第13話 くっころ

「おー、やっといた。私がやってもいいか?」


しばらく「岩山落とし」を見てるだけだった体を動かしたいライラに譲ることにした。


「普段なら目を潰してからとどめを刺すのが私の流儀だが、今回欲しいのはフローズンゴートの眼球だからな。」


と言って弓を取り出して特殊っぽい矢を番えるライラ。ふーん、弓使いだったんだ。それで観察眼も優れてるのかなぁなどと考えていると、まだこちらに気付いていないフローズンゴートに向かって矢が飛んで行った。フローズンゴートに矢が到達する前には二の矢、三の矢が放たれ次々にフローズンゴートの脚を切り刻んだ。どうやら矢に風魔法を纏わせて射たようだ。こうなればまともに駆けることのできないフローズンゴートは魔法の射程に近づくのもままならず、ライラにされるがままだろう。案の定、傷付きながらも精一杯こちらに向かってくるフローズンゴートの眉間に最後の一矢が突き立ち、その場に崩れ落ちると活動を停止した。今回の場合、幸運なことにアイテム化することはなく死体が残ったのでライラが倉庫ストレージに納める。


「カナタの防具に必要な分はこれで十分なんだが、まだ時間も早いしもう少しいろいろ狩っていくか。」


ということで、さりげなくライラが狩りたい対象へ検索して誘導し、効率良く成果を上げて程よい時間に帰還した。ちなみに、その中で僕の探知はLV10になり、「探索」に進化した。スキルの練度がある水準に達すると上位スキルに進化したり、派生スキルを取得することがあるのは前にも言った通りで、そのある水準ってのがLV10であることが多い。「探知」から進化した「探索」は、さらに範囲が広がり、魔物の種類が表示されるようになった。先に「探索」を取得できていれば、「検索」を生やすことはなかったんじゃないかと思わなくもなかったが、人に言えないだけで有用ではあるからと自分に言い聞かせる僕なのでした。そんでもって、当面の目標であったはずの探知を早々にLV10にしてしまったので、その後は余計なスキルを生やさないように無難に取得済みスキルのレベルを上げるようにしていたことをつけ足しておく。

自動二輪でライラを店まで送る。道中、必要以上にきつく抱きしめられているのは相変わらずだ。ちょっと苦しいけど柔らかいので許す。


「それじゃあ完璧に仕上げておくから十日後に受け取りに来てくれ。分けてもらったお宝の躰での支払いがあるからいつでも寄ってくれてもいいけどな。だから興奮するからそんな目で見るな。って、ダンジョン内じゃないんだからもういいのか。」


しまった。へたこいたー。仕事前に欲求不満を解消してしまおうと寝台に引き摺り込まれてしまった。


◇◆◇


今日の狩りで新たに上澄みが出来ていたのか、少しではあるが力の流入をありがたくいただいた。おまけで錬成スキルも生えてしまい、簡単な利用方法についても教わったがレベルが低いうちは大したこともできず、まずはレベルを上げるための鍛錬が必要みたいだ。まあ、僕なら割と簡単に上げられそうだけどね。


「じゃあ、また十日後な。」


素敵な目配せを頂戴し、今度こそライラの店を後にした。

さて、夕飯でも食べながら今後どうするかを考えようとエクセラの店に向けて自動二輪を走らせた。もちろん「青」探知ウィンドウ改を起動することも忘れない。なんか表示がすごいことになってるので言っておくと、目的地を意識すると最短経路が表示されるようになりました。探索範囲外の経路周辺の「青」がサブウィンドウに表示されるようになりました。会ったこともない「青」の名前が表示されるようになりました。探索と検索の良いところが追加されてもう無敵ってかんじだな。実質、マイエミからの地図マップ情報のおかげでミースにいる「青」は検索でほぼ全員把握できているはずだから、あとは会いに行くだけって感じだしね。そこら辺、ご飯食べながら作戦を考えよう。

ってところで、ちょうどエクセラの店に着いた。さすがというか、やっぱり結構な人数が並んでいる。一応、自動二輪を置かせてもらうことを店員さんに断りに行くと、昨日の顛末を知ってるのか個室に通されるや否やエクセラが入ってきた。


