第11話 魔法

 ―――俺の目の前で母が殺された後、速やかに簡単な葬儀が行われ、ロイドや近所の人も参加したが、俺は参加出来なかった。

 恐らく認めたくなかったのであろう。母が殺されたということと、もし俺がサーベラスの訓練から逃げ出さず、強くなっていれば母を救えていたかもしれないということを。


 こうして俺は生きる希望を無くし、ここから惨めで虚しい一人農業生活が始まった。





 ―――――まぁ、今更昔の事なんて考えても仕方ない。

 俺は閉店まじかの大浴場に駆け込み、その後フカフカのベッドで就寝した。


「あぁ、嫌なこと思い出しちったなぁ」


 嫌な記憶が蘇ったせいで中々眠れない俺は部屋から出て、廊下を歩き、屋敷のような寮を抜け出して散歩を始めた。


「……風がいい感じだな」


 もう夜なので、外には警備をしている兵士しか見当たらない。皆もう寝ているか、部屋でなんかワチャワチャしている時間だ。普段は兵士の訓練の声や、何かに駆け付ける兵士達の声ばっかりしていて全く落ちつかない場所なので、普段とまるで違う場所のように感じる。


「アラン君。いつまで起きているつもり?」


 背後から俺の性欲を触る声がする。そして、その方向に顔を向けると、そこにはオアシスがあった。


 ―――バイーン!


 って感じの胸とダル着で少しはだけている服。その服はなんというか、アッレガしやすいように設計されたようなパジャマだろうか? それにしては男を誘いすぎてる服装だ。


「そういう団長も、何しにここに来たんですか?」


「私は少し体を動かしたくなってね、よかったら付き合ってくれない?」


「はい!是非こちらからお願いします」


 団長は唇に人差し指を当てて、俺を誘ってきた。俺は是非俺で良ければという感じで、鼻の下を伸ばし、前屈みの状態で団長に近づく。

 すると、辺りの風が、パイ団長を通って、凄くいい匂いがこちらに漂ってくる。なんとも素晴らしいんだ。


「ありがとう。じゃあ行こっか……」


 


 こうして俺と団長はとある薄暗い密室に入った。そこは明かりがなく、小さい窓からは夜空が少し覗けるくらいだった。

 そしてそこではいい感じの躾が行われていた。


「……もっと、腰を動かして、もっとよ」


「…はい、団長。でも、俺もう出ないです」


 ――――何をしているかというと、魔法の訓練だった。別に何かを期待していた訳じゃないが、少し思ってたのと違うって感じだった。


「もっとよ!もっと指先までしなやかかつ力を入れるのよ!」


 団長は俺に魔法を教えてくれた。どうやら魔法の訓練は形から入ったほうがいいらしく、俺はまずポージングの練習をさせられた。


「まぁ、先程よりは大丈夫ね。これならきっとやっていけるわ」


「お、合格って感じですか?」


「いえ、オマケで合格って感じよ。ここで合格にしないと次に進めないんだもの」


 団長は見た目の割に結構厳しかった。さすがはこの大軍隊の長というだけある。


「次は魔法の唱え方をやって行くわ。さっきの構え方を忘れずに私と同じ言葉を繰り返してね」


「 はい」


 すると、団長は細いウエストに力を入れ、胸を張り、何者にも潰されないような堂々とした立ち姿でさっき俺に教えたポージングをする。そして、


「イマジネーションフラッシュ!」


「イマジネーションフラッシュ!!」


 俺も続けて唱える。すると、俺と団長の手から眩しい光が灯され、この密室に明かりを与えた。


「おぉ……」


「結構飲み込みは早いみたいね。そしたら次はこの光を投げるようにしてどこかにぶつけてみて」


「はい」


 俺はボールを投げるように構え、手でポワポワとしている光投げつけて床に叩きつける。


 すると、そのポワポワは拡散状に一気に広がり、辺り一面に光を灯した。そしてその光はしばらくの間続き、ここが夜の密室だということを忘れるくらいの明るさだった。


「スゲェ……」


 俺は思わずスゲェと呟く。


「凄いでしょ? これが魔法だよ。さらに訓練を積めば、もっと凄い魔法が使えるよ」


 団長は俺と同じポワポワを今度は両手で握りつぶす。

 そしてその両手を広げると、俺が出した光とは比べ物にならないぐらい輝いた光の槍の如く、四方八方に飛んでいった。


「凄いでしょ。これが魔法だよ」


 俺は眩しい光で目を開けることが出来なかったが、その声はワクワクした少女のようだった。




 ―――そして、その光を見せられたあと、俺達は解散し、部屋に戻った。

 俺は先程団長がやった魔法を真似しようと、同じポーズ、同じ言葉で唱える。


「イマジネーションフラッシュ!」


 ―――が、出来ない。ある程度は光るが、あの団長ほど強くは光らなかった。


「う〜ん、やっぱり今の俺には難しいか」


 分かってはいたが、どうしても団長の光には届かない。

 そして、その淡い光が消え去ると同時に俺の体も急に力が入らなくなって倒れた。


「あ…れ……」


 俺はそのまま床に倒れたまま重いまぶたを閉じた。




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