第17話 武器職人ブリジット

気分的には見張り付きで軟禁されている感が半端ないんですが、取り敢えず用向きだけは伝えてみる。今日使用した剣を取り出して、手入れをお願いしに来ただけなんですと。


「お任せください。二時間ほどで最高の状態に仕上げさせていただきます。」


あっという間に剣が僕の手から扉の向こうの店員さんに渡される。もちろん、僕が逃げ出す隙は与えてくれない。


「仕上がりまでお待ちの間、初めてのご来店の記念に無料でお体のお手入れもお試しいただきましょう。」


体の手入れはお構いなく。自分で何とかしますので。


「お客様、お体のお手入れを侮ってはいけません。体がご資本なのですから隅から隅までお手入れいたしましょう。ご自分では目の行き届かないところもいろいろありましょう。何と言っても無料ですから、気に入らないようでしたら次回以降はご利用なさらなければ良いだけの話でございます。」


相変わらず言葉は丁寧なのだが、いろいろと滲み出すものが副音声的に逃がしてなるものかと大合唱している。さて、どうしたものかと考えていると、何故かブリジットさんが服を脱ぎ始めた。


「それでは準備いたしますので、お客様もお召し物の方を脱いでお待ちくださいね。ああ、別にこちらの準備が出来次第お手伝いしますのでそのままお待ちいただいても大丈夫ですよ。」


何故そうなる。そして、そんな立派なものを惜しげもなく晒さないでいただきたい。あれよあれよという間に一糸纏わぬ姿になったブリジットさんが僕に向き直る。


「それではお召し物をお預かりしますね。」


そう言って僕の上衣に手をかけてくるブリジットさんは言葉とは裏腹にかなり興奮されているように見受けられる。

こうなっては諦めてお体のお手入れとやらを受けるとしよう。まあ、揉んで解してくれるとかそういうのでしょ。


「こちらにうつ伏せでお願いします。」


何やら撥水性のある敷物にうつ伏せにさせられたかと思うと、背中にヌルっとした温かなものを感じる。


「おかけしているのはお肌の状態をより良く保つ成分を含んだものでございます。こちらを使ってお手入れさせていただきますね。」


かけられたものをブリジットさんが手の平で優しく伸ばしては、またかけて伸ばしてと何度か繰り返して僕の背面に行き渡った頃に背中の感触が更に柔らかいものに変わった。ブリジットさんの立派な双丘が手の平に代わって使われているようだ。柔らかさの中の少し硬くなっている先端が、かけられている液体を潤滑油として縦横無尽に僕の背面を刺激する。


「まだ始まったばかりですが、当店のお手入れはいかがでしょうか。問題ありませんか。」


何ですか、このけしからん気持ち良さは。問題大ありでしょう、やばいです。脳が蕩けかかっております。


「まだまだたっぷり時間をかけていきますので、最後までご堪能下さいね。」


言うや、ブリジットさんの長い脚が僕の下半身に絡み付いてくる。特にブリジットさんの湿地帯がいい仕事をしていてやばいよやばいよ。うひょひょひょって感じです。


「ゆっくり仰向けになってください。前もお手入れしていきますね。」


全身ヌルヌルでテカテカのブリジットさんの表情が恍惚とし、妖艶さを増していく。


◇◆◇


はらほろひれはれ~。いや~やばかった。桃源郷に行ったまま帰ってこれないかと思うぐらいにやばかった。

だって、にゅるんにゅるんのぐちょんぐちょんでぎゅるんぎゅるんなじゅぽんじゅぽんなんだもん。

ただし、言葉使いは最後の最後までご丁寧なままでした。力の流入もあったが、あまりのまほろば状態に流入先を選べなかったがレベルが上がったものはなかったようだった。


「当店のお手入れにご満足いただけたようで何よりでございます。」


ブリジットさんからしっかりと手入れされた剣を受け取り、代金を支払う。文句のつけようのない大変良い出来栄えだ。


「またのご利用をお待ちしております。お体のお手入れだけでも構いませんよ。」


後半はそっと耳元で囁かれて、夜も深くなりかけた街に送り出される。

さて、明日はいよいよお披露目だ。ミースに残っている「青」は32人か。一斉に連絡できる手段とかあればいいのに。あ、やってしまったな、これは。今、スキルか何かが生えた感じです。ステータスを確認すると案の定、あしたもジョーです。

人の名前の一覧が表示されているのと、「通知メッセージ」なんてのが「真呼吸」や「検索」と同じ表示のされ方をしている。説明によると、認識可能な人物に対して言葉を送ることができるらしい。同じ言葉を同時に複数の人に送ることもできるらしい。思っていた通りのことができるようになっても乾いた笑いしか出てこないよ。こんなのいきなり送れるわけないだろ。ということで、誰かで試そうと思うわけだがどうしたものか。