「カナタ、よく来てくれた。腕に縒りをかけるから好きなものを好きなだけ食べてくれてかまわないが、とりあえずはこれを食ってくれ。」


と、綺麗に盛り付けされた一皿を目の前に差し出される。

ん?なんかご馳走しようとしてくれてる?いやいや、単純に美味しかったからまた食べに来ただけであって、集りに来たわけじゃないんだからね。


「嬉しいことを言ってくれるじゃないか。そんなことを言われたら余計に食わせたくなるじゃないか。昨日も言ったとおりだ。遠慮するな。」


そう引き締まった笑顔で言われては、僕も身の引き締まる思いになる。ありがたく、皿に箸をつける。美味い。


「私とカナタの仲じゃないか。新しい衣装もあるから食後に着替えて一服していくんだぞ。」


一転、下卑た笑いを浮かべられては、箸も止まるぞ。

しかも、何で昨日の今日で新しい服があるんだよ。おかしいだろ。


「手ずから魔物を狩ってきたから渡せる力もあるだろうし、まあいいじゃないか。ゆっくりしていけ。」


艶っぽい笑みを残し、調理に戻っていくエクセラを見送る。

服も買いに行って、狩りにも行って、昨日あれからどれだけのことをしてるんだ。随分と精力的に活動されていらっしゃるようで。

まあ、なるようになるさと半ば諦めていろいろと注文し、明日からの「青」との出会いをどうするか考える。「検索」のおかげで不意に出会うことはまず無いはずなので、ニールの時のようにこちらが主導権を取れるはずだ。基本的に人前で会うようにするのが良さそうだ。改めて数えてみると「青」が141の反応がある。厄介なことになりそうだからお宅に訪問するのはできるだけ避けよう。まったく外出しない人はいないだろうし、何割かはダンジョンに向かう人がいるだろうからその時を見計らって接触してみればいいかな。それである程度「紫」に出来たら、またその後で方針を決めればいいか。次に考えるべきは、僕のスキル構成をどうするか、かな。こっちも検索があれば効率良く狩りができるので、更に上乗せできるようにスカーレット達のように移動系を上げると良いかなと思う。取り敢えず「倍速」を取得して「閃光」まで上げることを目標にしよう。その後は、戦闘系を上位スキルにして、うーん夢が拡がるな。

けど、ミースに来る前は割と慎重にことを進めてきたのに、ここ数日で環境が激変してしまったから気を付けないとね。上ばかりじゃなくて足元を見ることも忘れないようにしよう。とは言え、夢見ることはやめられない止まらない。あー、楽しい。真の万能型になれる日もそんなに遠くじゃない気がする。

取り敢えず明日は、まだ足を運んでいない北西にある山岳ダンジョンに向かうことにしよう。そこに向かう「青」とできるだけさり気なく会うようにして「紫」になっていただくことを目標にしよう。昼過ぎぐらいまで「青」を待ったり、魔物を潰した後は地下迷宮の方に向かって、出てくる「青」を待ち構える感じにしよう。今日も十人ぐらいの「青」がいたけどライラがいたこともあって接触を避けたんだよね。その「青」達は多分明日はいないだろうけど、別の「青」がいるといいな。

あ、何でこんなこと言ってるかというと、この世界の探索者は普通毎日ダンジョンに行ったりしない。そりゃそうだ、一日ダンジョンに籠るとどれだけ精神を削るか考えてほしい。命を賭けなきゃいけないような相手ばかりは選ばないにしても緊張感は常にある。僕みたいな便利スキルがあれば別だろうけど。それに、戦えば色々と装備も損耗するのだ。その手入れや修理、補充なんかをやって、体調も管理して、それでいつ寝るんだ。なので、普通は二、三日に一回、深層まで行くのに時間がかかるような場合は四、五日に一回ぐらいの活動をするのが精一杯だ。無茶をしないのが鉄則だ。


「カナタ~、どっちにする。私はこの体の線が出るぴったりする方がいいと思うんだが。」


食べ終わるのを見計らって、エクセラが「衣装」を二つ持って入ってくる。やる気満々だな。店はどうした。まだ稼ぎ時だろ。


「店は完璧に回っているから大丈夫だ。だから、安心してデザートに私を食べるといい。」


どう考えても食べられるのは僕の方の気がするんだが。しかも精神的に割と削られるんだけど。


「さぁ、着替えるぞ。ほら、早く脱げ。」


手際よく脱がしにかかるエクセラに太刀打ちできない僕はされるがままだ。上衣を脱がされ思わず胸を隠してしまう。


「おやぁ、カナタちゃんはおっぱいを隠しちゃうんだぁ。もうすっかり身も心も女の子じゃないか。」


くっ、殺せ。


「頬が赤く染まっちゃってなんとも可愛いなぁ。だが、お楽しみはちゃんと着替えてからが本番だ。」


あゝ無情。今日も堕ちてゆく。

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