第30話 夢か? 魔法か?



 ―――ここは、どこだ。


 俺は真っ白な空間に立っていた。


「あれ……? ラリア?」


 俺はついさっきまでラリアに子守歌を歌ってもらいながらすやすやと眠りについていた。なのに、そっと目を開けるとそこに真っ白で何も無く、全く先の見えない場所に立っていた。


「……ここは、魔王城のどこかなのか?」


 起きたばっかりなのに、頭はいつもよりよく回っているので口もよく動く。


「おーい! ラリア! どこにいるんだ?!」


 何が起こっているか分からないが、とりあえずラリアを探そう。あいつは俺の召使いなんだからきっと俺がここにいることも知っているはずだ。


「おーい! おぉぉぉい!!」


 しかしどれだけ呼べど、彼女の姿は見えてこない。俺の声は虚しくどこにも反射せずにただ遠くへ飛ぶだけだった。


「……うーん」


 ―――彼女がいない。ということはここはもしかすると、魔王城でも無く、サーベラスの基地でも無くどこか知らない世界。もしくは―――、


「夢の中……」


 それが一番可能性が高そうだ。

 理由としては、まずラリアが俺のそばに居ないことと、ここがもしならばこんな馬鹿みたいに広くて無機質な空間があるなんて非現実的すぎる。なのでここは俺の夢の中で間違いないだろう。


「―――でもなぁ……」


 たが一つ疑問点がある。それはいくら夢だとしても俺の意識がはっきりとしすぎている。普段の夢なら俺は意思を持つことはできないし、なによりもを認識できないはずだ。

 かと言って、今何か俺ができる事は何も無い。なので―――、


「じゃあ、しばらくゆっくりとしておくか」


 いくら考えても騒いでもどうしようも無いので、俺はまた夢の中で寝ることにした。




 ―――そしてそのまま幾時間か経った。


「……なーんもおきねぇなぁ」


 あれから俺は寝て起きてを繰り返すが特に何も変化が起きない。それどころか腹が減ってきている。ということはここは夢の世界ではないのは間違いないないようだ。夢の中で腹が減るなんて聞いたことがない。勿論腹が減らないのも聞いたこともないのだが……。

 ここで俺は一つの仮説を立てた。ここは恐らく現実でも夢の中でもないここは―――、


「もしかして、これは魔法か?」


 これしかない。

 もしここが何かの魔法の世界なら今までの全てに納得がいく。


「ということは俺は今誰かに襲撃されている?」


 魔法をかけられたタイミングとしては俺が寝ている間だろう。

 確かに俺はここに来る前にラリアの横で寝た。これは確実だ。だとすると、俺を襲撃した奴は、ラリアを倒し、俺の寝込みを襲った。そんなとこだろう。

 しかしラリアが負けたとすると、襲撃犯はなかなかの実力者だろう。ラリアは本当にあの魔王軍の第八軍幹部であるので、それが負けるとするともし万が一ここで犯人を突き止めて出くわしたとしても俺はきっと負ける。

 だから俺のするべきことは、犯人を突き止めるよりもまずここから脱出することだ。

 なので俺はとりあえずこの広い空間を歩き回ることにした。ここでじーっとしていても何もできないしこのまま野垂れ死ぬよりマシだろう。

 しかし―――、


「完全な一人ぼっちは久しぶりだなぁ……」


 思えば一人で何かを解決するのは初めてだ。今まではロイドだったりラリアだったり教官だったり、誰かが俺のそばについてくれていた。


「……でも、ここでやらないと俺は戦士になれない」


 俺は寂しい思いをぐっとこらえて、ひたすら歩き回ることにした。






 ―――一方。時は同じくして。


「アラン様……、」


 アランが悪夢にうなされている横で、ラリアは倒れながらなんとか片腕だけでも動かして必死にアランの元に近づき、彼をこの場から逃がそうとしていた。


「どうか……、どうかお目覚めに……」


 彼女は残っている体力を使いながら駆け寄るが、それを邪魔する男が一人―――。


「邪魔をするな。別にお前を殺すつもりは無い。俺の狙いはただひとつ。こいつが俺の部下として足りうる器か測りたいだけだ」


 その男はラリアの片腕を悪魔にしては細い足で踏みつぶし、動きを止める。


「でも少々やりすぎたかな?」


「……嫉妬しているの?」


 ラリアは消えそうな声で男に問う。


「は?」


「……だからって、同族嫌悪なんて随分とガキっぽいことでもするのね」


「いやいや、これは試験だよ。なんせだからね」


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