第35話 悪魔と人の同盟

「その昔、といってもつい数十年前の出来事だ」


 なんだよその前振り。


「僕の父、先代魔王はこの地に舞い降りて、君も知っていると思うが人間共の愚かな奴隷制度を撤廃させた。そしてその後僕たちは着実に力を強めていったがある日、信じられないほど強いおかしな人間が現れた。そいつは、我の先代魔王を倒し、我々悪魔軍はほとんど全壊状態だった。しかしなんとか僕を含めた残された悪魔達はその場から逃げてもう一度この魔王城を復興させた」


 なるほどな。やけにこの魔王城が所々ボロイのはそれが理由か。


「―――そして、僕はその後に二代目魔王としてこの座に就き、再びこの魔王軍、悪魔軍を作り、勢力を拡大させていった」


「そうか、そういうことか。ちなみにその人間はどういう奴なんだ?」


「そいつの名は、レガン。レガン・エドワードという者だ。そいつは今中央国家に居て、さらに力を強めていっている」


 ……レガン・エドワードか。聞いたことない名前だな。


「そのレガンって奴は一体何の目的でお前達を襲ったんだ?」


 俺が質問すると、魔王はらしくもない暗い顔をした。さすがにあの魔王でも辛い過去を思い出すのはきついか。


「……分からない。だが、ただ一つ分かることはあいつは紛れもなく中央国家の人間だ。あいつらの目的はやはり人間全てを滅ぼすことらしい。それらしい発言をしていた」


「いやいや、繋がんないですよ。それがなんでお前達が狙われるんだ」


「恐らく、ただの力試しだろう。それしか考えられない。あいつはきっと僕たち悪魔なんかよりもよっぽど凶暴な奴ということだろう」


 力試しで魔王を倒そうとする奴がいんのかよ。世の中って広いもんだな。


「なるほどな。だが、そこからどうやって俺をここに連れて来たということにつながるんだ?」


「……そうだな、そこから少し話は飛ぶのだが、僕は君たちと考えている」


「同盟?」


「うん、この同盟の目的は俺とサーベラスで中央国家を潰そうというものだ。あいつらを潰して、このを守るのだ。そうしなければ、力を強めた人間たちは迷わず僕らを含めた四大種族に襲い掛かってくる。そうなれば、今度こそ我らは滅亡するだろう。だから、今のうちに摘める芽を刈り取っておくんだ」


 随分と壮大な理由だった。正直この魔王のことだからくだらないオチで話が終わると思っていた。

 しっかし、中央国家を本気で潰そうとするなんて大したもんだな。


 ―――でも、もしこの同盟が決まれば俺達サーベラス側にとっては大きなチャンスだ。現時点において、サーベラスは防戦一方で攻撃なんて二の次って感じだ。だからこの悪魔達の力を借りて中央国家に反乱できればこの人間界における愚かな争いも幕を閉じる。

 だが―――、


「でも、悪魔達にどんな理由があろうときっとサーベラスの奴らはお前たちに快く協力するとは思えないぞ」


「うん。それは百も承知だ。だから君をここに連れてきたんだ」


「俺?」


「まぁぶっちゃけ君じゃなくても良かったんだが、君が一番僕たちに理解してくれそうだったから連れてきたって感じだ」


 恐らくこいつは誰か人間を一人悪魔軍に引き入れて、サーベラスとの交流を図ろうとしているのか。


「ふーん。でも、俺は一応お前たちに恨みがあるぜ」


「……ん? なんだ?」


「……俺の母は、お母さんはお前達悪魔に殺された。しかも無残に肉片を食い殺されてな」

 

 そう、俺の母は悪魔に殺されている。もしかするとこの魔王によって命令されて俺の母は殺されたのかもしれない。

 この過去は、この恨みはどんな事情があろうと簡単にはひっくり返らない。

 

 すると、この言葉を聞いた魔王は―――、


「……すまない。それは本当にすまない。言い訳になるかもしれないが、僕は一度もサーベラスの基地を襲ってこいなどの命令は出していない。恐らく、その悪魔の暴走だ。本当に申し訳ない」


 魔王は顔を正して、椅子から立ち上がり、高い所から頭を下げる。

 

 ―――もう昔の事だし、謝られたとて母は帰ってこないので許してやってもいいが、俺が戦士になろうとしたきっかけ母という要素も含まれている。だから―――、


「お前たちは、一生かかってもゆるせない。これだけは変わらない」


「……」


 この返答に対し、魔王は何も答えず、ただまっすぐに床を見つめて頭を下げ続けている。


「……」


「……けどまぁ、今だけは目をつぶってやる」


「……ありがとう」


 ―――このまま俺が許さなければ、現状は何も変化しない。だから今だけ、今だけはこの気持ちを抑えてこいつらと手を組むしかない。


「いいよ。もう。そんなことより、今は今のことを考えよう」


「ありがとう。では、さっそくだが、君に一つ頼みたい事がある」


 魔王は顔を上げ、再び椅子につく。


「なんだ?」


「エルグランドと共にサーベラスの基地に向かってほしい。そして、団長にこの話をして、話を作る場を設けてほしい」


 そうきたか。しょっぱなから結構重い任務だな。


「まぁいいけど、あれはどうするんだ? 中央国家に攻め込むって話は」


「あぁ、勿論それが終わってから、サーベラスと交渉をする。少しでも僕たちが本気で君たちと協力したいことを示したいからな。一度攻め込み、何人かの国家の兵士の死体を見せたい」


「なるほど。いい作戦だな」


「分かってもらえて何よりだよ。では早速―――」


 魔王は再度椅子から立ち上がり、床を力強く踏む。そして―――、


「サーベラスと同盟を結びたい大作戦! 開始!」




 

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