第3話 仕方ない
「ロイドか……」
「気安く呼んでほしくはないな」
彼はロイド・ファスター。俺の同期で同い年の戦士だ。髪は金髪オールバックでその長さは肩ぐらいまである。俺と同い年なのに俺より一回り大きい。それだけ聞くと結構厳ついやつだと思われるが、その通りだ。彼は元々貴族出身だが、とある事情により破門にされて、ここに流れ着いたというわけだ。
「こんなところで油売ってて良いのか? そろそろ訓練の時間だろう?」
「……そうだな。俺は訓練の時間だ。お前とは違って命がけで生きているからね。一瞬もサボれないよ」
っち。いちいち頭にくるぜ。こいつは昔からそうだ。
かつて俺とこいつがまだ同格だった時代。お互い見習いだったときだ。俺達は毎日毎日訓練に明け暮れる日々だったが、俺はついていくことができなかった。しかし、ロイドは余裕そうに訓練と仕事をこなし、今では一級兵だ。
「――――そうか。頑張ってな」
「あぁ。そっちもな」
俺達は決して仲が悪い訳では無い。むしろ俺の中では仲の良い方の人間だ。
だが、毎回会うと少し気まずくなる。それは昔とある事情があったのだが、あいつも恐らく忘れていないだろう。
俺はエリートの同僚が本拠地に入るのを惨めに見送り、畑に戻ることにした。
――――数時間後。日が暮れてきた。
「さぁさぁ。早く帰って夕飯の準備だ」
そういえば昨日の夜からろくに食べ物を食べていない。時間がなかったのもそうだが、そもそも食べられるものがほとんど無いというのが正直な所だ。
俺が住んでいるこの村はサーベラスが完全に管理と警備をしている。その対価として莫大な量の奉納が村民には強制的に課せられている。それゆえ、普通の村民や俺のような本拠地にも入れない雑用は常に食料不足だ。
村民の中にはこの制度に不満を抱える者も当然多くいる。だがもしサーベラス達がこの村から去ってしまった場合は中央国家の兵士共に皆殺しにされてしまう。なので、それに比べたらまだ奉納の方がマシだと考える。
帰る準備をする俺は、採れた野菜をカゴに詰め、昨日と、いや一年前と同じ事をしている。
「今日は昨日より少いな……」
今日は人参とキャベツだけだった。しかも量が少ないので、次の奉納は大丈夫だろうか? 明日と明後日で挽回しないとな。でもまぁそろそろ次は大根がいっぱい採れそうだから大丈夫か。
「大根さん達頼みますよぉ~」
こんな感じで俺が畑に埋まっている野菜達と会話をしていると、畑の向かい側から俺を呼ぶ声がした。
「……アラン。野菜と会話しているなんて随分と暇なんだね」
その声の主はメアリーだった。
俺は驚いた。いつもなら馬鹿でかい声で俺のことを呼んでくるのに、今日は何故か落ち着いて呼んでくる。
――――やっぱり昨日の事を気にしてんのかな。
「おぅ。………どうしたメアリー?」
「どうしたじゃ無いんだけど。昨日の事。まさか忘れたなんて言わないよね?」
メアリーは口をすぼめつつ頬を膨らませ、少し赤くなりながら怒っていた。
――――だが怒りながらも俺の所にまた来てくれた。正直もう来てくれないと思っていた。
「ごめん。メアリー。昨日は怒鳴ってしまって……」
俺も顔を少し赤くしながら、照れくさく謝った。
言えて良かった。俺の数少ない友人なんだ。もし彼女が居なくなれば、俺は死んでもいいくらいだ。
「別にいいよ。そんなことより、今日こそ訓練に行かない?」
メアリーは許してくれた。そして、また懲りずに昨日と同じ提案をしてきた。だが、昨日とは違って今日は何だか優しい。昨日は勢いに任せて無理矢理俺を連れて行こうとしたが、今日は俺の意見を待っているらしい。
――――俺より大人じゃねぇか。
だがメアリー。すまない。俺はお前の気持ちに答えることは出来ない。お前は俺に光を照らそうとしてくれるが、俺はその光を浴びたくない。もう二度と浴びたくない。あんな血なまぐさい戦場でもう大切な人を失いたくないんだ。
「ごめん。今日も………」
「そう……。分かった」
メアリーは完全に俺に失望した目でこちらを見てくる。
――――俺だって強ければ戦士になりたいさ。でも、俺は生まれつき戦いのセンスがないからさ。
だから、俺は逃げるよ。だって俺は弱いんだもん。仕方ない。
――――俺は自分にそう言い聞かせた。
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