第36話 潜入開始

 その後、俺は入念な準備をして再度魔王の座に戻ってきた。


「用意はいいかな?」


「はい」

「うむ」

「もちろんだ」


 今回はラリアとエルグランドと俺の三人で侵入するらしい。ラリアは何となく戦力は分かるが、エルグランドに関してはほとんど分からない。俺が戦ったのはあくまで分身なのであれは本来のエルグランドの力では無いだろう。

 しかし、エルグランドは口調はおっさんくせぇのに、見た目はただの好青年って感じだ。体系はスラッとしているし、顔だって良いほうだ。それに格好も俺と同じで、支給された悪魔軍の普段着を着ていて、とても似合っている。なぜこんな如何にも人間ですよ的な奴が悪魔軍にいるんだ?


「では、今から君達を中央国家付近に飛ばす。ある程度集中してワープ魔法を使うが、もしかすると、警備の兵士の直ぐ側に送られるかもしれないので、最初から警戒を怠らないこと」


「かしこまりました」


 相変わらず大事なとこしか守れていない鎧を着たラリアは事務的に返事をする。

 俺のときとは違って反応が冷たいな。悪魔間の会話ってこんなもんなのか?


「よし。……では、武運を祈る」


 こうして俺達の体は魔王の無詠唱魔法により灰色のベールに包まれて、移動させられた。




 ―――そして、送られた直後。

 どうやら直ぐ側に兵士は居らず、森の中に飛ばされたので、俺は近くにあった木の上の茂みに疾風のごとく隠れた。

 そして、茂みの間から外を覗き込むと、そこには国家の大きな白い城と夜にも関わらず活気に溢れていた城下町が見えた。


「……おいおい。ここが、例の中央国家ですか」


「そうですね。ここは中央国家が管轄している森ですので、ここも正直危ない場所ですが、ここには兵士は数人しか配属されていません。ましてや、こんな夜中なので、兵士達もこっそりとうたた寝をしています」


 ラリアがそう言うので、俺は次に森の周りを見渡すと何人かの兵士はいたが、どいつもこいつも木に持たれかかって寝ていやがる。


「どうする? こいつらの死体を持って帰って報告するか?」


「いや、これだけでは足りなかろう。もう少し上の立ち場の兵士が欲しい」


 エルグランドはどうやらこういう状況に慣れているようだ。俺がキョロキョロとしている間にも状況を分析して落ち着いている。


「……じゃあ、どうする?」


「そうですね。とりあえず、城の近くまで行きましょう」


 俺達は最深の注意を払いながら、足音を立てずに森を抜け、城下町の周りを覆う壁まで行った。


「にしても高いなぁ~」


 ここの壁はサーベラスの村のやつよりも数段高い。しかも頑丈そうで、魔王でも破壊できるか分からないぐらいの固さが手に触れるだけで分かる。


「おい。遊びに来たわけじゃないぞ。あくまで今回の目的は兵士の死体と余裕があれば城の偵察なんだ。もっと気を張っていけ」


「ういうい」


 エルグランドってやっぱり結構堅苦しい奴だな。正直俺とは気が会わなそうだ。


「とりあえずここまで来たけど、どうする? 壁を登るか?」


「いえ、それは見つかる可能性が高いので、門番の兵士達を暗殺します。そして、堂々と中に侵入しましょう」


 暗殺って……。こいつ何でもできるんだな。


 ラリアは俺とエルグランドを残し、一人で無音で門に近づく。そして、門の両脇に立っている門番の二人を光の速さで捕まえ―――、


「スリープ」


 眠らせた。

 ラリアは眠らせた二人を軽々と抱えて、もう一度こちらに戻ってきた。


「この二人にはここで寝ていてもらいましょう。別にこの程度の人間は殺す価値も無いですので」


 彼女は一仕事終えたような顔はしておらず、まるで風呂上がりのように特に何も警戒しておらず、ただ冷徹な顔をしていた。


 俺はこの時思った。ラリアだけは魔王より怒らせてはいけない人間だと。いや、悪魔だと。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る