第31話 決心
―――時を同じく、またアランの元に戻る。
「いやー、見つかんねぇ……」
先ほどから何度も同じところを言っている気がする。いくら進めど先が見えない。それに景色が変わらないので若干飽きてきた。もう一生ここで暮らそうかな?
「……あぁ、腹が減ってきた」
空腹ももう限界だ。この白い空間は床も真っ白いのでまるでサーベラスにも出ていた餅みたいで、食べたくなってしまう。
しかし、そんな真っ白い空間にとある赤い何かが光るのが見えた。
「……ん? なんだあれ?」
飢餓状態の俺にはそれが果物が太陽の光を反射しているように見えて、なんの躊躇いも無く飛びついてしまった。
「やったー! 遂にご飯だ!!!」
だが、その浅はかさが裏目に出る。
パリン!!
その赤い光は、俺が近づくと同時にガラスが割れるような音を出す。しかも光の正体は、ガラスの玉のような物で、食べ物では無かった。
「えぇ~」
本来はこの異常事態に驚いて、体を後ろに引くべきだったが、今の俺にはそんな賢さは無くなっていたので俺はただ割れたガラスの玉を眺めるだけだった。
「……」
俺はぼーっとしていた。
せっかく見つけた食料は食料じゃなかったし、さきほどここまで走って来たので、もう体力が残っていない。
「あぁ……」
しかし、そんな絶望する俺に追い打ちがかかる。
「キシャアァァァァ!!」
背後から襲撃の声がする。
だが反応が遅れてしまった。そして―――、
グサッ!
俺の背中に何かが刺さる。
そして刺された瞬間に分かる。それは決して深くはないが、今の俺には致命傷でしかなかった。
「ガハッ!」
俺は口と刺された背中から血を出す。
「……誰だ?」
「俺は、エルグランド。お前の命を奪う者だ」
その男は人間だった。背後からでも分かる。これは人間の魔力だ。
「……なにもんだ?」
「俺が何者でもいいだろう。俺はただお前を殺すだけだ」
「そうか。じゃあ―――」
―――死ね。
俺は手ぶらだったので、拳を背後に振り回してその男を殴って引きはがす。
そして、その男を見ると、予想的中で人間で、髪はセミロングの長さくらいで黒髪のいかにも普通の人間という感じだった。
「―――その状態でもこの力とは……。亜人の力は侮れないな」
「……?!」
こいつ。俺のことを知ってやがる。
「なんで俺のことを知ってるんだ?」
「そら知ってるだろ仲間なんだから。むしろラリアから何か説明されなかったのか?」
「ラリア……?」
こいつはラリアの事も知っている。ということはただの悪魔に魂を売った人間では無さそうだ。それにこいつはあのお馬さんみたいな下っ端悪魔と違い、俺のそばにラリアがいるということも知っているので悪魔軍でもそれなりの立場だろう。
「あぁ、お前の奴隷だろう?」
「奴隷? あいつはただ俺のお世話を……」
「ちげえよ。あいつはただの魔王の奴隷だ。もっと言えば淫魔に姿を変えられた天使だ」
「天使?」
「そうだぜ。あいつの両親は初代魔王様に無理やり連れてこられて、最初はごみのように雑用をさせられていたんだ。そしてある実験のためにあいつを生ませて、あんな淫魔野郎が出来てしまったってだけだ」
「……それは本当か?」
「本当だぜ。しかもあいつにはその記憶が無い。あいつは自分のことを完全な悪魔って勘違いしてやがるぜ」
エルグランドは馬鹿にした笑いで、酒場にいるかのようなテンションで話す。
「……」
俺は黙り込んでしまった。別に何も言い返せなくなって黙った訳では無い。考えることができたからだ。
あいつは、ラリアは、そんな悲しい過去を持っていたのか。本人は何も覚えていないがきっとあいつの両親はさぞ苦しい人生だっただろう。
―――俺は勘違いをしていた。自分が、自分だけが苦しい思いをしていると思っていた。
俺はさも自分が何かの被害者であるようにふるまっていた。周りの奴らは何も悲しいことなんて抱えず、常に俺よりかはいい人生を歩んでいると勘違いしていた。
なんて馬鹿なんだ俺は……。俺は人より恵まれない環境で生まれたからとか、人より才能が無いとかそんなくだらないことばっかり考えて、それを言い訳に逃げ続けて、逃げて逃げて逃げて。せっかくした頑張るという決心をちょっと何かあったからって捨てて。そして教官や団長やロイドが与えてくれた優しさまでも無下にしていた。
その結果がこれだ。俺は悪魔に身を売ってこんな外道な奴らの仲間になってしまった。
―――でも俺はこんな非道な組織に入りたかった訳じゃない。俺は、俺は―――、
「てめぇ……」
「なんだ怒ってんのか? てめぇも俺と同じ悪魔の戦士なんだ。だからてめぇも―――」
「知らねぇよ。確かに俺は悪魔に身を売っちまっただせぇ奴だがなぁ」
―――俺はどんな奴だとしても、誰かを守りたい。
俺は遂に、二度と曲げない決心が出来た。
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