第42話 潜入作戦 六

 ―――そして、エルグランドが殺された時と同じくして、とある街の地下牢の奥底では、


「……アラン様。どうかご無事で」


 その奥底ではアランを無事を祈る、健気な女。いや悪魔が正座をして、両手を組み、額に手を付けながら地下牢に閉じ込められている者がいた。


「アラン様。私はここにいます。地下牢の最下層の特級犯罪者の巣窟、<マーター・エンド>で」


 ラリアは自分の心配もそうだが、アランの心配もしている。

 しかし、そんな可愛い悪魔さんの元にゲス野郎が現れる。


「 ラリアちゃ〜ん。今からお楽しみの時間だよぉ」


「ひっ……!」


 ラリアの背筋に寒気がただよう。

 今、檻越しでラリアの向こう側に立っている男がいる。しかもその男は、小汚いお坊ちゃんって感じで、ラリアの体をいやらしく見ている。


「いい加減その悪趣味な行動は止めたら?」


「悪趣味ぃ~? これは立派な儀式だよ! ぼくちゃんと君が結婚する上で大事なことなんだよぉ~。 そちらこそいい加減素直になってぼくの物になりなよ」


「……きもちわるい」


 この男はラリアが捕まってから何度もここに現れ、ラリアの見物に来ている。


「お前はもう既に何人も妻がいるでしょう? だったらこんなとこで油売ってないで妻の元に行きなさいよ」


 ラリアは見下した目でその男を見る。


「いやいや、あいつらはただの性欲処理機だよ。別に愛してなんかいないし、飽きたらそこらへんの男に高く売りつけてやるぜ~」


「……最低」


「ん? 何なんだその口の利き方は。そのうるさい口にいいもの突っ込んで黙らせてやろうかぁ~?」


 男は股間をムクムクとさせて、もはやえぐい程の気持ち悪さでラリアはドン引きだ。


「これがこの国の権力を握っている人の一人なんてもう終わりだな……」


 そう。この男はこの中央国家の第三王子である。

 なのでこいつは国の方向性を決める際に大きな権力を持っている。しかし、この通り下卑た性格をしているので、権力を己の欲を満たすためにだけしか使わない。


「私はどんな拷問を受けようと、決して己は曲げない。私はアラン様に仕える身だ。お前なんかに私は屈しない!」


「おいおい、何を言っているんだ? そんな全裸同然の格好で、しかも両手両足手錠で床に固定されている。こんなエロくて誘っているような女がそんなたいそうなことを言ってもまったく説得力が無いぞぉ~」


「……な?! これはお前たちが勝手に……!!」


「その割には平気そうな顔してるなぁ~。 もし本当にその決心を曲げないという自信があるなら試してやろうか?」


 そして、この男は牢屋の檻を開け、カツカツと音を立てながらラリアに近づく。


「止めろ! 近寄るな!」


「うへへへへへ。大丈夫だよ~。すぐに楽しくさせてあげるからねぇ~」


 男は服を脱ぎ棄て、その服の中からとある液体が入った小さな瓶を取り出す。


「……これ、何か分かる?」


「……」


「これはねぇ~、人間でも悪魔でも何に対しても効くだ。これを使えば今のお前は変わり果てて一生俺を求めることになるぞぉぉ」


 ―――遂に男の欲求は限界を超えた。

 第三王子は、その媚薬の栓を開け、中の液体をラリアの口元に近づける。


「やめろ……、やめろ……」


「本当の天国をぼくが見せてあげるよ~」


「やめろ……、……やめてくれ」


 しかし、このラリアの声は興奮した王子の耳には届かない。届いても逆にその反抗的な態度が性欲を逆なでする。


「は~い。お口を開けましょうね~」


「ん……、んぐ……」


 王子は嫌がるラリアの口を無理やりこじ開け、その中に媚薬を一本丸ごと突っ込む。


「ん……、ん……」


「さあさあ飲め飲め~」


 ―――グビ! グビ!




 そして、ラリアは喉に直接流し込まれた媚薬を体の中に入れてしまった。


「さぁさぁ、どうだい? どんな気持ちだい?」


 王子は顔をラリアの胸に乗せ、下卑た目でラリアの顔を下からのぞき込む。

 そして―――、




「はい、欲しいです。王子様の言うことなんでも聞くので、あれをください」


 ―――ラリアは堕ちてしまった。


 

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