第62話
日が暮れるまで父親の手伝いをしたアレクスは腹を空かせて家に戻った。
近くの井戸で手を洗い、農作業用の服を納屋で着替えてから家の中に入る。
「ただいまー」
「はい、ご苦労様。今からご飯を作るからちょっと待ってておくれ」
「兄ちゃん、おかえりー」
「おかえりー」
母ちゃんが食事の準備を始めるところだった。献立を悩んでいる様子で顎に手を当てている。夕飯はいつも決まっているので、悩んでいるのは珍しい。
二人の弟も母ちゃんの手伝いで、テーブルを拭いたりしている。
「うん、わかった」
返事をして椅子のに座る。「ふぅ」と、一息ついて落ち着く。そして、腰に付けていた変換器を取り外し、眺める。
「んふふ」
声が出てしまう。自分だけの変換器。家族の物でも、村長の所から借りたものでもない、自分専用。
自分専用。ああ、なんて良い響きなんだ。
「いいなー、兄ちゃんは自分のやつがあって。僕も欲しいよ」
「僕も、僕も! 」
変換器を眺めていたら二人の弟たちが騒ぎ始めた。
兄の物が欲しくなるのは、きっとどこの家庭でも同じだろう。
「まだダメだぞ。学校で色んな事を勉強してからな」
「勉強すれば貰えるの? 」
「ああ、そうだぞ。いっぱい勉強して、色んな事を知るんだ。そして、もっと大きくなったら貰えるんだ」
「うん、わかった。いっぱい勉強して、いっぱい食べて大きくなるよ」
「僕も、僕も」
アレクスは笑顔で弟たちの頭をガシガシと撫でる。父親のアルバートがアレクスにしてくれた様に。
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