両親?いやいや。いきなり、特殊過ぎるところを見せつけるのはあまりにも親不孝だろう。そうすると、無難なのは勇者機構の広報さんかな。エクセラって選択肢もあるか。「青」についての見解というか意見くれたこともあって事情も結構知ってるし、エクセラにしようかな。ということでエクセラの店へ向かった。


エクセラの店に着くと、営業時間は終わっていて片づけが始まっているようだった。エクセラは中にいるようなので「通知メッセージ」を試してみる。スキルを起動すると送信先を選ぶのと送る言葉を入力するようなので、送信先に「紫」の一覧からエクセラを指定し、送る言葉に「今、店の前にいるんだが出てこられるか。」と入力して送信してみた。すると、三十秒もしないうちに、エクセラが店から飛び出してきた。


「カナタ、今のは何だ。まあいい、折角来たんだからうまいもの食って着替えてゆっくりしていけ。」


通知メッセージ」のことを流すな。食ってもいいし、着替えてもいいが、まずは何が起こったのかちょっと確認させてくれ。


「立ち話もなんだから、中で話そう。どうせあんまり公にしたくない類の話だろう。」


さすがエクセラ、話が早くて助かる。部屋に向かう前に厨房から何やら持ってきて部屋へ入るなりささっとひと手間加えて僕の前に皿を差し出す。


「食え、そして着替えろ。」


だから先に何があったのか聞かせてくれと言っている。間違いなく美味いからいただくけど。


「厨房で片付けしていたら、いきなり人にステータスを見られた時みたいな通知があったんだよ。『カナタからお知らせが届きました。内容を確認する時は「開く」を実行してください。後で実行することもできます。』って内容だ。」


ほうほう、なるほど。そうやって知らされるんだ。


「カナタって私の着せ替え人形のカナタのことだよなって思って開くを実行してみたら「今、店の前にいるんだが出てこられるか。」って表示されたから、着替えさせなきゃってことで飛び出してきたってわけだ。」


誰が誰の着せ替え人形だ。まあ、いいようにされている感じが無くは無いけど。

しかし、「通知メッセージ」がこんな風に届くなら便利だな。


「これって私から送ることはできないのか。そうしたら、新しい衣装を用意した時に店に来るまで送り続けてやれるんだが。」


そんな使われ方はかなり嫌だが、確かにやり取りができるといろいろ便利だよな。手紙だと相手に届いて、そこから返事が届くまで何日かかるか分かったものじゃない。「通知メッセージ」を皆が使えるようになったら世界の様相が変わるぐらいのことが起きそうだ。


「おっ、おおっ!?もしかしてもしかするのか?」


何騒いでるんだ。いい大人なんだからもう少し落ち着いた方がいいぞ。

その時、『エクセラからお知らせが届きました。内容を確認する時は「開く」を実行してください。後で実行することもできます。』と通知が来た。えっ、まさか。


「どうだ、届いたか。」


悪戯が成功した子供みたいな顔で問いかけてくる。

開くを実行してみると、更に驚くことになった。「カナタの恥ずかしい姿を是非送ってくれ。」とが聞こえたのだ。なんじゃこりゃー。


「届いたみたいだな。これ、いいスキルだな。で、このスキル使うと映像も残せて送れるみたいだな。今から、最高の思い出を残そうな。」


なん…だと。そんなことまでできるのか。その前に、エクセラもスキルが使えるようになったのはどういうことだ。僕がエクセラに送ったから「通知メッセージ」を使えるようになったのか。エクセラから他の人に送るとその人も使えるようになるんだろうか。だとすると、不用意に送るとあっという間に世界中にこのスキル広まっちゃうんじゃないか。手紙の必要性が薄れて配送業者は大打撃なんじゃないだろうか。

エクセラは誰にでも「通知メッセージ」を送れるのだろうか。


「いや、一覧にはお友達とか親密な人しかいないな。雇っている人間の中にも一覧にいる奴といない奴がいるな。スキルの説明では一覧にある人間に対してだけ送れるみたいだな。連絡先一覧は一定以上の親密度で自動的に更新されるらしい。なんとも不思議だな。」


ん?僕のとは機能が違うのか。そうか、「検索」がないから仕方がないのか。


「ということは、カナタが一番最初に表示されるってことは一番親密度が高いってことか。いや、照れるなあ。」


何わけのわかんないことを言っている。会って一週間ぐらいの僕が一番っておかしいだろ。何かの勘違いだ。


「私の一番だからって照れるなよ。ムフフ、カナタが一番♪二番もカナタ、三、四がなくて五もカナタ~♪」


何を浮かれている。餅つけ。

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