第23話 入隊テスト

 俺はその後、今までの地獄がかわいく思えるほどの獄門の境地で訓練をさせられた。さすがに亜人と言えど骨が折れる。


「別に折れてもすぐに治るんだけどな」


 俺は教官が去ったあとの訓練場に座り込む。

 というか亜人ていうのは疲れよりもケガのほうが早く治りやすいらしい。教官にぼこぼこにされた箇所はもう治っているが、疲れはまだとれない。


「それにしても、難しいな」


 俺は結局何も解決できなかった。

 教官は綺麗ごとしか言わなかった。なにが「色々とみてみろ」だ。それは所詮逃げだろう。俺は今すぐにこの悩みを解決しないといけないんだ。そうしなければ……、


「……悪魔もいいかも知れないな」


 と思ってしまう。

 悪魔たちは強くて悩みなんて何もなさそうだ。もし俺が悪魔になれば、きっともっと強くなってなんでも手に入れられるはずだ。そうすれば俺も、守りたい人ができた時も、全て守れる。それになんだってできる。


「悪魔になろうかな……」


 半分冗談でつぶやく。ということは半分本気ということだ。

 俺がこんなくだらない呟きをしていると、横から声がかかって来た。


「お前、悪魔になるのか?」


 俺は振り向く。するとそこには金髪オールバックの少年、ロイドがいた。


「いやいや、冗談だよ」


「冗談にしては、かなりリアルな声だったぞ」


 彼は汚れた鎧をまとっている。どうやら、任務をこなして帰って来たらしい。


「それよりも、お疲れさん」


「お前こそ、お疲れさんだ」


 こいつは唯一無二の親友だ。この親友はできそこないだった俺にも優しいし、今でも疲れているのにこうして顔を見せに来てくれる。


「……お前って、いつまで訓練しているんだ?」


「さぁ……」


 そういえば、いつまで俺は訓練をし続けるんだろうか? 教官が良いと言うまでだろうか?


「う~ん。教官に許可を貰うまでかな?」


「それじゃあ、遅いだろう。それに訓練に終わりはないから、自分から言わない限りいつまでも任務に行けないぞ?」


「あぁ……なるほど。じゃあ今度俺聞いてみるよ」


「いや、たぶん無理だぞ。恐らくあの教官はきっとお前に許可を出さない」


「なんで?」


「だってあの人厳しいからな。一生かかっても訓練の呪縛からは逃れられない」


「……まじかよ」


 えぇ……。それじゃあ俺の戦士物語は戦士にならずに終わんのかよ。


「じゃあ、どうすりゃいいんだよ」


「俺がお前を兵隊として軍に入れるんだ。俺は三番隊の一級兵士だ。だから三番隊の三級兵士としてお前を雇うよ。そうしたらお前も任務に同行できる」


「なるほどな……、ぜひ頼むよ」


 ラッキー! 正直毎日毎日同じような訓練で飽きていたんだよ。ここいらで任務に行けばが変わるかもしれない。


「分かった。では明日の朝、ここに三番隊の基地に来い。そこでテストを行う」


「は~い。……え? テスト?」




 ———俺の部屋にて。


「テストがあるなんて思ってもいなかったなぁ~」


 どうやら入隊には入団試験があるらしい。昔もあったのかな?

 なんでもその試験は隊の中から一人選び、入隊希望者と一対一の決闘を行うとのこと。しかも選ばれる人はランダム、くじびきで決めるらしい。もし万が一一級兵士でも来ればもうそれは絶望だ。ただの消化試合になる。


「まあでも隊のほとんどが三級兵士だし、大丈夫だろ」


 今の俺はそれなりの場数を踏んでいる。それになによりも俺は亜人。かの魔王と渡り合った亜人だ。今更三級の奴に負けるはずがない。

 俺はこうして、若干明日を楽しみにしながら眠りにつく。





 ———翌朝。俺は三番隊の基地にある訓練所にいた。そこで―——、


「はぁ……、はぁ……」


「そんなものか」


 俺とロイドの決闘が行われていた。

 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る