第69話

「家族を想っちゃダメなの? 」


「それはとても嬉しいよ。でも、なんて言うかな、私たちの事は気にしないでもっと純粋に楽しんで来てもらいたいんだよ。……ルナにはずいぶんお姉ちゃんとして我慢させちゃったね、ごめんよ」


「そんな風に言わないで! 」


 椅子から勢いよく立ち上がり声を荒げる。



「私は我慢なんてしてない! みんなと一緒で幸せだよ。……そんな風に……そんな風に言わないで」


 肩で息をしながら反論する。



「そんな家族に、私を幸せにしてくれたみんなにもっと幸せになってほしい! ……それが私の夢。その夢を叶えるためのお金持ちになりたいの」


「ルナ……」


 家族のためにお金持ちになりたいと言うルナ。


 ルナのために家族の事は気にするなと言う家族。


 どちらも相手を想っての事。


 だから難しい。


 しばらくの間沈黙が流れる。


 沈黙を破ったのはお母さんだった。



「……あんた、もういいんじゃないかな。話し合ったよね、ルナの夢を応援しようってさ。だったらさ、お金持ちになるって夢も応援してやるべきじゃないのかい」


「……でも母さん」


「もうルナは自分で考えられる歳なんだよ。まぁ、昔からお金持ちになるって言ってたけどさ。立派な大人が考えてくれたんだよ、家族のために頑張るってさ。じゃあ、それに甘えてもいいんじゃないかい。それは別に悪い事じゃないよ」


 お母さんは納得してくれたみたいで、お父さんの事を説得してくれている。


 お父さんの方を見る。


 下を向きながら両手でカップをいじっている。


 

「……そうかもな。ルナが親離れするように、俺たちも子離れする時がきたのかもな……」


 少し寂しそうに返事を返すお父さん。


 そんな顔を見てると、なんだか胸が「チクっ」とした気がする。


 そのまま考え込むお父さんを見守る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る