第43話 潜入作戦 七
―――さぁさぁ夜がやって来た。
「夜か。……じゃあ始めるぞ」
俺は座った重い腰を上げて、剣に手を置く。
「……そうだな。準備はいいか? 兄弟」
ガルフィーはその声に応じて、同時に腰を上げ、その腰を
「あぁ。お前こそ魔力は溜まってんだろうな?」
「もちろんだ」
俺とガルフィーは兄弟の盃を交わした。と言ってもご飯の時に配られる水なんだが。
「この夜、俺の人生が決まるんだ。ガルフィー、きばってけよ!」
「おうよ!」
俺とガルフィーは今夜この牢獄から脱出を試みる。
しかし、この牢獄の守りを崩すのは簡単では無い。だからこのガルフィーとかいう男と共にこの頑丈な警備を潜り抜けるには必要だ。いくら何でも俺一人ではこの局面を切り返すのは至難の業だ。
「じゃあ俺は作戦通りこの牢屋を魔法でぶっ飛ばす。そして、ガルフィーがその瞬間に入り口に立っている看守を猛ダッシュで気絶させる。そうすれば階段を昇れば後は突っ走るだけだ」
「おうよ。でももしかすると外に見回りの兵士がいるかもしれねぇ」
「その時はその時だ。どんだけ強くてもぶっ飛ばす以外方法は無い」
この作戦を実行するには、看守をぶっ飛ばすより外で徘徊している兵士をどうにかする方が問題だ。もしかするとその中にあの銀髪の女よりも強い奴がいるかもしれない。
「じゃあ……、行くぞ!!!」
俺の合図と共にガルフィーは全力ダッシュの姿勢を取る。
「―――ホーリーブレイド!」
ザシュッ!
俺は魔法を唱えると同時に手に短い光の剣が出現する。そしてその剣で魔法に反応して光っている檻を切り裂き、檻は崩れて俺たちが出るには十分すぎるくらいの穴が開く。
「よっしゃぁ!」
ガルフィーはその穴から勢いよく飛び出て、牢屋が続く廊下を走り、あっという間に遠くの看守たちの元にたどり着いた。もちろん看守たちは寝ることも無くさきほどの檻を壊す音に気付いて武器を持って警戒していた。
この二対一の状況、ガルフィーの方が圧倒的に不利だ。ガルフィーがどれだけ強いか知らないがこっちは素手で相手は武器持ちでしかもガルフィーはただの盗賊的な奴だから戦闘向きの奴じゃない。
―――と、あっちの心配もしたいところだが、こっちもやることがある。
「さて、ここを出る前にあいつをすぐに見つけないと」
ガルフィーが言うには、どうやらここにもう一人ガルフィーの仲間がいるらしい。その仲間は子供らしい。金髪で、片目が青く、なんともう片方の目は潰れているらしい。
「どこだー? そいつはここの階にいるらしいがどこにいるんだ?」
俺はガルフィーとは反対方向に走る。しかし横目で牢屋の中を見ていくがどこにも子供なんておらず、屈強な男しかいない。
そして、遂に突き当りまできてしまった。この廊下は一本道で、看守が立っている入り口から今俺がいる壁までなんの分かれ道も無い。それにガルフィーが看守の方に行く時に見つけるはずだからあっち方面にもいない。だからきっとこの道のどこかで例の子供を見るはずだ。
「でも、この道はもう終わり。やべぇ、見つかんねぇ」
早くしないと応援が来てしまって俺たちはまた捕まってしまう。
「早く。早く見つけないと」
いくら辺りを見渡せどやはりどこにも子供がいない。いくら見ても壁、檻、廊下、遠くにガルフィーと看守のやりあい。
どうする。このまま俺達だけでもここから出るか? いや、もしそんなことがあればガルフィーに会わせる顔が無い。
俺はさらに血眼でもう一度牢屋を走る。
―――すると、オロオロしながら走っている俺にとある小さな声がかかってきた。
「おい、小僧。お前さんが探しておるのはワシのことじゃろ?」
「……え?」
その声は横のむさくるしい男の牢屋から聞こえてきた。
「ワシのことを探しておるのじゃろぉ。ガルフィーのやつが突っ走った足音が聞こえたかのぉ。きっと脱出を始めたのじゃろ? じゃあワシもここを出るとするかの」
……?
「おっといかんいかん。この姿では体が重いので、この姿を解かないとな」
するとこのマッチョはドロン! と音を立てて、少し煙を出す。
そのドロンに反応して、檻が光はじめる。
そしてその煙が少しづつ晴れていくと、そこには―――、
「ふう。この姿に戻れてなによりじゃ。もし使えばこの檻が反応するからのぉ」
……?
「ん? 何をぼーっとしておるのじゃ。さっさとここをでるぞ小僧」
今、俺の前にはマッチョから変化した小さな金髪の子供がいた。だがその子供の喋り方は見た目とは正反対のじじぃ口調だった。
「お前……」
「なんじゃ小僧。百歳超えのワシに向かって『お前』とは不敬であるぞ」
―――え? 百歳?
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