第47話 潜入作戦 十一

 ―――●▲◆■


 ―――なんだろう。誰かの声が聞こえる。


「■●●▲!!」


「◆■●▲◆■●▲!!!」


「……■●●▲◆■」


 何だ? 何を言っているんだ? 

 ―――というか、なんで俺は声が聞こえるんだ? 俺は確か、ラリアに殺されたはずだ。なのに、なんで俺にはまだ意識があるんだ?


 あぁ。もしかしてあの世ってやつかな? サーベラスの図書館にある本でチラッと見たことがある。もし俺達が死んだらあの世っていうなんでも願いが叶う世界に行くらしい。

 でもなんでも願いが叶うってなんだよ。例えばその願いが結婚したいとかだったら、あの世の誰かが俺と結婚してくれるのか? でもそもそもあの世ってどういう世界何だろうか。そこには暖かい家族とか平和な村とかが待っているのだろうか。


「■●▲?!」


 あーもーうるさいなぁ。俺は今さっき死んだばかりなんだぞ? 少しは休ませてくれよ。


「■●▲◆■●!!」


 体を揺らすな揺らすな。そんなに焦らなくても少し休んだら起きるって。


「■●●●●▲◆■」


「▲◆■?!!」


「だっから!! もう少ししたら動くから今は休ませろよ!!」


 俺はあまりにもしつこく喋りかけて来るので思わず飛び起きてしまった。

 だが、そこで俺が見たものは信じられない光景だった。


「―――起きたか」


「ふぁ?」


 なんと俺の目に写ったのは俺もよく知っている魔王の間、―――の床。

 そして、周りには数人の悪魔と遠くにはいつも通り座っている魔王。理解ができない。


「―――どういうことだ?」


「簡潔に言えば君は負けた。そして、一度死んだ」


「え? 死んだ?」


「そうだ。あの時君は一度死んだが、僕の力でまたこうしてに生き返ったんだ」


 ―――擬似的に? どういうことだ?

 俺は足をフラフラにして立ち上がり、魔王の方を見る。だが、何故か視界がおかしい。どこか距離感を掴めないというか、フワフワするというか――。


「まぁまだ立たないほうがいいよ。君は奇跡的に僕の蘇生もどきの魔法が上手くかかっただけで、身体機能はあまり回復していない」


「そうですか。でもありがとうございます。もし魔王様の力が無ければ今頃私は……」


 死んでいただろう。

 初めて俺は魔王に本気で感謝した。


「―――まぁ今日は休みなよ。さっきも言ったがこれは擬似的に生き返っただけだ。本来は君は死んでいる存在だ。だからそれなりの反動がくる」


「反動?」


「―――うん。僕が君にかけた魔法は時間の遅延魔法だよ。君があの時ラリアに斬られた傷を未来に先送りにした」


「……はぁ」


 先送り? よく分からん。


「えーっとね、簡単に言えば、君はあの時致命傷の斬撃をくらって君の体は死体になった。だが、その時僕が君の生命反応が凄い速さで下がっているのが分かったから、その場に一瞬でワープして君の体を持って戻って来て、君の体の傷の時間を戻した。斬られる前の時間にね」


「うーん。つまり、俺の体だけがラリアと戦う前の時になっているから斬られてないってことですか?」


「まぁそういうことだね。詳しくはまた今度説明するよ」


 やっぱ魔王ってすげぇんだな。時間を戻せるなんて無敵じゃねぇかよ。


「でもまぁ、体の傷の時間を戻したということはあと数時間後にまたあの斬撃が来るよ。それとあとその時の疲労感もね。だから、それまでに治療室で安静にしておいて、斬られた瞬間にすぐに治療できるようにしておかないとね」


「はい」


「それなら、致命傷をくらってもすぐに傷を塞げばなんとかなると思うよ」


「―――はい」


「―――ん? どうしたの?」


 ―――俺がまた生きてここに返ってこれたのは嬉しい。だが、ラリアとエルグランドはどうなったのだろうか? もしかして、


「ちなみに、ラリアとエルグランドは―――?」


「彼等はもうどうしようもない。ラリアは完全にあっち側についてしまった。エルグランドは死んでしまった。もうあの二人はこっちには帰ってこれないよ」


「―――は?」


 ラリアはともかくとして、エルグランドが死んだ? 


「―――エルグランドは死んだんですか?」


「うん。彼は一瞬で死んでしまった。恐らく即死させられたんだろう。そうなれば君みたいに助ける事は出来ない」


 魔王は俯きながら、エルグランドの死を追悼しているような顔をしていた。


「―――そうですか。分かりました。とりあえず僕は治療室に言ってきます」


「うん。また治ったらここに来てね」


 俺は魔王に背を向け、魔王の間から出て、廊下を渡り、階段を下り、また廊下を渡って部屋に入った。そこには、薬品であろう瓶がびっしりと入った棚がズラーっと並んでおり、誰もいなかった。


「―――くそが」


 俺は後悔していた。

 もしあの時、俺が三人固まって動こうと提案していればこんなことにはならなかったのかもしれない。もしかしたら今頃俺もエルグランドもラリアも笑顔でここに戻って来ていたのかもしれない。今頃一緒に飯を食って、笑いながらくだらない話をしていたのかもしれない。


「やってらんねぇよ」


 俺は、不貞腐れた幹事で近くにあったベッドに入る。


 そして、数時間後。治療班の悪魔達が再び傷が来るタイミングで俺を治療してくれて、なんとか俺は生き延びることができた。



 ―――だが、俺は生きた心地がしなかった。

 俺だけ助かってしまったという現実がいやでいやで仕方がなかった。





 


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