第40話 潜入作戦 四

 家畜のご飯を食べた後、俺とガルフィーはあぐらをかいて、向かい合うように座った。


「うっし! それじゃあ、作戦を説明する」


 ガルフィーは、朝から元気で大きな声を出す。今は本当に朝か分からないが。


「静かにやれよ。他のやつに聞かれたらどうするんだよ!」


「そういうお前だってでっかい声出してんじゃねぇか」


「うっせ!」


 こいつ、最初は結構やる感じの奴だと思っていたが、意外とそうでもないかもしれない。


「まず最初に説明することは、この牢屋からどうやって出るかだ。ずっと考えているが何も思いつかない」


 本題に入ったので、さすがにガルフィーは小声で話し始めた。


「そこからかよ。俺はてっきり何か策があるのかと思ってたよ」


「しょーがねぇだろ。俺だってここに入ったのはつい最近なんだ」


「ふーん」


 最近だったのか。こいつ、如何にもここに慣れてますよって感じがしているのに最近って、適応力高すぎだろ。


「けど、ここを出た後の事は俺に任せてくれ。俺の仲間がいまかいまかと俺の脱出を心待ちしている。だから、俺達は外に出た瞬間勝ちだ」


「結構用意周到だな。でも、この牢屋から出られなければ何の意味もないな」


「だなー……」


「……」


 詰まってしまった。まだ作戦会議を始めて二分くらいしか経っていないのに、もう無理そうだ。

 けど、俺も何も思いつかない。こんな牢屋のお手本のような鉄格子と壁。そして周りの牢屋には猛獣の如く激しい囚人達。今もこうして俺達が話している間にも目の前の牢屋の中では殴り合いが起きている。どうやら、飯を取られたことにはらをかいた奴が、取ったやつを馬乗りになってボコボコにしているようだ。

 こんな要塞みたいな牢屋でどっから脱出すればいいんだよ。


「……俺達もこのままだったらあんな風になるのかな?」


「いや、あれは元々極悪人なんだ。あれが本性さ」


 ―――あれが本性か。でも、俺もこんな退屈でただ時間だけが経つ空間に放置されたらあれくらいになる自信がある。


「ちなみに、ここの看守的な奴はいつ来るんだ?」


「ここには、朝夜のご飯を置きに来る時と、あと暇な兵士達がここに遊びに来る。それと、常に監視役が地下牢の入口に二人は立っている」


「うーん、なるほど」


 正直この壁とかを魔法で破壊して脱出してもいいが、そうすると周りの兵士にバレてすぐに応援が来る。もしその中にあの女のような強いやつがいれば、また捕まってしまう。


「なら、この壁を破壊するのはむりか」


「そうだな。俺も一度破壊することを考えたが、魔法を展開させたのがばれて、とんでもない拷問にあったぜ」


「おう……」


「この鉄格子は魔力に反応するから、もし魔法を使おうとすると光って、見張りの看守が気づく」


 ……本当に詰みじゃねぇか! もうとっておきの魔法も使えなくなっちまったよ。


 ―――だが、俺にはとっておきを超える秘策がある。


「うーん。じゃあ、これはどうだ?」


「あん?」


「正面突破」


「……は?」


「だから、正面突破」


 もうこれしかない。この鉄格子を無視して魔法を使って、どしどしやってくる兵士共を力ずくで突破する。これが今の俺たちができる最善策だ。


「……まぁでもこれが一番やりやすいか」


 ガルフィーも俺の意見に納得してくれたようだ。どうやら俺とガルフィーは気が合うらしい。


「よし! じゃあ、いつやる?」


「いつって、アラン、お前は急ぎじゃねぇのか?」


「急ぎだよ。今も俺の仲間が頑張って俺の救出に勤しんでいるかもしれない」


 ―――と信じたい。

 ラリアはきっと俺を必死の思いで助けようとしてくれているが、エルグランドの方は俺のことなんて切って捨てそうだ。あいつは仕事人って感じだからもはや自分の命を捨ててまで任務をこなしそうだ。


「じゃあ、決行は今日の深夜だ。この時間なら警備も甘いし、監視の看守もさぼって寝始めたりする」


「よし。じゃあ、それまで―――」



 寝るか。





 ―――一方その頃、エルグランドは……、


「……」


「……」


 エルグランドはひとけのすくない裏道でアランを捕まえた銀髪の女と対峙していた。しかも、エルグランドは息切れを起こしているが、女は特に息も切らさず、なんならあくびもかましていた。


「お前、何が目的だ」


「だから、お前を捕まえる。ただそれだけだ」


「……それにしては、お前何故本気でやらない?」


 この二人は、出会ってもう一時間は経つ。その間にエルグランドは女に何度も剣を向けるが、女はそれを流して、エルグランドを遊んでいるようだ。

 そして、女はとあることをエルグランドに告げる。




「―――お前が、私の仲間だからだ」




 

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