第50話 魔王だって
―――そして、俺が交渉をちびってから三日後。
「アラン。君はいつまでそうしている気だい?」
「……分かってますよ」
結局魔王は交渉に向かっておらず、俺を待ち続けているのか毎日こうして自室まで会いに来る。
「分かってないから僕がここまで来たんだよ?」
「……別に頼んでませんよ」
俺はベッドの上でうつ伏せになり、枕に顔を埋める。
「確かに頼まれてはいないね。けど、僕はこれをしないといけないという義務があるんだよ」
「―――何ですかそれは」
「まだ君には分からないだろうが、僕は部下をまとめる役目があるんだ。だから部下の精神面のケアもしないといけないんだよ」
―――それはそれは殊勝な心がけですね。
今の俺とは大違いじゃないですか。
「だったら別に気にしなくていいですよ。これは落ち込んでいるとかそういう訳では無く、単に―――」
「自分の弱さに嫌気がさしてるんだろう?」
「―――はい」
「きっと君は自分の理想に追い付かないほど身体的に弱いから自分の事が嫌いになっている。そんなとこだろう」
「はい。その通りです―――」
俺はぐうの音も出なかった。どうやら魔王にはすべてを見透かされているようだ。
「まぁ、その気持ちは分からなくもない。僕だってそうなんだから―――」
魔王は俺の横で背を向ける形でベッドに座り、俺が寝ている横で淡々と語り始めた。
「僕も魔王なんて呼ばれているけど、初代魔王に比べればザコ同然だよ。だから、僕はこう見えて結構自己研鑽を重ねているんだが、中々上手くいかなくてね……」
「―――でも、魔王様は強いからまったく理想に近づいていないなんてことはないでしょう」
「いや、そうでもないよ。本当に初代は僕より格段強いし、統率力もあるし、人望だってあった。だから僕も君みたいに上手くいかなくて何度も投げ出したくなったよ」
―――俺とはまったく規模が違うな。
俺はただ、自分が強くなれないという失望感だけだが、魔王は失望感だけでなく、責任も感じているだろう。
魔王はその名の通り魔の王なので、常にすべての悪魔のトップに立って軍をまとめあげないといけない。だが、今の魔王はまだ若くて右も左も分からない中、自分を律して魔王としてやるべきことにひたむきに取り組んでいるんだろう。
いつもはヘラヘラとしていて頼りなさそうな感じだが、話を聞くと、魔王ってすげぇんだなと思う。
それに対して俺はと言うと、いつまでもナヨナヨしていてちょっと何か上手くいかなかったらすぐに逃げてしまう。志だけ一人前で、壁に当たると挫けて終わり。本当に情けない。
「―――そうですか。何かますます自分が嫌になってきました」
俺はより枕に深く顔を埋める。
「あぁ、ごめんごめん。別に君を傷つけるために言った訳じゃないんだ。本当に僕は君を励ますために―――」
「もういいですよ。俺に気を遣ってんならもうやめてください。その気遣いがより他者を苦しませることもあるので……」
俺は、偉そうに魔王に説教っぽいことを言ってしまった。でも、これは俺の本心だ。さっきから魔王は苦労しているという話を聞くと、自分が小さく思えてより気分が沈んでしまう。
「―――そっか。じゃあさ、一つ僕と約束してくれないか?」
「え? 約束?」
急に魔王の声がワントーン明るくなったので、無意識に魔王の方を見ると、魔王はこちらの方を向いて人差し指を立てていた。
「うん。明日、魔王の座に来てよ。詳細はその時教えるからさ」
「―――まぁそのくらいならいいですけど」
「よしよし! じゃあ決まり! 楽しみに待ってるね!」
魔王はそう言うと、ベッドから立ち上がり、軽い足取りで俺の部屋を出ていった。
―――なーんか。適当に約束しちゃったけど大丈夫かな……?
俺はまたもや不安を抱きながら、ベッドにそのままうつ伏せのまま眠った。
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