第15話 腕試し

 俺は腰にある本物の剣を抜き、教官に剣先を向ける。


「……本物の剣か。本気で私を殺しにかかるつもりか?」


「もちろん、寸止めで行きます」


「なめた口を聞くんじゃない。その威勢を叩き潰してやる」


 調子に乗った俺に少し苛立つように、教官は今までよりもガチな目で俺を睨みつける。

 正直怖い。怖すぎる。ただでさえあの怖い教官が恐竜や敵を見る目でこちらを見ているのでどうやら本気な感じだ。それゆえ俺は何も言い返すことができなくなって、無言の時間が続いた。


 


 ―――この間がしばらく続いた。俺は剣を構えている状態。対して教官は特に構えることも無く、いつも通りの立ち姿のままだ。


「――――では、お願いします」


 教官に構えられると勝てない気がしたので、俺は先手必勝ということで教官が手に持っている木刀の先が地面から離れる前に突っ込んだ。


「おっしゃー!」


 俺は一瞬で教官の懐に飛び込む。どうやら普段の訓練による成果と亜人の力で身体能力が上がっているようだ。体を軽く動かすことができる。

 その俺の速さに教官は驚いている。目を見開き、信じられないものを見たという顔だった。

 ――――だが、その顔はすぐに元に戻り、俺の腕を掴んできた。


「まだまだだな。確かに速いが所詮は見習い。私に剣を当てるなんて不可能だぞ」


「……いえいえ、ここからが勝負ですよ」


 俺は剣の柄を握っている両手を片手で握られているので、動かすことができない。

 それに対し、教官は片手が開いている。その片手には地面に突き立てている木刀がある。これはつまりまずいということだ。もしこのままその木刀を振られれば、俺は一発でやられてしまう。


「……そろそろその木刀さんを使ってあげないと腐ってしまいますよ?」


「心配しなくても大丈夫だ。この木刀は使い捨てだからな。それに、望まずとも今すぐ使ってやるさ」


 教官は遂に木刀を動かした。その木刀は光のような速度で俺の顔に向かってくる。それに俺は反応することが―――――――――できる。



 パーン!!



 俺は木刀を弾く。

 まだ動く足を使い、教官の手首を蹴りで止めた。その勢いが木刀に伝わり、教官のてから離れたようだ。だが、俺の片足は教官の腕を止めるのに精いっぱいだ。


「やるではないか。少しは楽しめそうだな」


「………随分と余裕そうですね」


「当たり前だ。私はお前の師匠なんだ」


「そんなに傲慢では、弟子に足をすくわれますよ?」


 ―――といっても足をすくわれて片足が浮いてるのは俺の方だ。

 バランスが不自由な俺は、有効な動きをすることができない。つまり―――、


「でもまぁ、俺の負けですね」


 負けた。俺は正直勝てるかもしれないという淡い期待をしていた。日々の地獄の訓練と団長からの魔法と亜人の力を組み合わせればいけると思っていた。

 だがどうやら世界はまだまだ広いそうだ。付け焼刃程度の力で勝てるほど甘くないらしい。


「……潔いな」


「はい。負けを認めてからが始まりですから」


 俺はなんかそれっぽいセリフを言う。

 そして、迫りくる運命に俺は時に抵抗することもなくそのまま受け入れた。


 ゴスッ!!!!


 教官の蹴りが俺の腹にめり込む、その深さは俺が亜人でなければ腹ごと吹き飛んでいるだろう。しかし、教官は俺が亜人ということは知っているはずも無いので、どうやら本気で殺す勢いで蹴ってきたらしい。


「グヘッ!!」


 俺は体に力をいれるとさらに激痛が走るので、その痛みに従順に従い地面に倒れた。


「いったすぎだろ……」


「まだまだだな」


 倒れた俺に対して、教官はドヤ顔で立っていた。弟子に勝ったことを素直に喜んでいるらしい。結構かわいいところもあるな。





 ――――こうして負けた俺は昨日よりも更にきつい訓練を課せられた。その後の俺は言うまでもないだろう。

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