第44話 潜入作戦 八


 え? 百歳?


「……あぁ、この姿では少々分かりづらいかのぉ」


「この姿?」


「ワシはこう見えて、もう既に百歳を超えているだが、よくワシの耳をみたまえ、長いじゃろ?」


 その子供の耳は金髪がかかっていて、よく分からなかったが、注目して見ればその髪の間からはとんがっていて長い耳があった。


「まぁ長いけど。それがどうかしたのか?」


「いやいや、お主。この耳といえばエルフ以外ないであろう」


 エルフか。

 そういえば魔王城の部屋にある本で見たことがある。確かにエルフは回復系と風系の魔法に秀でており、更に特徴的なのは非常に長寿であることだ。

 平均死亡年齢は五百歳。長生きするもので八百歳も生きるらしい。


「なるほど、エルフならその歳でその見た目なら納得だ。けど、なんでわざわざ男臭い男になってたんだ?」


「それはそっちのほうが都合がよかったからじゃ。ここに捕まった時はこの姿でないとこなせない任務があってのぉ。そのまま捕まったのじゃ」


「いやいや、それなら捕まった瞬間にヘンゲの魔法を解けばいいだろ」


「これはこう見えて結構な魔力を消費するからのぉ。まだワシでは一日に一回くらいが限界なんじゃ。だから変化したらもうその日には戻れないんじゃ」


「欠陥魔法じゃねぇか!!」


 こいつ。さも強そうなエルフ感出してるけどただの弱い魔法使いかよ。


「仕方ないじゃろ。というか年上に向かってなんだその口の聞き方は?!」


「なんだクソガキが! どうせお前俺より弱い奴だろ?」


「あぁん?!」


 もしかするとこいつの使う魔法は本当に魔力の消費がデカイかもしれない。だが、デカイとしても普通はその魔法は使わないだろう。その判断ができないその頭の悪さで強い魔法使いをやれるはずがない。


「そこまで言うなら見せてやろう小僧。ワシの本当の力をな!」


「あ?」


 金髪の子供はそう言うと立ち上がり、檻に向かって右足の先を向ける。


「―――デッドアンデルセン」


 すると檻は壊れ、というか朽ちたようボロボロと壊れていく。


「折れた。いや、脆くなったのか?」


「そうじゃ。この魔法は物質の中に風を送り込み、物質構造を破壊させる。そうすれば物質は内部から砕けていって時期に壊れる」


 ほほう。それは言うほどある魔法じゃないか。でも、そのくらいの魔法は普通の風系魔法を使う人間ならきっと誰でもできるだろう。本に書いてあった。


「ふーん。でもそんくらいじゃぁなぁ〜」


「なんだと小僧。じゃあこれも見せてやるわい」


 金髪は檻の外にいる俺の横を通り過ぎ、そしてガルフィーと看守のやりあいを遠くから見て、


「ガルフィーの奴。あの程度で苦戦するとはあいつもまだまだじゃのう」


 お前だって捕まってるじゃねぇか。


「―――まぁよい。それよりも無事に生きてて何よりじゃ」


 すると、金髪は次は心臓の位置に右手を置き、体内から魔力が大量にこもった謎のうねうねした塊を出現させる。


「なんだそれは?」


「これは魔力の塊じゃ。これをガルフィーにぶつければあんな看守共なんてイチコロじゃ」


 魔力の塊。そういえばこれも本に載っていた気がする。たしかこの魔法を使えば他者に自分の魔力を分けることができる。しかしこれは魔力の操作が極めて優れている者にしかできない、まさにこれが出来るか否かで一人前の魔導士になれるかどうかというところだ。


「お前は魔法を使わないのか?」


「使わん。使ってもよいがあいつがどれほど強くなったか見てみたくてのぉ」


 なんじゃそりゃ。


「では、いくぞい」


 そして、男はそのうにゃうにゃを肩の力を使って思いっきりと投げ、ガルフィーの背中にぶつける。すると―――、


「ん……?」


 ガルフィーは何かがぶつかった感覚はあったが、何かは分かっていない様子だ。

 だが―――、


「うおぉぉぉぉ!!!」


 何かがみなぎっているようだ。恐らく魔力が増大しているからだろうが、それにしては大げさ過ぎではなかろうか?


「やれる! この力ならやれる!」


 ガルフィーは必要以上に大声で今の自分を分籍している。どうやらその魔力なら倒せるそうだ。

 看守達も何だ何だと這児に後退りし、片方は転んだ。これならいけるだろう。


「いくぜ!! スティールハートォォォ!!!」


 ガルフィーへ魔法を大声で唱える。

 すると、ガルフィーの前にいる看守の心臓の位置から何か薄赤い何かが現れ、それがガルフィーの手に引き寄せられるのが見えた。


「なんだぁ? あれは」


「ほっほっほっほ。地味な技だが最高クラスの魔法を使えるようにまでなったのか。成長成長」


 最高クラスの魔法だと? あいつ、たしか盗賊的な奴をやってて魔法はからっしきだと言ってたぞ?


「あいつそんな魔法使えたのかよ」


「そうじゃよ。でもあいつの魔法はどちらかというと魔法ではなく業という感じじゃな」


 ―――俺達がそんな会話をしていると、ガルフィーは手にある薄赤いやつを手で握りしめる。すると、看守達は悶えたように苦しんだ様子だった。


「あいつ、何したんだ?」


「あいつは今看守達の心臓を握りつぶしたぞ。だから看守達は胸が苦しくて息もできない状態になっている。まぁいわゆる死亡じゃな」


「……つよ」


 どうやらガルフィーさんは強いらしい。この金髪の援助があったとはいえ相手の心臓を直接潰すことができるんだから、もう反則級の魔法だろ。



 こうして、俺達は無事三人とも入口にある階段を登り、外にでることができましたとさ。

 





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