第24話 執着
———俺は、今負けている。
「……」
しかも会場は満身創痍。一方的過ぎて見世物にもできないレベルだ。
「お前の力はこんなものか、がっかりさせるなよ」
「……ちょっとやりすぎじゃないのか?」
「俺はいついかなる時も手を抜かない。それが戦士たる礼儀だ」
「その礼儀のせいで、周りが迷惑してんだよ」
この金髪ギザ野郎のロイドさんにぼこぼこにされている。
俺は入隊テストを受けるために、朝からこの三番隊基地に来た。そして、近くの兵士達に「訓練所はどこですか?」と聞きまわり、やっとの思いでこの訓練所にやって来た。すると、俺は綺麗な控室に案内され、そこでしばらくの間ゆっくりと準備した。というかくつろいだ。
一時間ほどすると、一人の兵士さんがやって来て、「今から入隊テストを始めますので、そこの扉を開けて進んでください。そこが会場となります」と言われ、俺はその扉を開ける。
するとそこにはまるでコロシアムのような大歓声の会場だった。そして俺はコロシアムの中にある大きな正方形のステージに上がると、そこにはロイドがいた。なんでもくじ引きの結果、ロイドが当たったとのこと。
「……いくら喚いても、このままではどうにもならんぞ。このままお家に帰るか?」
「まだまだ……、これからが勝負って感じだろ」
そう強がってはいるが、正直もうくたくたで立っているのも奇跡だ。
俺は全身血だらけで、歯も何本か折れている。骨ももう折れるを通り越して砕けているかもしれない。孤児院の時が天国に見えるぜ。
「でもまぁ正直ここから勝てる未来は見えない」
「……もうあきらめるってことか。じゃあ大人しくリタイアしろよ」
「それはできない。ここまで来たら負けるか死ぬかだ」
「……凄い執念だな。でも、その執念はどちらかというと執着って感じだな」
「何偉そうに説教してんだよ」
「そりゃあ、偉いからな」
こいつ。ここまで来て相変わらずいらない説教をしてやがる。
ロイドは昔からそうだ。前からずっと俺と会うたびに俺の人生について話してきやがる。きっと人に説教するのが気持ちいいんだろうな。人間は自分の言うことに従順な生き物が好きだから、自分の理論を人に話してそれを誰かが理解して従うことが大好物だ。
だが、もちろん本当に俺のことを心配してくれているのかもしれない。ロイドはいいやつだから、も今もこうして俺を正しい方向に導いてくれているのかもしれない。
―――しかし、どちらにせよ俺にとっては不必要なものだ。何も知らねえくせに綺麗事ばっかり言うから言われるたびに腹が立つ。「うんうん」と頷けば、饒舌な口は止まらないし、「いやいや」と否定すれば相手は自分の言うことを聞けと、イライラして最終的には言い合いになる。だから言われるほうが大人になって、「そうだねー」って流さないとやってられない。
「……もしその執着とやらでも、戦士になれば一緒だろ」
「なれると思っているのか?」
「また偉そうに言いやがって」
「はぁ……、このままでは、お前を戦士にすることはできないな。どうせ今も変に頭を使ってくだらなくて何の得にもならないことを考えてるんだろう?」
ロイドは全てを見透かしたような目でこちらを見てくる。
―――腹が立つぜ。
「……くだらないってなんだよ。俺だって必死で悩んでいるんだ! 毎日毎日自分のために訓練をして! ……そして、」
「とりあえず、だろう?」
ロイドは俺が話している途中で口をはさむ。
「……は?」
「とりあえず、訓練でもやっていればいずれかどうにかなる。そんなことでも考えてるんだろう? それで自分の考えていることを誤魔化して、悩みを解決することも無く、何も経験を積まない。だから、解決する術が無い。こうして負のループにはまっていく。しかし、何となく戦士になるというぼやーっとした思いからこの場に執着している」
「……くそったれが。黙って聞いてりゃべらべらと喋りやがって。今に見てろよ!」
俺は再度ロイドに斬りかかる。
しかし、ただ斬りかかってもどうせ届かない。先ほどから何度も剣を止められてはカウンターで殴られる。この繰り返しだ。
―――だが、この剣は違う。今回は剣により力を込め、教官にならったフェイントという技でこいつを騙す。そうすれば、あのロイドさんでもさすがに隙が生まれる。そこに思いっきりこの剣を叩き込む。
「……浅いな」
ロイドは、斬りかかる俺の剣、———では無く俺の体ごと吹き飛ばす勢いで俺を殴り飛ばす。
ぶっ飛ばされた俺はステージから落下して、敗北が決まった。
「どうせフェイントでもやろうとしたんだろ? そんな甘い攻撃では俺どころか三級兵士にも勝てないぞ」
「……くそったれが」
こうしてこのまま成す術もなく負けた。身体的にも精神的にも負けた。
「……」
「……」
俺はロイドがいるステージの方向を向かずに、会場から出ていってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます