第38話 潜入作戦 二

 ―――しばらくして、俺たちは門の近くに戻って来た。

 しかし、いくら待てどラリアは帰ってこない。もう街の人はお家に帰り部屋の電気もポツポツと消えていった。


「……遅いな」


「そうだな。そろそろ男臭いこの空気も限界だ」


「うむ。同感だ」


 エルグランドも同じ気持ちのようだ。いや、俺以上にイライラしているだろう。さっきから腕を組みながら立っているが、時間が経つにつれ指を動かす回数が増えている。


「……探しに行くか?」


「そうだな。だが、万が一のためにここに一人は残っていた方がいいだろう」


「じゃあ、俺が残るよ。エルグランド、よろしくな」


「……了解だ」


 俺は疲れたので、ここで待機することにした。エルグランドはさっきからソワソワしているので、こいつに動いてもらおう。


「だが、お前も注意を怠るなよ。今は門番を眠らせているんだ。いつこれを誰かに見られてもおかしくないんだからな」


「へいへい。早く行ってくれよ。どうせこんな夜中に誰も来ねぇって」


「……」


 エルグランドはクソを見る目でこちらを見る。

 相変わらず、真面目すぎだぜ。こいつは出会った時から生真面目な奴だよ。まぁまだ出会って二日目なんだけど。



 ―――更に一時間後。


「あーもー、おそすぎだろ!」


 さすがに心が広い俺でもイライラしてきた。あれからラリアもエルグランドもここに帰ってこない。一体何があったんだ?

 俺は、重い腰を上げ、門から離れて再び街の中に入る。すると、そこにはもう店じまいをしてしまって静寂な街という感じだった。

 しかも、もう灯りもほとんどないので、視界が狭くなり風の音すらも怖くなっていた。


「……暗いなぁ」


 自分の足音がいつもより大きく聞こえるので、歩けば歩くほど、俺の恐怖心は膨れていった。

 だが、こんなとこをいつまでもウロウロと歩き回っても仕方ないので、とりあえず声を上げることにした。


「おーい! ラリアー! エルグランドー!」


 …………しかし、なにも返ってこない。返ってくるのは反射する俺の声が風に乗って来るだけ。

 俺はこの作業を何回も何十回も繰り返し、気づけば行けるところは全て行き尽くしたという状態になってしまった。


「……一旦門に戻るか」


 もしかするともう二人とも門に帰ってきているのかもしれない。それに体が疲れていて、もう眠気がビンビン来ているので、俺は一度戻ることにした。

 ―――が、俺が振り返り門の方に歩いていると遠くから何かが爆発する音が聞こえた。


「なんだ?」


 俺は気になったので、近くの家の屋根に登り、爆発が起きた方向を見る。

 すると―――、


 シャン!


 いきなりその方向から真っ直ぐに剣が飛んで来て、俺の頬をかする。


「……いった!」


 俺は幸いにもその剣が見えたので、避けることができたが、もし気づけなければ今頃俺の目ん玉は串刺しだ。


「敵か……」


 こうなれば、俺は今誰かに狙われている可能性が高い。こんな偶然にも剣が殺気を纏って俺の体に飛んでくるはずがない。

 俺はすぐにその屋根を降り、爆発音の発生地ではなく、近くにあった空き家に入り、扉を閉めて玄関に身を掛ける。

 だが、あれ程正確に剣を投げてきたんだ。かなりの強者に違いない。恐らく俺がここに隠れたのも知っているだろう。


「ハァ、ハァ。今はとにかく戦闘を避けて、なんとかラリア達と合流。もしくは、俺一人だけでも撤退だ」


 息も荒れてきた。これは敵と出会ってしまったという恐怖心か? それとも単に疲れただけか? どちらにせよとにかく冷静になるんだ。

 ―――だが、このように、俺が心を落ち着かせて息を整えていると、


「―――どこに撤退する気なんだ?」


「……な?!」


 俺の横になんの気配もなく、なんの音もなく、こんなにも静寂なのに息遣いも聞こえず、銀髪の女の人がいきなり現れた。

 俺はそれを認識した途端、その女から飛んで距離を取り、正面に立つ。


「お前は、悪魔の手先だな」


「何の話だ?」


 こいつ。何者だ。確かにこの隠密レベルの高さは常人とは段違いだが、決して見た目は強そうに見えない。歳もそれなりにいってそうで、とてもじゃないが、俺のほうが体を軽く動かせそうだ。


「そうとぼけるな。もう匂いで全てが分かる。それに、お前の仲間ももう一人見つけている」


「……」


 もう一人も見つけているということはラリアかエルグランドはこいつと一度出くわしているだろう。

 ―――ここで俺は一つ賭けに出る。


「お前、ラリアって奴と会ったか?」


「あぁ、あの女を取っ捕まえて情報を吐かせたぞ。もう一人仲間がいるということを」


「まじかよ」


 よし。賭けに勝ったぞ。今のこいつの言い方から察するに、恐らくエルグランドはまだ捕まっていないし、知らないかもしれない。それならもし俺がこの場で捕まってもまだ勝機はある。

 もし、エルグランドが捕まえられていた場合はさらに情報を撒く可能性があったので、ラリアについて尋ねたのは正解だったな。


「大人しく投降しろ。お前じゃ何があっても私には勝てない。このまま戦っても死ぬだけだぞ」


「……」


 俺は、こいつの言う通りに両手をあげて大人しく身を差し出すことにした。


「素直だな」


「あぁ、ここで死ぬよりかはマシだからな」


 今の俺がこいつと戦っても恐らく勝てない。先程までは動揺していて気づかなかったが、こいつは魔王程では無いが、それに近いぐらいの魔力を持っているのが、俺の魔力がこいつの莫大な魔力に反応していることから分かる。

 だから俺はここは一度降参することにした。




 エルグランド、後は頼むぞ。


 










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