第114話

 まだこの辺には魔物はいないはずだ。


 安心してキエルの町を目指せる。



「……さてと、こっちの道は初めてだな。とりあえず、この道をしばらく歩くと森を抜ける事ができる……らしい」


「うん、知らない道だもんね、わかんないよね。私知らない道を歩くなんて、ほんと久しぶりだな。……なんかワクワクするね」


「ああ、知らない道ってだけなのにな。ワクワクするな」


 何回も知らない道と言い合う。


 自分たちから行かないと行けない道。


 ある意味で、ここが最初の一歩なのかもしれない。



「昨日のご飯美味しかったね、アーちゃん」


 歩き始めて間もなくルナが話しかけてきた。


 しかし、いつもと声の様子が少し違う気がする。



「ああ、凄いよなおばさんのご飯。本当に全部美味しかったもんな」


 昨日のご飯を思い出して、上を向く。


 思い出すだけで、よだれが出てくる。肉に魚、うーん、どっちも美味かったなぁ。



「なぁルナは、肉と魚、どっちが好きだった? 」


「……」


 俺はいつもの調子で返したが、ルナは少し浮かない顔をしている。


 なんだろうか、少し考えるように下を向いている。



「……あれってさ、やっぱり私たちのために用意してくれたのかな? 」


「……ん? どういう意味だ? 」


「だってさ、すごい”ごちそう”だったよ。あれを毎日食べる家ってないでしょ? 」


 確かにいつもより少し、いやかなり豪華だった。


 あれを毎日食べるには金がかかりすぎるだろうし、あんまり健康的とは言えない。


 ……ああそっか、あれは俺たちのために作ってくれたんだな。


 いつも美味しいご飯を作ってくれていたな。


 ルナの言葉で気が付く事ができた。



「……お礼、もっと言っとけばよかったな」


「うん、そうだね」


 もう一度立ち止まり、見えなくなったおばさんの家の方を向く。


 ”本当の家族だよ”


 昨日の言葉を思い出す。


 嬉しかったな、そんな風に思ってくれてたんだなって。


 おばさんたちの優しさを思い出すと、心が温かくなった。



  



 

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