第15話 ダンジョンを斬る

その後、明日の式典には勇者にも同行してもらい、客寄せパンダになってもらうことになった。というか、広報の方は最初からそのつもりだったようだ。順路は残っている「青」の近くを通るように決められて、「中央広場で勇者と最年少武豪と握手しよう!」ってなんかの見世物よろしく開放型二階建て車両の上から喧伝しながら移動するらしい。既に式典が行われることは三日前からあちこちで宣伝されていてちょっと恥ずかしくなってきたりしている。


「じゃあ後の細かいことは担当さんに任せるね。カナタ、一狩り行こうぜ。キミの実力見せてよ。」


担当さんが大丈夫と頷くと同時に勇者になんか手渡している。それを見て勇者が笑っているけどなんだろう。見ようと近づくが適当にあしらわれて見せてくれず、仕方なく外へと出て預けておいた自動二輪を受け取る。


「あ、いいもの持ってるじゃない。後ろに乗っけてね。」


先に自動二輪に跨ると、ハルカは少しごそごそしてから後ろに乗って腰に手を回してくる。


「ヒャッハー!カナター、ぶっ飛ばせー!!」


どこの世紀末の人ですか。勇者ともあろう方には似つかわしくないお言葉かと思えますけど。


「固いこと言わないの。ほら、行け行け~~。パラリラパラリラ~~。」


楽しそうで良かったです。半ば諦めて運転手に徹する。それで、どこに向かえばよろしいでしょうか、お嬢様。


「ここから近いのは…地下迷宮か。じゃあ、そこで。」


ハルカが自分で地図マップを確認したようだ。ミースにも来たことあるんだ。


「勇者機構が入手可能な地図マップの情報を全部貰ってるだけで、ミースは今回が初めてだよ。」


ということは、僕も地図マップ情報を貰えるのかな。それすると「青」の居場所全部判っちゃうんじゃないのか。


「もらえると思うけど、ワタシの持ってる情報込みであげるよ。また一つ、ワタシのことさらけ出しちゃうね。ヤダ。ぽっ。」


この子は感情と口が直結しているんじゃないのか。それか、隙あらば面白いことを言おうと構えているかのどっちかだな。嫌なら勇者機構から貰うので大丈夫です。


「意地悪しちゃヤ~ダ~。ワタシの全部見~て~。」


はいはい、判ったから少し大人しくしようね。「青」探知ウィンドウ改を起動させると地下迷宮に向けて走り出す。

しばらく走ってから気が付いたんだけど、何故か僕たちが注目を集めているようだ。道行く人が手を振ったり、声を掛けてくるのだ。ハルカはミース初めてだって言ってたから顔はばれてないだろうし、僕も今のところそんなに有名人ってほどじゃないはずだ。と思ったのも束の間、後ろの様子がなんか変だ。どうやら、ハルカが愛想を振りまいているっぽい。全く、大人しくしているかと思えばこの勇者は。それぐらいは勘弁してやるかと思ったが、地下迷宮に着いた時に唖然とした。お調子者勇者が「いよいよ明日!史上最年少武豪お披露目式典開催!!」「中央広場で勇者・武豪と握手会!!」等と書かれた幟を数本掲げていたのだ。出発前にごそごそやっていたのはこれを準備していたらしい。そりゃ注目を集めるはずだ。そして。この文字が書かれた布地は広報担当官が渡していたものなんだとか。ここまでは既定路線だったわけだ。担当さんにしてやられたよ。自ら広告塔になってれば世話がない。


「いいじゃない。良く知らないけど人が集まった方が都合良いんでしょ。」


確かにそうなんだけどね。今後の僕の伸びしろは如何に効率良く「青」と接触するかにかかっているわけだから、今回の件はその試金石とも言える。そっち方面の便利スキルってないものだろうか。


「さ、取り敢えずダンジョンに入りましょ。」


促されて装備を調える。さすがに勇者に「岩山落とし」を披露するわけにはいかないので、今は剣を装備した。武豪にクラスアップしてステータスもかなり上昇しているのは確認済みなので特に問題はないが、どう戦えば勇者に納得してもらえるんだろう。


「武豪だから剣の他にも得意武器はあるのよね。他は何が得意なの。」


ミースに来る前は弓系はほとんど使っていなかったが、ここ数日でそっちのスキルも上げまくってすべての武器を使いこなせるといっていいだろう。敢えて言うなら投擲系がいまいちってぐらいだろうか。態々投げなくても遠当系も魔法もあるし何の問題もないけどね。


