第6話 防具職人ライラ

「長らく創作意欲が湧かなくて燻っていたんだが、お前をみたらそんな悩みも吹き飛んだぞ。」


聞いた話をまとめると、29歳独身のライラさんは十代の頃は目覚ましい成長を遂げ、あっという間にギアードでも五指に数えられるほどの防具職人になったのだが、二十代になった頃から陰りが見え始め、近年は滅多に腕を揮わなくなってしまっていたが、数日前からなんかうずうずし始めた所に僕が現れて今に至る、ということだ。


「兎に角、なんでもいいから作らせろ。見たところ機動力を活かす戦い方をするようだから、軽くて丈夫な革鎧がいいか。最近、とんと防具を作ってはいなかったが、体を鍛えることは怠っていなかったからそれなりに素材はあるぞ。ストーンスネークにフレイムライガー、サンダービートルあたりを重ねて魔法抵抗力を高めるか。どうせなら六大属性全部に強くしてしまうのもいいな、そうすると水と風はこいつがあるから氷系何か持ってないか?」


なるほど、ライラさんは自分で積極的に素材も集める屈強系防具職人なんだね。力の強さに合点がいった。素材の件は補足すると、大概の魔物は自分の使う魔法に対する抵抗力を持っているのが普通で、ストーンスネークは石礫を飛ばす魔法を使ってくるから土魔法、同様にフレイムライガーは火魔法、サンダービートルは雷魔法に抵抗力があるということだ。ただし、複数の素材を使用すれば簡単に特性が重ねられる訳ではなく、非常に優れた技量が必要になるはずだ。そこら辺の腕は錆び付いてはいないようで、彼女にとって製作に打ち込めていなかった期間は問題にならないみたいだ。それで水属性と風属性は何か持っているようだが六大属性の残りの氷系でストックしているものが今はないようだ。僕は素材を溜めておく方ではないので持ち合わせがないことを告げる。


「そうかぁ…、なら一緒に取りに行くか。北の地下迷宮二層にフローズンゴートがいるがどうだ。」


僕の予定としては、森の最深部はさすがに荷が重いが、深部まで攻略した後に地下迷宮六層までは行こうと思っていたのでフローズンゴートを含めて対策は頭に入っている。地下迷宮に同行するのは問題ないが、今日はこの後見て回る所がある旨を告げる。


「よし、じゃあ地下迷宮は明日にするか。…ところで、物は相談なんだが…年上のお姉さんは嫌いか?」


あ、僕ずっと上がはだけたままで喋ってた。ライラさんの赤く燃える瞳が僕の肌を完全に標的にしていた。


「創作意欲とは別のところにも火が付いてしまっていてな。できればそっちは鎮めてくれると有難い。ということで観念しろ。」


腕を掴まれ、奥に引き込まれる。振出しに戻るってことですかぁ。


寝台の上に押し倒された僕の上半身をライラの舌が妖しく這いまわる。


「どこがいいんだ。正直に言えばちゃんと気持ちよくしてやるぞ。」


正直、年上のお姉さんのことを舐めてました。実際には僕の方が舐め回されているんですけどね。


「ここがいいのか。でも、ちゃんと言えない子はおあずけだ。」


ライラの舌が的確に僕の気持ちいいところを捉えてくるが、それ以上は責めてこない。僕の反応を見て、完全に弄んでいる。押し寄せては引く快感の波に脳が蕩けそうだ。


「体の隅から隅まで調べつくしてやろう。文字通り丸裸だ。全てさらけ出してしまえ。」


気が付けばいつの間にか全部脱がされていて、うつ伏せにされていた。しなやかな女豹の肢体が妖しく動く度にめくるめく快感が襲ってくる。あ、そんな所舐められたらオヨメに行けなくなっちゃう。


「さて、そろそろ私も気持ちよくして貰おうか。」


上から見下ろすライラの表情は恍惚としていて、あっという間に彼女の中に誘われた。


◇◆◇


「それじゃ、また明日な。なんなら今晩泊りに来てもいいぞ。それか朝一ってのもアリだな。」


この言い方だと、最初の「また」が何を指しているんだか。明日は地下迷宮だからな、間違えるな。

さて、結構時間を使ってしまったが、速足で向かえば昼飯時には十分間に合うだろう。探知スキルを使いながら歩き始め、ライラの店を後にする。


今回もいつも通り力の流入はあったが、指向性云々の話は余裕がなくて試せなかった。ライラ恐るべし。一応ステータスウィンドウを確認したが、レベル関係の数字で上がっているものはなかった。それにしても、昨日と今日で既に5人の「青」と出会ったわけだが、いったいミースだけで何人いるのやら。今朝、探知を使い始めてから20~30万人をその範囲に収めた感覚で、単純に「青」が割合で存在するならば10~15万分の1ぐらい、間をとって12万分の1としてミースの人口が約1500万らしいので130人、少なく見ても100人ぐらいはいそうだ。これまで出会った「青」とちょうど同じぐらいかな。


