第18話 伝染

とりあえず、僕以外で親しくて秘密を守れそうな人にここまでの事情込みで「通知(メッセージ)」を送ってもらう。


「早いな、もう返事が来たぞ。「素晴らしいスキルをありがとう。他の人には使わなければいいのね。了解!」だってさ。」


やはり、「通知(メッセージ)」を受け取るとその人も使えるようになるらしい。内容を確認するためにはスキルが必要ということだろうか。

だが、この便利さは最初に思った通り、きっと世界を変えてしまうだろう。広めるかどうかは勇者機構とか公的機関に相談した方が良さそうだ。

それと、僕のとは違って誰にでもは送れないように、他にも制限をかけられるならそうできないだろうか。例えば、大量には送れないとか、送られて嫌な人からは受け付けないとか、音声や映像の保存には自分だけしか対象に出来ないとか、人に迷惑をかけるような行為は基本的に制限されるといいんだけどな。


「あれ?なんでだ。折角、カナタの考え込むカッコいい姿が残せたと思ったのに。ぼやけてて、これじゃあ誰かも判らないじゃないか。」


おや、思い通りになっているようだ。それならよかったけど、まさかさっき思った時に改変されたんだとしたら…考えるのやめよう。最初からだよ、絶対そうだ。きっとそうだ。くりいむそうだ。


「なんでだ。折角の便利機能が台無しじゃないか。まあ、カナタから送ってもらえばいいのか。頼んだぞ。」


絶対送らんぞ。


「いいじゃないか。恥ずかしいのじゃなくて、着替えた時とか全部脱いだ時のでいいからさ。」


十分に恥ずかしいわ、誰が送るか。


「せめて、目覚めに聞く用に「僕の熱いほとばしりをお前にぶちまけてやる。」と声を送ってくれ。」


そんな言葉を目覚ましに聞きたいなんてどこの変態さんだ。


「しょうがないから目に焼き付けることにしよう。さあ、カナタ。今日の衣装はこれとこれだ。可愛くしような。」


こら、胸を揉むな。大きくなったらどうする。


◇◆◇


店の前で見送られついでにエクセラとちょっと話し込む。


「そう言えば、最年少武豪の件、聞いたぞ。素晴らしい躍進じゃないか。それと勇者と騒いでいた件も聞いたぞ。明日は私も握手会行くからな。」


ちゃんと話が広がっているようで何よりです。昼間の勇者の件も伝わってるのね、お耳が早い。


「店に来る客が話してることも伝わってくるからな。ある程度事情通にもなるさ。」


なるほど。


「前に話していた勇者に貢献するのと同じってのが本当にそうなってしまったな。だが、ちゃんと生きて帰って来いよ。」


もちろんそのつもりだ。


「今度、勇者も連れてこい。たらふく食わせてやるとしよう。」


それはどうしようかな。少なくとも躾ができてからだな。


「勇者はそんなにはちゃめちゃなのか。まあ、カナタの包容力でなんとかしてやってくれ。じゃあ、また明日な。」


宿に戻り、ゆっくりと休んだその翌日――。


昨日打ち合わせた場所に向かうと、既に勇者機構の担当さんと勇者が待っていた。


「カナタ会いたかった。ぽっ。」


相変わらず、感情が口から出るようだな。華麗に流して担当さんと最終確認する。

それと「通知(メッセージ)」の件を相談すると、自分だけでは判断できないので持ち帰らせてくれと言われた。ただ、個人的には問題ないんじゃないかと思っているらしい。というのも、手紙の配達は減るだろうけど、「通知(メッセージ)」のやり取りが増えることで荷物の配送が増えることが予想されるという見解だ。例えば、店舗等に対して「通知(メッセージ)」を送るだけで注文できるようになり、それを代金と引き換えに配達してもらえば態々店舗まで行かなくても済むようになる等の新しい需要も生まれるんじゃないか、だって。頭がいい人は考えることが違うなあと思い知らされた。

さらに勇者はちゃんと仕事をしたようで「神意排他能力増幅機関(システム)」について勇者機構が調べた結果を教えてくれた。古い文献にはその名前が使用されている記載があるが、詳しいことは今のところは分かっておらず、引き続き調べてくれるとのことだった。


「すんすん、昨日の女とは違う女の匂いがする。それも二人分。」


これも勇者の特殊能力か。恐るべしだな。だがしかし、嗅ぐ場所は考えようか。公衆の面前で男の股間に顔を近づけるのはどうかと思うぞ。


「カナタのことを束縛するつもりは全然ないのよ。一日三回ワタシをイカせてくれるなら他に女なんて何人いてもいいのよ。」


まだまだ矢継ぎ早に下ネタが飛び出すようだな。罰は何がいいんだ。飯抜きか、おしゃべり禁止か好きな方を選ばせてやろう。


「う~ん…、お…おしゃぶり禁止でお願いします。」


懲りない奴だな。この口が勝手に動くのがダメなのか。それともちゃんと覚えておけない頭がダメなのか。

両の頬を片手で掴むのと、こめかみを拳骨でぐりぐりして罰を与えておくが、若干嬉しそうで罰になってないっぽい。

広報担当が遊んでないでとっとと乗ってくださいと促すので開放型二階建て車両に乗り込む。当然のようにド派手な飾り付けがしてあり、「史上最年少武豪、勇者一行に加わる!!」等と書かれた横断幕もかなり目立っている。結構恥ずかしいな。

