二人相手にしたこともありぐっすり眠れたようだ。


翌朝、フィオレンティーナさんから通知メッセージが届いた。ギルド長官と会う手筈ができたので指定の場所に来てほしいという内容だった。相変わらずの手際良さに脱帽です。

あ、そうだ。通知メッセージと言えば、拡散することが決まったのだからエクセラから友人にも伝えてもらって拡散に一役買ってもらおう。ということで、その旨を送っておく。

朝食を済ませてギルド長官に会いに行くと、思いのほかすんなりと進んで力を貰った上にミース限定ではあるがギルドをあげての協力も得ることができた。立ち会っていたフィオレンティーナさんがここでも手腕を発揮していろいろと話をまとめてくれた。

ギルド長官との会談の最中から通知メッセージが少しずつ届き始めて通知音が煩わしかったので鳴らさないように設定したんだけど、いつの間にか他の都市の「紫」からも届いていて拡散の早さに驚いた。この分ならあっという間に世界中に拡散することだろう。

ちなみにギルド長官は三十歳と言っていたが、苦労人なのか年齢より十歳ほど老けて見えた。


「先ほどディスマルク殿一行が地下迷宮からお戻りになり、ひと休みしたらお会いしてくださるそうです。」


いよいよ十英傑とご対面か。ちょっと緊張するな。


「私も立ち会いますので大丈夫ですよ。局長の時みたいになれば全力で一肌脱ぎますので。」


渾身の笑顔でそういうこと言われても、なら安心だとはならないですよ。

フィオレンティーナさんと二人で十英傑と会う部屋に向かう。どんな人物なんだろう。


「一言でいうと小さくて可愛らしい方ですね。年は局長と同じく三十だったはずです。ジョブは錬金王ですね。今回はご自身が納得のいく素材を入手するため、自ら護衛を引き連れて探索にいらしたようです。」


学士から派生する薬師がクラスアップすると錬成士、さらにその上が錬金術師、その上が頂点とされる錬金王だ。そこまで辿り着くにはどれだけの努力をされたのだろうか。そこら辺も教えてくれると嬉しいなあ。


「まだディスマルク殿はいらっしゃっていないですね。部屋の中で待ちましょう。」


フィオレンティーナさんはそう言って部屋に入るとすぐに飲み物を用意してくれる。

飲みながら通知メッセージの差出人を確認していると母親の名前があったので簡単に返信しておいた。


「この調子なら明日にも世界中に行き渡りそうですね。この後の「青」の呼び出しも捗りそうです。」


勇者機構の計画では転移門ゲートのある大都市に周辺都市から「青」を呼び寄せて一気に「紫」になってもらおうとしているらしい。その計画の詳細を聞いている時に廊下の方から声が聞こえてきた。


「それでー、勇者機構が会わせたいってのはどんな人なのー。」


「申し訳ありません。私はディスマルク殿を案内するように言われているだけで存じ上げておりません。」


「素性も明かさないまま会わせようとするなんて何を企んでいるのかしらー。」


え、事前に「青」としての情報を何も与えてないってことなの。


「その方が劇的な出会いになるかと思いまして、どうしても会わせたい人物がいるということでご案内させていただいております。」


それまずいんじゃないのか。十英傑が暴走したら止められないでしょ。


「その時はその時です。」


行き当たりばったりかーい。


「こちらのお部屋です。どうぞお入りください。」


壁越しの声と共に扉が開かれる。事前に情報を与えなかったことが吉と出るか凶と出るか。

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