第4話 弱さに苛立つ
――――メアリーに「ごめん」と謝った後、俺は下を向きながら帰路を辿る。
「でもまぁ、どうしようもないしな」
――――まぁ、こんなのただの言い訳だって自分でも理解している。自分に才能が無いことを理由に努力をしない。俺はそんな奴だ。
今日もまた自分の弱さを自分でつつきながら一日を終える。ぶっちゃけこんな生活は早く辞めたい。
情けないことを考えてる内に俺は家に着いてしまい。一日が終わってしまった。あとはもう今日採れた野菜を置いて、近くの冷たい川で風呂に入り、薄い布団で寝るだけだ。
「……こんな生活早く終わらせたい」
自分で自分が分からない。何がしたいのか、何をするべきなのか、何を求めているのかが。だから動けない。何かをしようと思っても、その何かが分からなければ努力の方向性も見えない。もちろん戦士になれるならなりたいが、適性が無いのでその道は無い。
俺はいつもの行動を済ませて、今日もまた眠りについた。
「……明日は休みだし、どっか出掛けてみるか」
――――翌朝。俺は起きた。今日は休みだというのに、いつもの習慣で無駄に早く起きてしまう。
なんか俺って凄い忙しい奴みたいだな……、なんもないけど。
そして俺は身支度を済ませて、ボロボロの服の中から少しだけマシなキレイめな服を着て、家を出る。
向かう先は村の中央。そこには色々なお店があり、とても興味深いものが売られている。例えばトリデイヤという大型恐竜の姿焼きや、日用品とかでは鏡ぐらいピカピカに磨かれた包丁。俺の家には錆びついて刃がほころんでいる小型のナイフしかない。
もちろんどれもすべて俺には買うことはできないが、見るだけならタダだからな。
俺は特に買い物もせずお店を渡り歩き、色々な物を見た。そして、その渡り歩いている最中に、俺の目をより引く物があった。
「おぉ〜〜〜」
それは金の骨から出来ている。ある恐竜の模型だった。村を囲う壁ぐらい高く、今にも動き出しそうな迫力だった。
「これってなんの模型なんですか?」
俺は近くにいた店の受付嬢に尋ねる。
「これはラビアと言って、かつて人間が生まれる前の世界を蹂躙していたそうよ。サーベラスの調査団達が村の外を捜索中に地面の中から見つけたらしいわ」
なるほどねぇ〜。調査団も中々やるではないか。
俺は謎に上から目線だった。
「これってどうすんの? ここにずっと置いておく感じ?」
「さぁ〜? もう移動させるのも面倒だしそのまま何じゃない?」
「へー」
「何でも、一級兵のロイドって人が一人で持ち上げて帰ってきたそうよ」
「――――スゲェなあいつ」
「あいつ? 知り合いなの?」
「いや……、まぁ知り合いというかなんというか…」
少し気まずい。別に同僚だと言ってもいいのだが、俺と比べられそうだ。
「――――ふ〜ん。ま、でも簡単にあいつなんて言っちゃ駄目よ。あの方はこの村の一級兵。権力も結構上の方なのよ」
――――言わなくても、比べられた。別に直接言われた訳では無いが、なんとなく比べられた気になる。
「はい。すいません」
「分かればよ〜し。さ、仕事に戻らないと」
その美人な受付嬢は俺に軽くデコピンをして、店の奥に戻っていった。
置いていかれた俺は引き続き金の模型を眺めていた。
「ていうか、金の模型って。どんな趣味してんだよ」
――――帰宅後。日は少し高くなっており、昼ご飯の時間だ。といっても俺はそんなものを食べる金なんてないんだけどな。
今更ながら言わせてもらうが、俺は貧乏だ。だから毎日三食ご飯を食べる金もない。かといって食べる気も起きないから金を稼ごうとも思わない。なぜなら俺は人生にうんざりしていて無気力だからだ。だから、金を稼げない。だから、ご飯を食べられない。だから、何もする気が起きない。だから、金を稼げない。まさに負のループそのものだ。
――――俺は少しでも沈んだ気分を紛らわすために外に出た。そして、しばらく歩いてメアリーがいる孤児院の前に来てしまった。
メアリーは孤児だった。ある時、村の外に捨てられていた赤子のメアリーを見つけたサーベラスの調査団は彼女をこの村に持ち帰り、この孤児院に入れた。
だが、この孤児院の境遇は最悪だ。不衛生な床や壁、質素なご飯、さらには院長の暴力。俺の家より数倍悪い。できることならメアリーを引き取って、俺の家で育ててあげたいが、そんな余裕は当然無い。
