第14話 勇者

結局、用意されていた「衣装」の両方を着させられた僕は二度美味しくいただかれた。さすが一流料理人、腕が違うね。「男の娘」とか「メス堕ち」なんて変なスキルは生えることなく、力をいくらか貰ってエクセラの店を後にする。


「新しい服を用意しておくから、溜まらない内にまた早めに来いよ。」


僕は着せ替え人形じゃないっての。ただ、間を置きすぎて本当に何着も着替えさせられてはたまったもんじゃないので、近いうちに再訪はするつもりだ。エクセラの料理はどれもこれも美味しいからな。


さて、この後六日間ほどの活動はいろいろな都合で要約してお届けすることにします。お知らせしておきたいお話はそれなりにはあるんですよ。例えば、倉庫ストレージを区分けして時間経過させたりすることができるようになったり、「魔眼」なんてスキルが生えてしまったり、全属性使えるようになってしまって八芒星になってしまったり、ついに年下の「青」が現れたかと思いきや見た目が幼いだけの性欲旺盛なお姉さんだったり、他にも上げればまだまだありますがお話を恙なく進めるために涙を堪えて端折りたいと思います。

結果として106人の「青」に接触し、たくさんの力をもらい、いろんなスキルを得たり、伸ばすことができました。中でもこれだけは必ず伝えないといけないのが、三日目にしてジョブが戦士からクラスアップして武豪になりました。それで、たまたまその時に力をもらった人が勇者機構の広報担当の人だったので、最年少記録を大幅に更新しているから是非お披露目をやろうという話がとんとん拍子で進んで、明日ミース都市内をぐるっと巡回して最終的に中央広場にてお披露目会をやる羽目になりました。ついでに「青」が釣れればまとめて済ませられていいでしょ、ってなこともその担当官が言ってました。あ、勇者機構についてはこの後の話が落ち着いたところで説明します。


で、明日の式次第の打ち合わせをしている場に、何故かとんでもない人がいてちょっと狼狽えているというのが今の状態です。


「私、ハルカ。キミが最年少記録を大幅に更新した武豪のカナタくんなんだね。ワタシに力を貸してくれないかな。」


どんな急展開なの。ハルカとカナタで漫才コンビでも組みましょうって話ですか。


「アハハ、それもいいねぇ。ハルカでーす。カナタでーす。二人合わせて遥か彼方へ飛んでいけ~ってなんでやねん。」


見た目は同じ年ぐらいのちょっと赤みの入った白金髪短髪跳ねまくりで透き通った青い瞳の元気系女の子が良いノリで話を進める。


「実はさあ、七武聖も三賢人も一緒に戦ってくれなくてさあ、ちょっと困ってるんだよねえ。ワタシ、そんなにダメ人間に見える?」


げ、七武聖と三賢人ってもしかしなくても十英傑のことでしょうか。そんな人たちに共闘を持ちかけるなんてこの人はいったい何者なんでしょう。

七武聖と三賢人について説明しておくと、各ジョブの最高峰に上り詰めて現在の最強と謳われる剣聖、槍聖、斧聖、拳聖、刀聖、棍聖、弓聖、賢者、聖者、錬金王の皆さんのことだ。各武聖が一人しかいないってわけではなく、それなりにいる中でもちょうど三十歳ぐらいに傑出した人たちが揃っていてその十人を指して十英傑なんて呼ばれ方をしている傑物なのです。


「一緒に戦ってくれるならワタシの躰好きにしていいからさあ。それなりに良い躰してると思うんだけどどう。」


何言っちゃってるんだかこの娘は。うら若いお嬢さんが胸を揺すったりしてお色気を主張しないの。ほら、広報の方もドン引きですよ。あれ、なんか違う意味で引いてる?


「ほら、だってさワタシってばさ、うまくやらないと後三年無いからさ…。やれることはやれる内に全部やっときたいんだよね。」


え…まさか…愁いを帯びた笑みを見せるこの娘は…。


「あ、一番肝心なこと言ってなかったね。ワタシ、「勇者」なの。現在十七歳と三ヶ月です。」


だよね。あと二年九か月以内に魔王を倒すことを宿命づけられた世界に唯一人の存在。


「数日前に最年少武豪誕生の話を聞きつけて、ウマが合いそうなら協力してもらおうと思って慌てて飛んできたの。」


広報の方がちょっと申し訳なさそうにしてるが別に気にしてはいない。際立った活躍をすれば目立つのはしょうがないし、お披露目会に乗じて「青」を一網打尽にできればと思ったのも事実だ。


「で、どうかなあ。ワタシじゃダメ?」


お、あざとい斜め上目遣いが可愛い。

つい最近も思ったが、自分の特殊な力で世界のために貢献すると決意したんだ。勇者に協力するのに否はない。だけど順調に成長しているが、伸びしろはまだまだたっぷりある。なんたって、あと一万人以上から力を貰えるんだから。なので、今すぐに勇者に同行するのはもったいない気がする。でも逆に勇者に誘蛾灯になってもらって「青」を集めてもらうってのもあり得るのかなあ。