勇者も乗り込むとゆっくりと車両が動き出す。警備の人も何人か控えていて、どさくさに紛れて乗り込もうとする一般人に対して警戒に当たっているとか。そんなに警戒する必要あるのかと高を括っていたが、すぐに間違いだと気付かされる。勇者機構の敷地を出るとすぐに結構な数の見物客が集まっていたのだ。

あちこちから声援が飛び、それに対して勇者が応えている。


「集まってくれてありがとー。ワタシと一緒に戦ってくれるカナタのこともよろしくねー。ほらほら、カナタも手振って。」


こういう時はちゃんと勇者するんだな。ちょっと恥ずかしいけど僕も精一杯役目を果たすとするか。


「カナタ~、かっこいいぞ~。愛してるぞ~。」


「カナタく~ん、抱いて~。」


「カナタ~、素敵~、しびれる~。」


「カナタ~、こっち向け~。」


え、なんか結構な数の「紫」の方たちがいるんですけど。改めて「探知」で見てみると辺りに30人ぐらいの紫が来ているようだ。その中にはエクセラやマイなんかもいる。そして、「紫」同士で認識し合って奇妙な雰囲気になっていたりする。


「あら、昨日の女もだけど随分モテるのね。最年少武豪さんは随分と女たらしなのね。」


勇者の眼光が鋭くなる。まさか昨日みたいに周囲に威圧を撒き散らすつもりか。そうなら止めないとね。


「なら、その一人に私が加わっても何の問題もないじゃない。とっとと手出してよね。」


って、そっちかいっ。盛大に心の中でずっこけたわ。


「ほれほれ、公衆の面前で手を出させて既成事実にしてあげるわ。」


うまい具合に下の観衆から見えないようにスカートをまくるのをやめろ。その間も観衆に向かって愛想を振り撒くことも忘れない。勇者の鑑、なのか。


「これ以上手を出さないなら、ワタシの(ステータスの)全てを覗き見たことや、ワタシを躾けて言いなりにさせようとしていることをみんなに暴露するわよ。」


どんな脅しだよ。ステータスを見たことが責任問題になるとか聞いたことないぞ。まあ普通の人にはそこまで見えないのは確かだけどね。躾の話は勇者の普段の素行の問題だろうが。本気で勇者とは別口で魔王討伐する方法を考えようかなって思った途端に勇者の顔が若干曇る。


「ワタシ、捨てられちゃうの?捨てるならせめて使ってから捨ててね。」


鋭すぎるだろ。勇者が特殊能力でも持っているのか、僕が顔に出過ぎるのかどっちだ。そして、そんな時でも自分を貫くとは見上げた根性だ。

こっちもこっちでやることがあるので勇者にばっかり構っていられない。取り敢えず勇者はおいといて、「青」の動向を確認しながら周りに手を振って愛想良くする。やはり、勇者の人気が強いのか残っている「青」の内、30人があちこちの沿道にいるようだ。なんとか中央広場での握手会にも来てほしいものだ。早速、一人目が右前方にいるようなので確実に僕を視界に収められるように右側に移動して手を振る。作業服っぽいのを着た20代半ばの男性が「青」みたいなので、この後に中央広場で握手会をやることを強めに訴えかけておく。僕を認識した彼は車両に駆け寄ろうとして思いとどまり、中央広場の方に向かって歩いて行ったようだ。来てくれそうで良かった。この後も同様にして沿道の「青」に積極的に訴えた結果、多分全員が僕に面と向かって会いたくてうずうずしてるはずだ。

こうして3時間ほどかけて移動してそろそろ中央広場に到着する頃かと思った時に勇者機構の担当さんが乗り込んできた。


「カナタさん、握手会に結構な人が集まってくれてるんですが問題が発生しておりまして…どうしましょうか。」


問題ってなんだろう。まさか集まった人が多すぎて並ぶ場所がないなんてことはないよね。


「よく判りましたね。その通りなんです。既に五千人ほど並んでまして中央広場に収まらず、尚も列が伸び続けているみたいなんです。」


勇者の人気ってすごいんだな。見ただけじゃ満足できない人が結構いるんだね。いいんじゃないかな、勇者に頑張ってもらえば。どうせ僕と会いたい人なんて「青」と「紫」を除けば少ししかいないだろうから五百人もいないだろうし。

などと高を括っていた僕が甘かった。この後に始まる出来事は「ミース中央広場の悪夢」として僕の中で語られることになる。

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