第34話 これも訓練
「よっしゃあぁぁぁぁぁ!」
「こい!」
俺とエルグランドは再び対峙する。俺はベッドから飛んで、エルグランドに殴りかかる。それに対し、エルグランドは応戦するように、構える。
―――だが、ここでとある邪魔が入る。
「落ち着け」
魔王がそう言うと、俺とエルグランドの間に入り、手のひらを俺の顔に前に出す。
「な……」
一瞬で俺の目の前に現れたその速度に驚く俺に対して、魔王はこう唱えた。
「フルバインド」
すると、俺の体は筋肉が硬直したかのように動かなくなり、ストンとふかふかのベッドの上に落ちる。
「……くそっ」
「落ち着いて、アラン君。まだ僕の話は終わってないよ」
「……」
こいつの話なんて聞く価値はねぇよ。こんなクズ野郎の言うことなんてどうせ何も筋が通っていない自分勝手でめちゃくちゃな事でも言うんだろう。
「……というか、君何か勘違いをしているようだね」
「え……?」
「うむ。どうやらそのようだな」
魔王とエルグランドは顔を見合わせる。
「君の夢の中でエルグランドが言っていたことは全て嘘だよ」
「……は? 嘘?」
「うん。嘘」
―――訳が分からない。あれが嘘だと?
「というか、あれが幻影だとまだ気づいていないの? もうとっくに気づいていたものだと思っていたよ。―――あの瞬間から」
「あの瞬間?」
「あの時だよ。君の目が変わった瞬間だよ。きっと君の中の何かが変わったであろう時だよ」
あの時か。俺がエルグランドからくそみたいな現実を言われた時か。しかもこんな悪趣味な嘘を言うなんて、悪魔って言うのはやっぱり悪魔だな。
「……見ていたのか」
「だって、これは訓練なんだから。そりゃあ見るでしょ」
そんな嘘つくなんて、なんて野郎だ。しかも、ちょっと信じられないし。
「……趣味の悪い嘘だな」
「ごめんね。でも、よかったよ。成長してくれて」
魔王は初めて本気で笑ったような気がした。
「いや、これは成長というよりも……」
「成長だよ。君は変わったんだ。あの悪魔もびっくりするほどの悪い勘違いを正すことができたんだから十分成長だろう。精神面の強化も訓練の一つだよ」
……ほんと悪趣味だぜ。でも、今回は完全に一本取られたな。完璧に騙された。さすがって感じだな。
「さすが魔王様ですな……」
「うんうん。やっと僕の力を認めてくれてなによりだよ」
魔王さんはご満悦だ。
「なによりか。……でも、さすがにやりすぎじゃないのか?」
「やりすぎなくらいがちょうどいいよ。そうじゃないと何の練習にもならないからね」
「そうかよ……」
俺はやられてしまったという気持ちとほっとした気持ちが入り混じって、しかもどちらかと言えば安堵の気持ちが強すぎて安心して眠ってしまった。
―――数時間後。俺は再び起き上がる。
「……あぁ」
「お目覚めになりましたか。アラン様」
「……うん」
今度はちゃんと服を着て、―――いや着ているようで着ていない服を着ていて俺の横で俺が起きるのを待っていてくれたらしい。
「早速ではございますが、アラン様。魔王様がお待ちです」
「……はい」
なんとなく予想はしていた。
昨日は魔王の話の途中で寝てしまった。なのでこの呼び出しは予想の範囲内。
―――そして、魔王の座にて、
「では、話そうか」
「……はい。お願いします」
この立ち位置はここに来た以来だな。
俺は床に跪き、魔王は俺の前にある段差の広い階段を数段登ったとこにある椅子にふんぞり返ったように座っている。
相変わらずここに来ると魔王は普段の行動に反していい感じのオーラが出ている。正直かっこいい。
「では、話そうか。お前をここに連れてきた目的を……」
「はい……」
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