第37話 潜入作戦 一
ラリアは、城壁に眠らせた門番二人をよりかからせて、三人とも腰を低くして作戦会議を始めた。
「それでは始めましょう」
「うい」
「うむ」
ラリアとエルグランドは現場慣れしているので次やるべきことが言わずとも分かるらしい。俺だけこの場で出遅れている感が半端ない。
「まず、三人ともこの街に堂々と正面から忍び込みます。その際、肉体変化の魔法で私の姿を変えます。そして、さも旅人の商人かのように装い、誰かに何かを尋ねられた時には、中央国家に賛成の立場のようにふるまいましょう」
「……なるほどな。でも、賛成の立場ってどういうようにするんだ?」
「はい。そこに関しては、私たちも国家の内情をよく知らないので、会話を上手く流しましょう。そこでついでに国王の名前だったり、重要人物についても聞いておきましょう」
「あぁ……」
俺はラリアの言葉に引っかかる。
「どうしました?」
―――そういえば、国王の名前も知らないなんておかしいな。それに、さっきのレガンって奴もそんなに強いなら、もっと名前が広まっていてもおかしくない。
「いや……、なんでもない。それよりもまとまって動くのは得策じゃない気がするぞ。ただでさえ見ない顔だし、情報を集めるにしてもせめて二手に分かれたほうがいい」
「ほう。なぜだ?」
「二手に分かれたほうが早く情報が集まるので早く撤退しやすい。俺もお前も人間だが、勘の良い奴は悪魔軍の匂いにすぐ気づくし、ラリアに関しても多少の魔力を纏うんだから、それもばれてもおかしくない」
「なるほど……。さすがアラン様です」
さすがか……。こいつはお世辞がうまいな。
ラリアもエルグランドも本気を出せば俺なんかよりも数段強くて格が上だ。それに比べて俺は魔法も剣術も微妙だ。だから、今日はなんとかこいつらに食らいついて、足を引っ張らないようにしないとな……。
「じゃあ、それで行くぞ。俺はアランと共に町の中心部分で情報収集をする。恐らく中心には店とかで賑わっているからな。人もいっぱいいるだろう」
「かしこまりました。では私は裏道から城に近づいて、兵士たちの会話を盗み聞きしてきます」
「うむ。では……」
こうして俺とエルグランドは一緒に堂々と門を通過し、活気あふれる中心繁華街までやってきた。そこには予想通り多くの出店がならんでいて、商売人の大きな声が飛び交っている。
「……すげぇな」
「気を緩めるな、もしかするとどこかから誰かに警戒されているかも知れない。常に周りに目を光らせておけ」
エルグランドはこの活気に流されず、常に自分を保っている。それに対して俺は周りの店に目を光らせて、
「これ美味そうだなぁ……」
見たこともない肉汁が溢れる肉に目を奪われていた。
「……」
エルグランドさんはこんな俺を睨む。
いけないいけない。これはあくまで作戦なんだ。もしかすると、このお店の人も兵士で俺を見張っているのかもしれないな。
「……よしよし。今回は情報収集だ」
「……」
やっば。結構怒ってる感じかな?
これは魔王の計画を実行するための第一歩なんだ。そりゃあ、俺みたいなヘラヘラしているやつを見れば殺したくなるのは当然か。
「……」
「……」
―――こうして、このまま気まずい情報収集が続いたある時、耳寄りな情報が入ってきた。
「なるほどな」
「そういうことだったのか」
どうやら、この国家直属の街は多くの人間が徴兵制により、若い男や子ども等が強制的に剣術を学ばされるそうだ。
しかも、その中でも剣術がより優れている者はこの世の終わりぐらいキツい訓練をさせられて、何人も廃人になって家に帰されるらしい。なんせその訓練がキツすぎて、ほとんどの人はついてこれないとのこと。
もしかすると、レガンってやつもその訓練を通り抜けたやつなのかなぁ。
「あとねあとね、国王様には変な噂があるの」
「噂……?」
情報を提供してくれた店主のおばちゃんはこちらの耳元に近寄る。
「国王様は何でも人間を滅亡させるのが目的なんだけど、王女様はそれに反対らしいの。なんでも王女様は皆を幸せに導くことが目的らしいから。だから、今は城の中も城下町もこう見えてギスギスした状態なのよぉ〜」
「そうなのか……」
「うむ。情報ありがとう。それでは、そこの人参パラサイトとやらを頂いてもよろしいか?」
「あら、ありがとう〜」
エルグランドはその店に置かれている人参と謎の何かがグチャグチャに入った食べ物を指差し、購入した。
これを食べるなんて、勇気あるな。
にしても、この国は今は分裂状態らしいな。とても、この騒がしい夜を見ると信じられないが、よくよく見れば、兵士達の目が常に警戒って感じだな。ちっとも顔が緩まない。
「おばさん、色々教えてくれてありがとう。最後に一つだけ聞きたいんだけど……」
「なぁに?」
売り物が売れて上機嫌のおばちゃんは、るんるんって感じでまた俺の質問に答えてくれるみたいだ。
「レガン・エドワードって人は知ってる?」
その瞬間。今までステップを踏むほど明るかったおばちゃんの体は氷で固まったように止まる。
そして―――、
「あんた。その名前をどこで聞いたんだい?」
「いや、風の噂で偶然……」
「悪いことは言わないから、この街でその名前を言わないほうがいいわよ」
「え? なんで?」
「……そのレガンって奴は今のこのバチバチの国王様と王女様の権力分裂を引き起こした犯罪者だからね。もし彼の名前を呼んだのを兵士達に聞かれたら、尋問に会うかもしれない。だから彼の名前は二度と出すんじゃないよ」
おばちゃんは急に怒り気味の低い声で俺に忠告した。
どうやらこの国でレガンという名前は禁句らしい。そのレガンって奴は国王でも手を付けられない悪党なのか?
俺は、悪くなった空気を終わらせるために、この場から立ち去ることにした。
「……分かった。それじゃあ、俺達もう行くよ」
「そうかい。達者でね」
俺とエルグランドはその店を出て、もう一度門に戻ることにした。
―――一方その頃。とある裏道では、
「やめなさい! この手を離さないと痛い目を見るわよ!」
「痛い目を見るのはそっちだ。悪魔さんがこの地になんのようだ?」
「……くっ!」
ラリアはとある女の騎士に見つかってしまい、腕を強い力で握られていた。
「誰がそんな言う事を……」
ラリアは反抗の言葉を言おうとしたが、掴まれている腕から謎の魔力が流し込まれ、なすすべもなくその場で脱力するように、地面にへたりこんでしまった。
「いいから、こっちに来るんだ」
「……!」
また、彼女はその強い力とは裏腹に、見た目は銀髪で華奢な女性で歳もそれなりにいっているが、かなりの美人な人だった。
そして、ラリアは不思議と力も出ず、魔法も使えなかったので、その女性に腕を掴まれたまま引きずられ、城の地下に連れて行かれてしまった。
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