第45話 潜入作戦 九

 ―――外に出た俺達は新鮮でおいしい空気を吸い、心地よい風が吹いていて気持ちが良かった。


「いい空気だぜ〜」


「だなぁ、ガルフィーもよくやってくれたぜ」


「小僧たち、まだまだ気を抜くんじゃないぞ」


 俺達は脱獄した喜びを噛みしめる。

 しかし、まだ完全に脱獄した訳ではない。一刻も早くここを離れてこの街から出ないとすぐに応援がやってくるだろう。


「だが、お主達も中々やるのぉ。ワシのでる幕が無かったわい」


「いやいや。先輩の魔力が無かったら俺はあの看守にやられたぜ~」


 ガルフィーとエルフはグータッチをして、絆を確かめ合うようにお互い笑顔で見つめる。


「……お前達ってどういう仲なんだ?」


 俺は何故かその仲の良さというかなんかいい感じの関係性がとても羨ましく思ってしまった。


「あぁ、そうだな。俺たちは同じ組織の先輩、後輩だ」


「―――組織?」


「うむ。ワシ達は調だ」


 ―――サーベラス。

 サーベラスか。―――ふーん。


 ――――――え?


「は? サーベラス?」


「おうよ。―――あ、もしかしてサーベラスって聞くとあまりいい印象持たない感じ?」


「いや、別にそういう訳ではないんだが……」


 サーベラスか。まさかこんなところで出会うとは思わなかったな。

 ―――だが、これはちょうどいい。こいつらの目の前で中央国家の奴らを倒して俺達悪魔軍の意向を示すチャンスだ。


「そういえば、エルフのの名前を聞いてなかったな。なんて言うんだ?」


 俺は今更ながら手始めに自己紹介から始めることにした。まずは名前を聞いておかないとな。


「おっさんとか言うでない。―――ワシはルイ。ルイ・ルームじゃ」


「ああ。そういえば俺も挨拶してなかったな。―――俺はガルフィー・ロベルト。ルイさんの直属の部下だ」


 ルイとガルフィーか。

 俺がサーベラスに居た時は聞いたことない無い名前だったな。

 しかし、調査団ということはあのロイドの一個下のクラスの奴か。実力は恐らくかなりのものだろう。現にガルフィーは即死魔法を使っていたし、その上司となるとこのルイって奴はどんだけ強いんだろうか。


「俺はアラン・ディーリーだ」


「おう! よろしくな!」


「よろしく頼むのぉ。―――ところで、お前さんは何者じゃ?」


「ん?」


「お前さん。見るだけで分かる。悪魔の者じゃな?」


「……やっぱり分かるのか?」


 さすがエルフ。全種族の間でも格段知能が高い奴らだ。だからきっと魔法に対しても知識が豊富で、きっと俺の悪魔の匂いがする魔力に反応するんだろうな。


「うむ、分かるぞい。だが、悪い匂いはしない。悪魔の中でも結構訳アリという感じじゃな」


「―――当たりだ」


「じゃろうな。しかも、お主は人間。……いや、人間では無いな。きっと亜人であろう?」


「それも当たりだ」


「まじかよ!」


 ガルフィーは体全体で大げさに驚いている。

 ―――というかすげぇな。エルフとはいえここまで分かるのかよ。


「―――その亜人さんがなぜここにやってきたのじゃ?」


 ルイは先ほどまでの俺を仲間だと思っていた目が急に鋭くなり、少し警戒した感じの目になっていた。


 エルフは、人間と仲が良い。だからサーベラスや中央国家にエルフが加勢という形で組織に入ることも多い。だがそれが故に悪魔や亜人など、四大種族とは仲が悪くなることも多々ある。


「それは……」


「……」


 俺は無言になった。

 ここで自分の正体を明かしてもいいけど、もしかすると基地に帰った時に教官とか団長とかに俺の事を話されるかもしれない。もし、言われたらちょっと面倒くさそうだ。

 だから―――、


「俺は、なんやかんやあって悪魔軍に入った亜人族だ。そして今、悪魔軍ではとある計画を達成させるためにここに来たんだが、うっかり捕まったて感じだな……」


 俺は思いつきの言葉でしどろもどろにごまかす。


「……まぁよい。どうせここで別れるんじゃから、もし敵対するようなことがあればいづれまた会うじゃろう」


 エルフは鋭い目をやわらげて、俺とは違う方向を向いた。


「……そうだな」


「……」


「……」


 ―――しばらく、静寂が続く。


「……」


「……」


「……まぁ、いいじゃねぇか! 俺たちは所詮脱出するまでの仲なんだし、これより先はお互い詮索は無し! これでいいじゃねぇか!」


 ガルフィーがこの気まずい間に終止符を打ってくれた。


「そうだな」


「そうじゃな―――」


 俺は本心だが、エルフさんの方はあまり同意していない感じだ。





 ―――だが、ここでこの三人組のきつい空気にが現れる。



 ドカーン!



 俺達三人組の前に、土埃と何か重いものが落ちて来たように地面に何かが降り立った。


「なんだなんだ?!」


 ガルフィーが頭ごときょろきょろさせて、辺りを見渡す。

 ―――そして、ガルフィーだけで無く、俺もルイもなにがあったと思いながら体を自然に警戒態勢にする。



 ―――だが、これは当然だ。

 なぜなら今俺たちの前にはあの銀髪並みの魔力を持った何かがあるからだ。



「……アラン、ルイ、ガルフィー。お前たちは―――」


 俺は徐々に晴れていく土埃の中から声が聞こえる。

 ―――そして俺は信じられないもの。いや、人を見た。そいつは、はっきりと顔が見えなくても、目だけははっきりとしていてその目は殺意ムンムンだ。



「―――私が殺す」


「お前は……、ラリア?!」


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