ちなみに僕が覚えている最初の「青」と思われるのは、四歳の時に近所に出かけたときに出会った一つ上の女の子だ。目と目が合った途端、その子は猛然と駆け寄ってきて僕を抱きしめたかと思えば、ほっぺにチュッてして一言。


「しょうがないから、仲良くしてあげるのよ。」


ツンツンした物言いと僅かではあるが流れ込んできた力の温かさの両方が僕の覚えている初体験だった。家に帰ってから母親に話してみると、似たようなことが何度かあったと聞かされた。二歳の時に家族と出かけた海で出会った十歳ぐらいの二人連れ女の子に気に入られた時は、周りにも同じ年頃の子供が大勢いるのにそっちには見向きもせず僕だけに来るのをすごく不思議に思ったらしい。母親としては、自分の息子が可愛くないとは勿論思っていなかっただろうが、他人から見てそんなに魅力溢れているとも思えないといったところだろうか。その後、ツンツンツンデレちゃんは街で見かけていないので旅先で立ち寄っただけか、もしくは引っ越しでもしたのだろう。いずれにしてもこれまで力を貰った「青」は漏れなく「紫」に変わっているということでいいのだろうか。


などと考えていると、お食事処が集まっている区域に到着した。僕も食事を先に済ませようと店を物色し始める。ふと目に留まった魔物肉専門店に心惹かれたが、マイとエミのお気に入り一覧には入っていないようだ。今回は自分の直感を信じて突撃することにした。おすすめ定食を頼んで探知スキルを切らさないようにしながら、通りの方を監視することも忘れない。

探知スキルもまさかこんな使い方をされるとは思っていなかったことだろう。想定しているのはもちろん魔物が自分の周りにいるかどうかを予め察知するための使用だ。なのでダンジョン内で使用すれば普通は十分数えられる程度の赤と緑の光点が表示されるぐらいだろう。それをこんな街中で使えば半径100mの探知範囲にざっくり千ぐらい緑の光点が犇めいていることになる。この店内だけでも4~50人いる感じだ。これだけ重なるぐらい光点があると「青」がいても気付かないこともありそうだな。拡大・縮小表示はできるけど自分中心での視点限定だし、「青」探しにはちょっと不便だな。緑を弱く、いっそのこと非表示にしたり、地点指定で拡大・縮小したり、地図マップと連動したりができたらいいな、なんて思ったことが一瞬だけありました。

だって、そう思った瞬間に出来ちゃったんだもん。想像妊娠もびっくりだな。


今までの探知サブウィンドウに地図マップの情報が重なり合うようになり、表示させる光点の色と強さを選べるようになり、地点指定で拡大・縮小表示が出来るようになりました。なんということでしょう、これで「青」の探索が一層捗ることでしょう。匠の技が冴えます。はて、何のことでしょう。

ただし、現在地と現在の探知レベルの及ぶ範囲に限られるようだ。そりゃそうだ。そうでもなければ、居ながらにして世界中の「青」を探せることになる。後で分かったことだが、地図マップの情報がなくて探知の及ぶ範囲は、探知スキルを発動した場所を基点に地図マップの情報を更新してくれるようだ。ちなみに普通の人が歩いて得られる地図マップの情報って半径20mぐらいらしい。なので、ギルドの職員は街やダンジョンを定期的に巡回して情報を最新に維持するようにしているとのこと。売り物にしてるんだもの、信用第一だよね。

それにしても、これだけのことが出来ちゃう僕ってやっぱり特別仕様なんだろうか。ステータスウィンドウ関係で設定を変更できるなんて聞いたこともないし、誰に相談すればいいのかも見当つかないよね。うん、これは下手に相談すると藪蛇になりかねないから取り敢えず黙っていよう。そもそも本当に僕が設定変更したのかも謎だしね。ちょっとこうなったら嬉しいなって思っただけだし。てへぺろ。

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