さて、どう返事したものか。


「七武聖と三賢人が揃いも揃って、すべるものがどうのこうので一緒に戦えないって一点張りなのよ。」


滑る者?十英傑も漫才の相方でも探してるってそんなわけないよね。


「キミ、見た目もそんな悪くないし、一目見た時からなんかいいなあって感じてるんだよねえ。なんか特殊な力持ってない?」


鋭い。はい、人に言えないようなことそれなりにあります。それも勇者にどこまで話すべきか。


「キミに断られたらもう生きていけなーい。ワタシってなんて可哀相なの。ちらっ。シクシク。ちらっ。」


ちらって言いながらこっち見るな。今度は泣き落としですか。随分と芸達者な勇者さんのようで。取り敢えず協力はするけど、同行するのは先だと伝える。


「やったぁ。じゃあ手付けとして抱いとく?穴という穴にぶちまけてくれていいんだよ。」


まったくこの娘は。冗談とも本気ともつかないことを平然と。


「さっきも言ったけど、ワタシいつも全力なんでそこんとこよろしくね。命短し恋せよ乙女ってね。」


それは恋なのかという疑問は置いておいて、こちらから聞いておきたいことを確認する。その中で判ったことは、次の通り。勇者は基本的に三日月大陸を拠点にしていて、普段はきたる時に備えて可能な限りレベルを上げ、スキルを習得し伸ばすことに尽力しているらしい。今回も、三日月大陸から転移門ゲートを使って飛んできたんだって。今後、僕も使えるようになるらしい。それに伴い、所在不明にならないように滞在都市での勇者機構への報告義務が発生するとのこと。共に戦える人は勇者機構の担当が候補を見繕って連れてきてくれたりするが、今のところ反りが合わないとか様々な理由で決定に至った者はいないとのこと。僕が異例ずくめの一人目なんだとか。今後は僕との相性も考えて候補が選ばれるらしい。装備についても勇者機構が適宜用意してくれるので使用感を伝えて改良を施してもらったり、ものによっては使用を取り止めることもあるそうだ。僕にも装備品が支給されるようになるらしい。物資の購入費用等も必要な経費とみなされれば全額支給してくれるとのこと。

それでは説明しよう。先ずは先送りしていた勇者機構について。ギルドが都市における探索者の活動支援を行うのに対し、勇者機構は全世界において勇者の活動支援を行う、と言えば判り易いだろうか。実際のところはギルドと勇者機構は複雑に絡み合っているようだが、部外者の僕には深いところまでは判りません。

次は三日月大陸かな。ついでに世界地図というか大陸の位置関係も説明してしまおう。ここミースは中央大陸の西の方、ここからそれなりに東に進むと中央大陸最大都市のアメインに到達する。アメインは中央大陸と陸続きの南西大陸との要衝にあって有史前から栄えているとされている。ちなみにミースの面している海を渡れば南西大陸に達することはできる。中央大陸の東端、海峡を挟んで南北に長い三日月大陸の北端がある。その名の通り三日月の形をした大陸が南へと続く。そんでもって、南西大陸、中央大陸、三日月大陸に囲まれた大海にぽつんと小大陸。大陸なのに小って名前つけるのおかしくないですか。大きいのか小さいのかはっきりしてほしいんですけど。そして、最後に控えるは摩訶不思議な浮遊大陸。その名前の通り、飛んじゃってるんだよねえ。どういう風に浮いているのか移動しているのかさっぱり判らないけど世界はそんな感じです。

で、もう一つ説明が必要なのが転移門ゲートだね。これも仕組みは不明だけど大都市にそれぞれ存在し、ああだこうだすると大都市間を瞬時に移動できるらしい。有史以前から存在していて何もかもが謎の存在だけど、使い方だけは伝わっているのが更に謎だ。勇者機構が管理していて、一般人が使うことはまず無い。


それで、僕のことはどこまで話そうか。僕自身が判ってないことも多いだけに線引きが難しいよね。ちょっと人に好かれやすい特異体質なんだよね、ぐらいにしておこうか。


「話せないことがあるなら話さなくていいけど、抱いてくれないなら取り敢えず唾つけておくね。」


そう言って、軽く唇を重ねてきた。今は「青」探知は発動してなかったけど、まさか勇者って「青」じゃないよね。ここで、発動させるとなんと勇者は「藍」だった。どゆこと?「青」にとっては僕が「藍」みたいだけど、僕にとっては勇者が「藍」ってことだと僕が勇者にそういう気持ちを抱いちゃうってことになりそうだけど、そんな感じは全くない。好悪とかそういう感情だけなら「紫」ほど僕に盲目的じゃないけど、それに準ずるくらい僕に好意的ってことならなんとか納得できるのかなぁ。


「一応、初めてなんだからね。ありがたく思い給え。」


唇を離し頬を少し赤く染めた顔を背けてから言うので、どんな表情なのかは僕には判らない。だけど、この勇者を精一杯後押ししようとこの時に決意したんだ。


「初体験の時は雰囲気づくりもよろしくね。」


茶目っ気たっぷりの目配せかまされて、ついさっきの決意が崩れそうになったのは言うまでもない。

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