第20話 調査
――――あー……。
俺は部屋でぼやく。
あの後、魔王が去ったあとすぐに教官などの戦闘員が駆けつけてきた。もうおせぇよとか思いつつも俺は彼らに事情を説明し、何とかその場は収まった。
それにしてもやけに騒いでいたな。魔王が来たなんてそりゃ、大事だけどなんか変な感じだったなぁ……。
ちなみにあの魔王と接触した人間なんてそういないらしいから、どうやら俺は明日から事情聴取で忙しくなるとのこと。
「あぁ、だりぃ」
なんでもその事情聴取とやらは団長と担当教官と調査団のリーダーで行われるもので場合によっては十時間ほど狭い部屋に閉じ込められるらしい。団長と教官と密室でいられるなんてすごくいい空間ではあるんだけれど調査団のリーダーはどんな奴なんだろうか? 思えばここの兵士達は女が多い。しかも結構な美人さんだ。団長は勿論のこと、教官もやばい性癖にはずぶずぶ突き刺さる。隠れファンもきっと多いだろう。なので調査団もきっと美人の花園だろうな。
俺はわくわくしながら眠りにつく。
―――翌朝。俺は例の調査室にいた。
ウホッ
俺の予想は外れた。俺は椅子に座り、テーブルに手を置く。すると向かい側に左から団長、教官、そしてゴリラのようなウホウホの男が座っている。三人とも少し顔がこわばっている。
それに筋肉男はゴリラのような顔をしていて、服もピチピチ。少しだけ息遣いも荒く、俺の貞操が危ない気もする。
「じゃあ、始めよっか」
「はい」
団長の可愛い声でスタートした。
「じゃあ、まずその魔王と会った時どんな感じがした?」
初手は教官だった。その教官の声は少し暗かった。
「いや、何もないです。ただ魔王から溢れる魔力は僕でも感じ取れるくらいでした」
「それだけか……?」
「はい、それ以外は特にないです。俺は負けただけですので」
「そうか……」
俺はあまり役に立たなそうだ。特にあいつと会話した訳でもないしな。
「じゃあ、次は私から」
お次は団長のようだ。今日も自覚無しのエロい服なんて男に飢えているのかな? それだったら俺が全然相手しますけど?
「……君はさ、魔王と戦って手ごたえは感じた?」
「いやー、すぐにやられたもんだから何も感じませんでした。もっと戦って顔のひとつにでも傷をつけたかったんですけどねー」
俺はこの緊迫した空気に飲まれないように、少しふざけた感じで話す。
しかし、三人の反応は微妙だった。というより、無視って感じだった。
「……じゃあ、次はわたくしのばんですわね」
「……はい」
ウホウホ男はまさかの女だった。声質は男勝りな感じだったが、かすかに女性らしさも感じる。それによく見れば、胸はちょっとだけ張っている。最初は筋肉と思っていたが、動くたびにおっぱい特有の揺れをしていた。
「ちなみに、魔王と会った時。何か体調が悪くなったりはしなかった?」
「いえ、とくには……」
―――俺はこの後も、こんな発展しない質疑をしてかれこれ二、三時間は経った。
「……ここらへんで調査は終わるが、そちらから聞きたいこととかないか?」
教官が締めの言葉として、逆質問を聞いてきた。
「そうですね、そういえばあの魔王、教官の事を知っていたようですけど昔なにかあったんですか?」
「……」
俺がこの質問をすると一瞬空気が固まった。
しかし、この空気を切り裂くように教官が答えてくれた。
「……すまない、その質問には答えられない」
教官は少し、下を俯いた状態だった。それに嫌な記憶を蘇らせたような顔をしていたので、もしかすると俺は地雷を踏んでいたのかも知れない。
「そうですか……。嫌なことを聞いて申し訳ございません」
「いや……いいんだ。それでは、最後に一つだけ聞いてもいいか?」
「なんですか?」
「……お前は、私たちの味方か?」
「……はい、そうですけども」
「……そうか。分かった。これで事情聴取は終了だ。ご協力感謝する」
最後に意味深な質問がきたが、俺は特にひっかかることも無いので、普通に「はい」と答えた。
こうして俺は三人よりも一足早く調査室を出て、三人を後にした。
―――その後。アランが出てから数秒後の調査室では、
「アランの奴、今はまだ大人しくしているな」
「そうね、できれば彼を信じてあげたいんだけれども」
「そうですわね。それに恐らく私たちに今はまだ敵意は持っていないようですわね」
―――随分とぎすぎすとした女子会が行われていた。どうやら三人ともアランに対していい印象は持っていないようだ。
「いえいえ、彼は十分要注意人物ですわ。なんせ彼は―――」
「やめなさい。まだ彼がそうだと決まった訳じゃない」
団長はゴリラの言葉を遮る。
「そうだな。もう少し様子見だ。ちょっとづつカマをかけていって、本性が出た瞬間にとっちめる」
「教官! あなたも疑いすぎですよ!」
「団長が言い始めた推論だろう?」
「いえ、私は彼にあの可能性があったので調べて欲しいと言っただけで、別に疑えなんて……」
「それを疑うと言うんだ。お前も団長なんだ。少しはその自覚を持ってほしいものだな」
「……うるさいわね、あなただって毎日アランの訓練が終わった後、なぜか性的に満足した顔をしているじゃない!」
「お前だってそうだろう! 毎晩のようにあいつと密会しやがって! 男を喰うのもいい加減にしろ!」
「別に食ってなんていないもん! ただ私は魔法を教えているだけで……」
「昔から言い訳が多いやつだな。そろそろここいらでそのうるさい口が二度と聞けないように調教してやろうか?!」
「調教なんて、なんて卑猥な言葉を! そんな人間がサーベラスの一員なんてありえないわ!!」
「黙れ黙れ! 誰のおかげでここの団長でいられると思っているんだ!」
「別にお願いなんてしてないわよ!」
「ほほーん、ではあの時のセリフをここで朗読してあげようかぁ?!」
「やめてー! それはごめんなさーい!」
さきほどの言い合いが嘘のことかのように、団長は教官に泣きつく。本当にばらされたくないことらしい。
「まぁ、そこらへんにして今日はそんな幼稚な言い合いは止めてもう解散しましょうよ。――――――見ていてなんか惨めな気持ちになるわ」
そんな友達間で行われるのようなくだらない言い合いを止める女がいた。その言葉に団長と教官は少し恥ずかしくなり、三人とも黙ってその場から去った。
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