第48話 帰還

 ―――ガチャガチャガチャガチャ。


 スプーンやフォークが皿に触れる音がする。


「騒がしいなぁ……」


 昨日俺は一日の疲れと深い傷の治療で治療室のベッドで翌日の夕方頃まで爆睡をかましてしまって、腹が減ったので食堂に向かうことにした。

 しかし相変わらずうるさい食堂で、ラリアが敵に寝返ってしまったのにそんなことはまるで気にしていないように皆騒いでいる。


「ラリアの事はみんな知らないのか?」


 みんないつも通り酒を飲んで楽しんでいて、この前のお馬さんもワイワイやっている。ちなみに俺も通常通り黙々とご飯をたべている。

 ―――だがそんななか、一人さみしくご飯を食べている俺に話しかけてくるエロい女がいた。


「アラン様。お時間よろしいですか―――?」


「―――はい」


 彼女はキューラ。確かラリアがいた第八軍のリーダー的なやつだったっけ。

 彼女は俺の前の席に座り、おっぱいをテーブルの上に乗せて、深刻な顔で下を見ていた。


「―――ラリアの事についてお伺いしてもいいですか?」


 キューラはさすがに心にダメージを負っているようだ。なんせ自分の一番弟子が敵側に行ってしまったんだからな。心中お察しする。

 俺は何も言わず、こくりと首を縦に動かす。


「昨日の事は魔王様から全て聞きました。ラリアは何かしらの洗脳魔法をかけられて中央国家についてしまったそうですね」


「あぁ―――」


 キューラと顔を合わせづらい。

 あの時、ラリアを助けられたのはきっと俺だけだったので、もし俺が強ければラリアを殺さない程度に気絶させて洗脳をかけた奴をぶっ飛ばせていたのかもしれない。だから俺は罪悪感を感じてしまう。


「ラリアは私の軍の中でもかなり私に対して忠誠心が強くて、ずっと私の隣にいたので、一生私のそばにいてくれると思い込んでいました」


「はい―――」


「もし私がラリアに洗脳に対して耐性の訓練を行っていれば、きっとこんなことにはならなかったでしょう。なので、私の方から深く謝罪をさせていただきます」


 キューラは部下の不手際を詫びるように椅子から立ち上がり、腹から体を曲げて頭を下げる。


「―――大変申し訳ございませんでした」


「いやいや、キューラが謝る事はないよ。むしろ謝りたいのは俺の方だ。あの時俺が何もできないばっかりに……」


「―――いえ。私のリーダーとしての力量が足りないばかりにこのようなことが起きてしまったので、アラン様は何も悪くありません」


 キューラは頭を上げない。きっと彼女も精神的に結構きているはずなのに、こんなに頭を下げてくるので俺の罪悪感は更に膨れていった。


「キューラ。もうやめよう。こんなとこで謝りあってもどうしようもないよ」


「―――お気遣いありがとうございます」


 キューラはやっと頭を上げてくれた。しかし、彼女の顔は今にも泣きそうだが我慢しているような感じだった。


「キューラ。今はこれからの事を考えよう。まず一個目はいかにしてラリアにもう一度会うかだ」


 そうだ。ここは一度冷静になって、自分のやるべきことを考えるべきだ。


「はい。そのことに関して何ですが、先ほど魔王様から言われておりまして、本日は待機とのことです」


「は? 待機?」


「そうですね。今は一度準備を整えてから再び中央国家に戦争を仕掛けるとのことです」


「―――ということは、サーベラスに同盟の話をしにいくのか?」


「はい。早速明日の朝に魔王様とアラン様で基地に向かうようです」


 ―――なるほど。そうきたか。

 でも魔王のこの一手は俺も賛成だ。このまま魔王軍だけで突っ込むよりも一回サーベラスに同盟の申し込みをしてみて、同盟成立ならそれでよし。失敗すれば魔王軍だけで戦うことになるが、別に失敗したとしても俺たちに何かマイナスがある訳ではない。だからダメもとで交渉するのはアリだ。


「―――分かった。じゃあ、俺は明日に向けて休むことにするよ」


「―――はい。できれば私もお力になりたいですが、ここはアラン様たちに頼るしかないので、よろしくお願いします」


 キューラは再び軽く頭を下げる。

 俺はそのキューラにこちらも頭を下げ、食堂を後にして自室に戻った。



 ―――ふう。明日は遂にサーベラスに向かうのか。

 俺が悪魔軍についたことを団長やロイドたちはどう思うだろうか? もしかすると俺は完全に敵だと思われるかもしれない。でも、もしかすると心配してくれているかもな。


―――俺は少し不安を抱えながら、ベッドの上で眠りについた。




 

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