第91話

 アーちゃんの背中を見送った私は、また夜空を見上げる。


 ”本を書く”


 一人になって冷静に考えると、ずいぶんと大きな事を言ったもんだなぁ、って思うよ。


 本はリリアン先生たちが勉強のためにと持って来てくれたのを、            いくつか読んだ事がある。


 私は王子様と村娘との恋物語。アーちゃんは悪いドラゴンを倒しに行く、勇者様の物語。その他にいくつか読んだ事がある。


 面白かったけど、自分たちで冒険に行くと決めてからはあんまり読んでいなかった。



「懐かしいなぁ……」


 本を読んだ時のドキドキは今も覚えている。


 こんな素敵なお話があるんだ、と夢中になって読んでいた。


 夢中になり過ぎて、お母さんによく怒られたっけ。


 そんな”本”を自分で書く。


 今まで書いた事があるのは日記ぐらいで、本を書いた事なんてまったくない。


 でも、さっきはそれが一番いいと思った。


 これなら家族のみんな、アーちゃん、私。全員の夢が叶うって。


 だから直ぐに声に出した。アーちゃんに聞いてもらった。


 そうすればきっと、声にして出せばきっと覚悟が決まる。


 覚悟が決まれば、あとは私が頑張って本を書くだけ。



「……だけ、なんだけどなぁ~。はぁ~、本当に書けるのかなぁ~」


 やっぱり思いつきで言うもんじゃないね。


 時間が経つにつれ、なんであんな事言っちゃったんだろうなぁ、って思うよ、うん。


 でも、話して良かったと思うのは本当。


 問題は色々あるけど頑張ろう!


 私は自分の直感を信じる!


 

「でも、……でもなぁ」


 下を向いて頭を抱える。  


 頭に手を当ててると自然と目線が落ちてきた。


 目の前にあるはずの道が暗くてよく見えない。



「……まるで今の私見たい」


 ん? このセリフは本に使えるかもしれない。忘れないうちにメモしておこう。



「はぁ……」


 頭の中がいっぱいで、逆になんにも考えられない。


 視線を上げて夜の森を眺める。

 

 ボーっとしていると、強い風が吹いた。


 夜の風は冷たく、寒くて震えてしまうくらいだ。


 でも、アーちゃんが掛けてくれたマントのおかげで寒くなかった、とっても暖かかった。



「……そうだよね。私は一人じゃない、……一人じゃないよね」


 マントを「ギュッ」と握りしめ、勢いよく立ち上がり前を向く。


 そうしたら暗かった道の先が少しだけ、少しだけ明るく見えた。

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