第6話 団長
――――初めて勝った。今日俺は初めて。
俺は勝った喜びと、使い切った体力のせいで、院長が倒れた後、すぐに俺も倒れ込んだ。
しかし、俺は見たのだ。縮まる視界の中にはゆっくりと近付いてくるロイドの足が、かつかつと音を立てながら。
――恐らく翌日の昼。目が覚める。
「うーん……、いった!」
目を開けると俺は見慣れない天井の部屋の豪華なベッドの上で寝ていた。そして、ベッドから立ち上がると、近くの窓のカーテンを開ける。
どうやら俺は丸一日寝ていたらしい。
窓からは高い位置からの日差しが俺を照らしていた。
「ていうか、ここはどこだ?」
意外にも寝ぼけていなかった。昨日の事はハッキリと覚えているし、今この瞬間も脳は正常に動いている。昨日のアドレナリンがまだ少し出ているらしい。
窓から外を見ると、快晴な青空が広がっており、雲一つ無かった。そして、どうやらここは高い場所らしい。下を見ると、人が豆粒のように小さい。しかも多くの人は鎧を着ていた。
「さ〜て、ここは一体どんなところなんだ?」
なんだか心が軽い。何かが吹っ切れたようだ。それゆえ、今まで忘れていた好奇心が再び芽生えてきた。
バタン!バタン!バタン!バタン!
俺は部屋を出て綺麗なカーペットが敷かれた広い廊下を歩き回り、色々な扉を開ける。だが、どれも誰かの部屋のようだが、誰もいない。とりあえずでっかい屋敷的な何かということは理解した。
そして、俺は遂に角部屋に来てしまった。
「ここもおじゃましま~す」
俺は扉を開けた。するとそこには――。
「キャアァァァァ!!!」
控えめな胸。あどけない顔。そして小さな体ながらも将来が期待されるようなウエスト。それがなんの布も無く、俺の視界に入ってきた。
「アランの馬鹿!!!!」
その少女は近くにあった椅子を俺の方向に投げ飛ばしてきて、俺はまたもや壁に吹き飛ばされた。
だが、悔いは無かった。
――――メアリー。大人になったな。
俺は一線を超えそうだった。
――時は進み、一時間後。
また怪我した俺はこの屋敷の人から処置を受けた。
「もう。まだ治ってないのにこんな早くから動き回ったら駄目じゃない」
その人ははちきれんばかりの胸をお持ちのようで、俺の耳にはなんの言葉も入ってこなかった。
「え?……あ、はい」
「聞いてるの?!アラン君?!」
「はいぱい。すいません」
「……そんなに元気なら今日から訓練初めてもらおうかしら」
俺は無意識にぱいしてしまった。確かにまだまだ訓練が足りないなぁ〜。以後精進します。
――――ん? 訓練?
俺はここでようやく理解した。ここがどういう場所か。昨日の出来事と登場人物。そして訓練という言葉。これから導き出せるものは――――。
「ここってもしかして、サーベラス連合軍の本拠地ですか?」
「当たり前じゃない。むしろそれ以外に何かあるのかしら?」
パイ先生は当たり前のように返してきた。どうやらここはサーベラスの本拠地らしい。
まぁ納得って感じかな。こんな豪華な施設なんてサーベラスしか持ってねぇもん。
「そっかぁ。ここはサーベラスの本拠地か」
「えぇ、そうよ。あと、君は来週から訓練に強制的に参加してもらうわ。異論は認めないとのことよ」
「まじかよ。まぁ、昨日の事とここがどういう場所か分かった時点でなんとなく予感はしたよ。ちなみに誰の命令なんだ? ロイドか?」
「――団長です」
「……」
「……」
俺とパイ先生の間に長い間が生まれる。
――え? 団長? 団長ってあの団長? は? どういうことだ? もしかして昨日の事、団長は知っているのか? というか団長なんて会ったこと無いんだけも。
「……それで、その団長さんは何処に?」
「ここです」
パイ先生は何処か指を指す訳でもなく、同じ体勢、同じ顔の向きで喋る。
「いや、どこ?」
「いや、だからここですって。私です」
「……は?」
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