第46話 潜入作戦 十
―――アラン、ルイ、ガルフィー。お前たちを殺す。
「―――ラリア?」
「―――気安く名前を呼ばないでください」
「は?」
「私はもうあなたの物ではありません。私はもうご主人様の物です」
―――意味が分からない。
ご主人様? どういうことだ? ラリアがご主人様と言うとしたら俺か魔王に対してしか言わないはずだ。
「おいラリア。今はふざける時じゃ―――」
「近寄るな!」
ラリアはゆっくりと近寄る俺に向かって牙を向けるように叫ぶ。
それにラリアは目がどこかうつろだが、瞳の奥には殺意が芽生えている。しかし、その殺意は決して俺に向けてというよりも、ご主人様とかいう奴以外は全員敵に見えているようだ。
「こいつ、お主の仲間か?」
「それにしちゃー、仲悪すぎじゃねぇか?」
ルイもガルフィーもラリアから敵意を向けられており、ラリアは俺達三人全員を目で追っている。
「……いや、こいつは今は仲間じゃないみたいだ」
「……なるほど。恐らくあやつは洗脳系の魔法でもかけられているんじゃろうな」
ルイは横並びになっている俺達から一歩出て、完全に戦闘態勢に入る。
「そういうことかよ……」
洗脳か。エルフが言うんだから間違いないだろう。
「だったら容赦はできないな。例え元仲間であっても俺はお前を殺して作戦を遂行する。それが俺のやるべき事だからな」
―――と、カッコつけてはみたがぶっちゃけどうしよう。俺はきっとラリアには勝てないだろうし、ルイやガルフィーの力を借りたとしても負ける可能性がある。なんてったってラリアは悪魔軍の第八軍の二番手ぐらいの強さなんだ。
―――一旦整理しよう。
今、俺の目の前には恐らく洗脳か何かされたラリアがいる。そして、そのラリアは俺達三人に敵意を向けているので、きっと殺しに来るだろう。しかし、俺は正直ラリアと殺し合いはしたくない。せっかくできた仲間なんだし大切にしたい。
だから、ここは戦う方向ではなくラリアの洗脳を解く方向でいこう。
「―――なぁ」
「ん?」
「なんじゃ」
俺の声に対して二人共耳を傾ける。
「俺はこいつと戦いたくない。どうにかしてもとに戻したい」
「ふむ。それが一番良いのは分かるが、洗脳を解くにはかけた魔術師を見つけなければいけないのじゃ」
「うん。分かってる。だから―――」
だがそこに、俺達がこうやってコソコソ話していると、痺れを切らしたラリアは飛び掛ってきた。
「殺す!」
ドカッ!
「……まじかよ」
ラリアは俺達の足元に飛び蹴りをしてきた。するとその地面は割れて、ヒビが大きく入った。
俺達は三人ともそれぞれ別の方向に飛んで逃げたが、もし当たっていれば骨ごと砕けていただろう。
「グルルルル……」
「……」
ラリアは再び俺達を目で追う。そして、からよだれが垂れていて、まるで飢餓状態の恐竜のようだ。
「避けるな! 殺す!」
恐竜女はまたもや飛び蹴りをするために宙に舞う。しかも今回の標的はどうやら俺のようで、足裏を俺の方向に向ける。
「また来るぞい!」
「わーってるよ!」
ガッシャーン!
―――あぶねぇ。
俺はどうにか回避した。だが、今回はすれすれで避けた感じで俺の体勢は崩れている。というかこけた。もしここで追撃をされたら俺はやられる。
「もう逃さない」
さすがのラリアさん。
隙が出来た俺になんの躊躇いもなく、手を思いっきりぐーっと握りしめ、
「終わりだ」
ゴス!!
ラリアはそのカチカチの拳を俺の腹にぶつける。それと同時に俺は地面に擦れながらふっとぶ。
「―――ぐへっ! ちょっとやり過ぎじゃないか?」
俺は血を吐きながら、ラリアに冗談を言うような温度感で話す。
「悪く思わないでください。これはご主人様の命令ですので、仕方がないことです。それに、なんの抵抗もしなければ苦しまずに殺して差し上げますよ」
ラリアはもう完全に俺のことを敵だと思っているらしい。さっきよりも更に冷酷に、言葉が重くなっている。
「……へっへっへ。もう詰みってやつかな?」
「そうですね」
―――やべぇな。いくらなんでももう厳しすぎる。顔では余裕そうにしているが、もう何の抵抗もできない。
さっきの腹パンで俺の肋骨はバリバリに折れただろうし、もう動けねぇ。それに、魔法の方も俺の魔力じゃ勝てない。
ラリアは飛んだ俺に近寄り、座り込む俺の前に立つ。
「―――終わりだ」
ザシュッ!!
ラリアが「終わりだ」といった瞬間、急に俺の顔から上半身にかけて大きな剣で切り裂かれたような傷が入った。
俺は、致死量を超える出血をして、霞む目を擦る力も無いので、ただ自分の体の限界に従い、そのまま意識を失った。
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