第7話 訓練開始
――――団長ってお前かよ。
なんと、今目の前のパイについている人が、団長ということらしい。
「改めまして、私がサーベラス連合軍団長のシルク・アルフィーだ。気軽にシルクって読んでね」
シルクは俺に握手を求めてきた。
「あ、よろしくお願いします。シルクさん」
俺は彼女の手を両手でギュッと握り、気持ちを込めた挨拶をした。
「うんうん。君は無知でいい子そうだね」
「え?」
「だって、私は団長だよ? 村民や他の団員に嫌われるような存在なんだ。なのに、私に嫌悪の目を向けない。珍しい人なんだね」
――――団長が嫌われている? どういうことだ?
確かにサーベラスは村に対してのちょっとキツめの奉納の義務を課しているが、それは村民も納得はしている。だって、奉納はキツイが逆にそれだけしていれば命は保障される。
そんな両者ウィンウィンな制度を設けているのに村民どころか団員にまで嫌われているなんてどういうことだ?
「……どういうことですか?」
俺は考えても分からないので尋ねる。
すると、団長は悲しい目をしながら話してくれた。
「……元々私はここの団長では無いんだ」
「え? どういうことですか?」
「私は四代目団長。だが、ここで団員をしたことがない。ちょうど半年前に飛び込みで団長になったんだ」
飛び込みで団長。つまり、昇格で団長になった訳では無く、サーベラスに加入した瞬間に団長になったということだ。それはつまり、この人がよほど強い人とかだったりするってことだ。
しかも半年前に団長になったってことは俺が見習いでここにいた時とは違う団長ということだ。
「なるほど。ちなみに三代目、二代目はどうなったんですか?」
「……消えた」
「は?」
「消えたんだ。団長達が遠くに狩りに行ったときに突如として消えた。帰ってこなくなった」
半年前班そのものが消えた。そんな事があり得るのだろうか?
班が消えたということは、恐竜や国家の兵士達に負けたということが考えられるので普通なら団長達は死んだと処理する。だが、彼女は消えたと言った。それはつまり――。
「誰かに殺されて、遺体ごと燃やすだの何だのされて消されるか、もしくは誰かに拉致されたか」
「そうね。恐らく後者の方が可能性が高いわ」
「なぜそう思うんだ?」
「だって、もし亡くなったら魔力の反応が無くなるはずだもの。でもまだ団長の魔力はかすかにする。何処からかは分からないけど」
なるほど。どうやらパイ団長は前団長の魔力を感じ取れるらしい。さすが、団長と言うだけはあふな。
「かすかにするって、団長は人の魔力を感じ取れるんですか?」
「……えぇ、まあ。別に私じゃなくても他にもできる人はいるわよ。あなたも必死で訓練していればいつかは出来るようになるわ。頑張ってね」
「は〜い」
俺は能天気な返事をした。
――――だが、俺はこの時は気づいていなかった。この一週間後に地獄に落ちるということを。
―――― 一週間後。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
俺は肺を潰す勢いで息をしていた。
「おい!そこの見習い!何膝に手をおいているんだ!サボってないで走れ!!」
うだるような暑さのなか、教官の怒号が鳴り響く。
「いやいや。もう無理だってぇ……」
俺はこの罵声と熱い日差しを浴びながらサーベラスの敷地内にある訓練広場でひたすら走らされていた。
「はい!もう一本!」
「はいぃぃ!!」
ちなみに教官に逆らうことはできない。
一度俺はこの無茶苦茶な訓練に嫌気が差し、教官の顔をぶん殴った。その結果返り討ちにされ、プライドがズタズタになるまでボコボコにされた後、その次は全裸で雨の中、正座をさせられた。
それはもう見ものだった。十六歳という、毛が生えたての陰部を晒しながら、俺は隠すことも許されず手は頭の上に固定させられていたのだ。死のうかと思った。
だが、俺は諦めなかった。俺はもう既に一度戦士の夢を諦めていた。しかし、この年でもう一度チャンスを貰ったのだ。これは是非ともものにしたい。
――――結局あれから俺は畑四十個分の広さの訓練場を百五十周させられた。
「…………」
もうなんか、きついとかの次元を超えて無の境地に入っちゃった。悟りを開きそうだったぜ。
すると砂の上に大の字に寝る俺の顔のもとに、綺麗な生脚がやってきた。下から見ても教官の顔はなんかエロ目の顔でいいな。男を貪り食ってそうな顔だ。しかも生脚は生脚でも茶色い生脚。俺がおっさんだったら今頃出てるね。あれが。
いやらしい事を考えている俺に、生脚教官は木の剣を床に立てる。
「今日の訓練はこれで終了。明日も訓練の予定だったが、休みとする」
なんと。明日は休みとのことですわ。
「まじ?! なんで?!」
「…………」
俺は喜びのあまり、敬語を使うのを忘れてしまった。だが、教官は見逃してくれたらしい。というかなんだかいつものキッツイお顔が少し崩れている。何かあったんだろうか?
「教官? 何かあったんですか?」
「…………いや、別にお前には関係ない」
少しは心配してやったのになんだよその態度は。いくら顔が良くて男を誘う体をしても、そんなんじゃ誰にも救ってもらえねぇぞ。
――――でもこの時の教官の顔はなんだか悲しそうで、どこか助けを求めていたような気がしていた。
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