「――――俺って何もできねぇな」
俺はため息をつきながら、孤児院の前で自分に対する愚痴をこぼす。愚痴を言ったところでどうしようも無いのは分かっているが、こんくらいしないと自分を保っていられない。
――――だがその時、孤児院の中から大きな悲鳴が聞こえた。
「キャアアアアアア!!辞めてよぉ!!!」
女の子の声だった。しかも、その声は――。
「メアリー?!」
メアリーだ。このハリのある声。間違いなくメアリーだ。何度も何度も聞いた声だ。聞き間違えるはずがない。
俺は勢いよく孤児院の扉を開けて、中に入る。すると中には院長から滅多打ちにされているメアリーを見つけた。
「辞めて、インチョー…………」
メアリーの綺麗な顔は腫れていて、口と鼻から血が出ており、目からは涙が溢れていた。もうボロボロで床に寝そべるしかできなそうだった。そしてその上にヒゲだらけの院長が馬乗りになり、メアリーの腫れた顔をさらにボコボコにしていた。
「オラッ!オラッ!てめぇ、俺の夜食を盗み食いしようとしやがって、この夜食は俺が楽しみにしていたんだぞ!!」
院長のそばには皿から落ちた肉や魚があった。
――――孤児院のご飯は質素で毎日おがくずのようなご飯しか出されない。当然メアリーもそうだ。
だがそんな中、院長だけは豪勢な飯を何度も食っている。そりゃあそれを見た子供は院長の飯を奪うだろうな。
「……おい、辞めろよ」
俺は勇気を持って発言した。
だが、その声は小さくて院長には聞こえない。俺はビビって小さな声しか上げられなかった。目の前で小さな女の子が助けを乞いながら泣いているのに。
「…………おい」
またも呼びかけるが、誰にも届かない。
畜生。情けねえ。本当に情けねえ。俺は戦士になりたいって口だけは言いながら、何の努力もせず、何もせず、ただビビって毎日愚痴をこぼすだけの惰性生活しかしてこなかった。それがこのざまだ。目の前の小さな女すら助けられない。
畜生。畜生。畜生。畜生。
どうすればいいんだ。俺は何もできない。
「助けて、誰か……」
メアリーの悲痛の叫びが聞こえる。
――――動けよ、俺の足。助けろよ、俺。ここで動かなくていつ動くんだよ。ここで助けて、この女の子の戦士になるんだよ。
「おい! 何とか言えよゴラァ!」
院長は先程よりも増して殴り続ける。
「もう……、止めて……」
――――決めた。ここで助ける。助けてここから始めるんだ。
俺は足を一歩踏み出した。そして、またもう一歩。そのまま少しずつ院長の側に近づく。
そして、遂に俺の拳がギリギリ届く所まで来た。院長は殴るのに精一杯で俺には気づいていない。メアリーはほぼ気絶していて、目が虚ろだ。
「オラ!くたばってんじゃねぇぞ!!」
――――ここだ。今ならやれる。
俺は拳を上げて、思いっきり殴る体制に入った。そして――――。
――――動かない。
俺の拳は動かない。もうすぐそこまで来ているのに、ここまできてまだビビっている。
俺はあがってしまい、気持ちがフワフワで何も考えられなくなっていた。
――――おい、俺。動けよ。なんで動かねぇんだよ!!もうすぐそこまで来ているだろ!!
自問自答するが、その答えは体には表れない。やらなきゃいけなくてもやれない。いつもとおんなじだ。
「……はっ。もう寝ちまったのかこのメスガキ。続きは明日だな」
俺がビビって動けない間に院長は殴るのを止めた。
そして、院長はこちらに振り返る。
「あ? なんだてめぇ」
――――終わった。
アドレナリンどばどばの院長がビクビクしている俺に気付いてしまった。こうなればもうどうしようもない。俺もメアリーと同じ道を辿る。
「てめぇ。どっから入ってきやがった?」
「あ……いや…………」
「まぁ、いいや。てめぇもおろしてやる」
院長は俺の太ももより何倍も太い腕を上げ、ぶん殴る体制に入る。
あ、終わった。俺。
そして、院長は俺の顔を目標に拳を下ろす。すると――――。
パリーン!!
すぐ近くの窓が割れた。
しかしただ割れただけではなく、同時にその窓から金髪オールバックの男が飛び込んできて、俺と院長の間を遮り、窓ガラスが飛び散った床に綺麗に着地する。
そしてその男の第一声は――――。
「なんだその面は。アラン」
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