「さすが最年少武豪、死角はないのね。それじゃあまずは斬撃の強さを見せてちょうだい。標的はダンジョンの壁よ。」


え゛。聞き間違えでなければダンジョンの壁を斬れと。試したことないけど斬れるのか。剣が折れそうな気がするんですけど。


「そっか、やったことないか。ちょっと手本見せるから剣貸して。ワタシの剣で斬っても説得力ないでしょ。」


そう言って僕の剣を受け取ると徐に構えて壁に向かって一閃。振り抜かれた剣は何事も無かったようにそのままだ。直後、斬った周辺が爆裂した。ちょっと吃驚したよ。


「結果は人によって様々ね。もちろん新米闘士じゃ剣がはじかれるだけだけど、そろそろ剣豪が見えてきているレベルだと斬れるはずよ。自分の持ち味を活かすように斬ってみるといいわ。」


剣を返してもらい自分の斬撃を思い浮かべる。今の僕の最高の斬撃は威力に依るものではないよなぁ。どちらかと言うと切れ味、違うな剣速かな。敵の攻撃を躱し、その勢いで叩き込む。それが今の僕が思い描ける最高の斬撃だと思う。そのように斬ってみる。しかし、派手な結果は引き起こされなかった。


「やるじゃない。刃が喰い込んだ分だけを消し飛ばすなんて初めて見たわ。こうやってワタシの処女も散らされるのかと思うとゾクゾクするわね。」


後半の感想にどうやったら辿り着くのか、勇者の思考回路は到底読み切れそうもない。だが、何が起こったかは正確に把握していたようだ。


「ここからまだ強くなるなら一緒に戦うには十分ね。期待してるわ、夜の方もね。」


ちゃんと言ってなかったみたいだから改めて言っておきますけど、勇者の躰目当てで協力することにしたんじゃないからね。


「え~、ワタシに処女のままいろってこと~。酷いな~。ちゃんと開発してくれたらいい味出すようになるかもしれないじゃない。」


どうにも明け透けが過ぎるんですけど。雰囲気づくりがって話はどうした。もう少し慎みってものを覚えなさい。


「慎んでる間に処女のまま死んだら恨んで祟るんだからね。」


逝く時は一緒でしょうが。

魔王に挑むんだもんね。生きるか死ぬか一発勝負なんだろうか。まあ死ぬつもりなんて更々無いけどね。絶対、勇者と一緒に生き残ろう。


「イク時は一緒がいいのね。頑張るわ。」


頭痛くなってきた。こんな会話をしつつも出会う魔物を一刀のもとに叩き伏せながら突き進む僕たちなのでした。

五層まであっという間に辿り着き、この後どうしようかと軽い食事を摂りながら話をする。


「難なく付いて来られると、ちょっと悔しいわね。勇者としての面子が潰れそうだから、夜もちゃんと突いてきてよね。」


まだまだ下ネタの方は止まらないみたいだ。まさか下ネタスキルとか持ってるんじゃないだろうな。


「あはは、何それ。そんなの無いわよ。でも「床上手」なんてあったらカナタを喜ばせられそうでいいわね。生えないかしら。」


絶対要りませんから、そんなスキル。下手に思ってると僕に生えそうで怖い。いかんいかん、煩悩退散煩悩退散。


「カナタ、何やってんの。面白いんだから~。」


言いながら抱き着いてきて、ついでにキスされた。躱せない…だと。伊達に勇者ではないということか。


「よし、カナタニウム補給完了!十層までひとっ走りして、折り返して、街に戻ってご飯食べて、明日に備えて気持ちいいことしよう!」


なんだその怪しい成分っぽいものは。それと最後おかしいからね。


その後、本当にちょっと近所までぐらいの勢いで十層まで踏破し、あっという間に折り返してきて今は地下迷宮の入口です。

僕も大概強く速くなったけど、勇者って一歳ぐらいしか変わらないのに何でこんなに凄いんだろう。


「あ~、それね。多分、成長速度っていうのかなぁ、レベルとかスキルレベルとか他の人に比べて上がりやすいみたいなのね。」


勇者機構が用意していた訓練方法で十歳の頃には既にレベルが20には達していたんだとか。何それ、早すぎる。スキルも大概のものが上位スキルになっていて更に上位に達しているものもあるとのこと。スキルの数は多すぎて十二歳の頃には数えるのを諦めたんだとか。勇者特有なスキルもあるんだろうし、見れるものなら見たいものだ。


「ステータスウインドウ見せてあげられればいいのにね。カナタにならベッドの上で一糸纏わぬ姿を見せてあげるのに。もちろん明るくしたままでいいよ。」


しつこく見て見てとせがんで来るので、仕方なく見てやったのがいけなかった。勇者の全てが丸見えだ。

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