第25話 志
———くそが!
俺は部屋に戻り、あらゆる物に当たっている。ベッドや机、椅子にも当たりまくる。もう部屋はボロボロで床か壁にも穴が開いている。
「……はぁ、はぁ」
偉そうな事ばっかり言いやがって。なんでもかんでもお見通しってか? ふざけんなよ! 俺みたいになんの才能も無くて、不遇な家庭で育って、俺を支えてくれる人もいなくて、けっこうな目標もない。それに対してあいつは戦士としてのセンスもあって、金持ちの家庭に生まれて、周りの人たちはあいつのためなら協力を惜しまない。
———そういえばあいつはなんで戦士になったんだろう?
いや、そんなことはどうでもいい。あいつなんて、所詮できる環境に育ったできる人間なんだ。戦士になって当たり前なんだ。だから何か目標があるからというよりもならないといけないから戦士になったって感じだろう。そんな奴が俺のことを理解できるはずが無い。
「はぁ……、でもまぁ物に当たっても仕方ないのは分かってんだがな……」
物に当たるなんて情けないな……。
自分で分かってはいても、この衝動的なイライラには勝てない。だからこうして自分の物でもないのに当たりまくる。非常に情けない。
「———お前、そんな奴だったのか」
暴れている俺に声をかけてきたのは、部屋の入口に立っている女だった。
「教官……」
「お前はもう少し理論的な男だと期待していたんだがな。まさかここまで幼稚な感情的な人間だったとはな」
「は……?」
なんなんだよこいつ、俺に勝手に期待していたのか? 迷惑なことしやがって。こいつもロイドと一緒で、俺に余計なことばっかりしてきやがるのか。
「勝手に期待して、勝手に失望するなんて辞めてくれます?」」
「……別にいいだろう。個人の勝手なんだから」
「お前も適当な綺麗ごとを言って、自分の言うことを肯定すんのか?」
「は……?」
「俺に勝手に期待したり、くそほど役にも立たない説教して勝手に気持ちよくなりやがって。そのおしつけがましいてめぇの気持ちが俺の迷惑になるって分かんねぇのか?!」
「……」
あの教官に対して、汚い口で反論する。それに対して教官は何も言わない。
―――俺は最低だ。
俺だって分かっている。もしかすると本当に俺を気遣ってくれているのかも知れない。もしそうだった場合は俺は恩を仇で返すようなことをしてしまっている。だから、俺は素直にこいつらの言葉を受け取って自分の糧にするべきだ。
しかし、それを考慮する余裕がまったくない。
早く自分の目標を固めないと、俺はここにいる資格が無い。正直ロイドの言う通りだ。だから一刻も早く強くなるんだ。そうすれば例えやることが無くても、俺もあいつみたいに周りから賞賛されて俺がここにいる理由ができる。だから―――、
「教官……」
「なんだ?」
「俺をもっと強くしてください。そうすれば俺の思いは……」
「ダメだな」
教官は過去一鋭い声で俺の言葉を遮ってきた。
「え……?」
「お前は戦士になる資格がない」
「……」
またかよ。ついさっきも同じようなことを誰かさんに言われた。俺に戦士になる資格がないことは分かってんだよ。だから強くなって俺が戦士になるのは当たり前くらいの強さになるんだ。そうすれば―――、
「もう、お前ここから出ていけ」
「……出ていけ?」
「そうだ。お前は見習いにすらなる資格が無い。もう二度とその面を見せるな」
教官はそう言って俺の部屋から立ち去った。その後ろ姿はどこか残念そうな感じだった。
「……何なんだよあいつ。……まぁいいや。どうせここの奴らにはうんざりしてたんだ。言われずとも出て行ってやるさ」
俺はこうして一度志した気持ちを置いて、この部屋を後にした。
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