第64話



「アレクス、何か食べたい物はあるかい? 」


 急にそんな事を言い出した母ちゃん。



「どうしたの母ちゃん。今までそんな事、聞いてきた事ないじゃん? 」


「いいから、何かないのかい? 」


「えー、兄ちゃんだけズルいよー」


「ズルいよー」


 弟たちが騒ぎ出す。手をバタバタさせて抗議している。



「あんたたちはまた今度好きなの作ってあげるよ。で、アレクスは何食べたい? 」


「んー……」


 好物は色々ある。じっくり煮込んだ具だくさんのスープも好きだし、母ちゃん特製のタレで焼いた肉も大好きだ。


 でも、なんとなく違う気がした。



「……いつものが食べたいかな」


「なんだい、好物を作ってあげるのに。いつもと同じのでいいのかい? 」


「うん。いつもと同じのでいい。……いつもと同じの”が”いいな」


「変な子だねぇ」


 夕飯はいつも決まっていた。野菜スープにパン、それに簡単な魚料理。たまに魚の代わりに肉が出てきたりもする。


 夕飯を食べたら後は寝るだけなので、意外と質素な食事だ。


 その代わり昼は肉を食べたりする。午後の作業のためには力が出る物を食べる必要がある。


 肉は鶏肉、豚肉、猪肉、鹿肉、等色々ある。


 魚は村の近くに川が流れているので、意外と安く売られている。


 勿論自分たちで釣ってもいい。父ちゃんと何回か行ったが面白かったし、捕れたてを焼いたらすごく美味しかった。


 肉は狩りをして手に入れるか、行商人から買う。


 狩りの時期には少し早いので、新鮮な物は今は無い。食べるなら干し肉か燻製肉、等の保存食を調理した物になる。

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