第33話 お目覚め
―――うーん、むにゃむにゃ。
「が?!」
俺は勢いよく飛び起きて、ベッドの上に立つ。
「……あれ?」
何があったんだ? 俺はついさっきまでエルグランドって奴と……。
いや、考えると頭がいてぇ。
「とりあえず、……ラリアはどこだ?!」
俺は必死でラリアを探す。
あのエルグランドが言うには、ラリアはもう倒されているかもしれない。
「……どこだ?! どこだ?!」
いくら辺りを見渡せど、ラリアの姿はおろか、特に何も部屋は乱れていないし、ただの心地よい夜風が窓から入ってくるだけだ。
「おい! おい! どこだ?! ラリア! ラリアー!!!」
俺は叫ぶ。叫びまくる。すると―――、
「アラン様。私はここでございます」
どこからかラリアの声がする。
どこだ? どこにいる?
「どこだ? どこにいるんだラリア?!」
「ですからアラン様。私はここです」
「……ん?」
俺は声のする方向に顔を向けようとする。だが、その方向は俺が寝ていたすぐ横であったのでどういうことだと思い、ゆっくりと目を向ける。
「え……?」
「おはようございます。アラン様。ご無事でなによりです」
―――なんとそこにはもう何も着ていない。いわゆる全裸の状態で、俺が寝ていたすぐそばでいやらしいポージングをしながら横になっていた。しかも肌は灰色ながらそれが月の光に当たっていて綺麗なすべすべの肌はさらに美しく見える。
「……アラン様。もう一度会えてよかったです」
「……」
「……アラン様?」
俺はこの状況に理解が追い付かなかった。しかし、これは正真正銘のあれだ。上も下も何も隠されておらず、丸見えを超えていた。
「……ぎやぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
俺の悲鳴、いや喜び交じりの驚きの声が城中に鳴り響いた。
―――そして、そのまま数秒ほど時が止まり、
「アラン様、いくらなんでも叫びすぎです」
「いやいや、いくらなんでもやりすぎだって!!」
「何を言うんですか?! このくらい、私の立場なら当然のことです!」
「いや……、立場って……、あ……」
俺はとあることを思い出して、言葉に詰まってしまった。
「ん? どうしました?」
ラリアは半分体を起こし、エロく可愛い顔でこちらをそっとのぞき込む。その姿に思わずドキドキしてしまう。
「いや……、なんでも……」
そういえばラリアは、エルグランドの言う通りでは不遇な環境の少女だ。
こいつは生まれつき魔王軍の奴隷で、自分のやりたいこともできず、あの魔王の言うことだけを聞くしか出来ない。
―――俺は、ラリアのこの綺麗な顔を直視することができなかった。
「ラリア……」
「え? アラン様?!」
俺はラリアを思わずそっと抱きしめてしまった。これはラリアが可愛くて抱きしけた訳ではない。ラリアの過去を聞いてしまった以上、ラリアが不憫な女の子すぎて可哀そうになり、捨てられたペットを抱くように抱きしめてしまった。
「ラリア、ラリア……」
「アラン様、そんなに私のことを……」
俺は今ラリアを抱きしめることに全ての力と神経を注いでいた。なので、ラリアの声は何を言っているか分からないが何かを言っていることだけは聞こえる。
「アラン様。もしかして本気で私のことを……」
ラリアも手を俺の腰にかけて来た。なんとも感動的な抱擁だろうか。
―――しかし、俺とラリアが抱き合っていると、部屋の入り口から禍々しい声がしてきた。
「えーっと、お熱いところいいかな?」
「まったく、こいつは本当に俺の分身を倒した奴なのか?」
そこには、魔王さんと、あのエルグランドがいた。
「……は?」
「やあ、訓練お疲れさま」
魔王は笑った顔でこちらに手を軽く振っている。
「……えーっと…………」
「ん? もしかしてまだこの状況を掴めていない感じ?」
「まぁ……、はい」
「じゃあ、説明してあげる」
魔王はゆっくりと部屋に入ってきて、ベッドの横に立ち、手を後ろで組む。
「今、君が見ていた夢は僕の力で見せた魔法だよ」
「うむ」
エルグランドも胸を張って、続いて魔王の横に立つ。
「君を僕が作った夢の中に入れて、このエルグランドの分身もそこに入れた。そしてその分身と戦わせて、君の力を測った。ただそれだけのことだよ」
「うむ。魔王様の言う通りで、お前の実力を見せてもらった。なかなかおもしろかったぞ」
「……」
「ん? どうした?」
そうか、これはこいつらの訓練の一つだったのか。それならあの夢は納得だな。
―――だが、一つ思うところがある。
「……こいつは、ラリアは、いつになったら解放されるんだ?」
「え……?」
魔王はきょとんとしたような顔をする。
「とぼけんじゃねぇよ! こいつはお前らの奴隷なんだろ?! こいつのやりたいことも気持ちも全部無視をして好き勝手ラリアを道具のように扱ってんだろ?!」
「え、いや……」
「さっさとこいつを自由にしろよ! いい加減この健気で優しくて、可愛いただの綺麗な女の子を解放しろ!」
俺は魔王に命令した。
こいつはいつもひょうひょうとしているが、所詮はただの悪魔。やることが外道で、救いようもないクズだ!
「……ちょっと落ち着いて?」
「黙れ! さもないといくらお前でも……」
俺はベッドから飛んで、魔王に殴りかかる。
―――だが、その前にエルグランドが立ちふさがる。
「訳わからんが、魔王様にその口の利き方はありえない」
「いいぜ、やってやる! もう一度お前をぶちのめしてやるよ!」
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