第45話

「おう、取り敢えずお帰り。無事で安心したよ。リリアンったらお前らが心配でな、ずっとウロウロしてたんだぞ」


「ええ、あれはちょっと気になりましたわ。同室の私は笑いごとじゃなかったんですよ」


「あれはすみませんでした。やっぱり可愛い生徒の事となると落ち着かなくて」


 イリアム先生とエイトリン先生に茶化されるリリアン先生。リリアン先生は申し訳なさそうに頭を下げた。どうやらかなり心配してくれてたみたいだ。



「まぁ、わからない事もないんですよ。私も昔は生徒の事をよく心配してましたよ。でも意外と大丈夫なのよね。今回だって二人とも怪我もしないで元気に帰って来ましたでしょ」


「それはわかるんですが……」


 エイトリン先生はリリアン先生よりベテランだ。教えてきた生徒の人数も多いので、経験が違うのだろう。



「ほらほら、アレクスたちが困ってるぞ。早く本題にはいってやれ」


「ああ、ごめんなさい」


 普段は口数が多くないイリアム先生が言うと迫力がある。イリアム先生が一喝された二人はやっと本来の話を始めた。



「本当に冒険に出るんですか? 」


 さっきまでのふんわりした雰囲気が一変した。


 先生たちは真剣な表情でアレクスとルナを真っすぐに見る。



「さっき日記を読ませてもらった。なかなか上手く書かれてたよ。なんて言うか楽しかったのは伝わってきたよ。うん。でもこれ、危険を冒してまでやる事か? 別にこの村でやればいいんじゃないか? 」


「それは……」


「授業でやった、私たちの旅のお話や歴史、おとぎ話に感化されたのですか? それならば大げさに教えてしまった私の責任ですね。ごめんなさ……」


「それは違います! 」


 リリアン先生が頭を下げようとした時、アレクスは立ち上がり大声で遮った。



「そんな事言わないで下さい! 俺はリリアン先生の話が大好きです。海に行って船に乗った話や砂漠の傭兵団の話、世界中の食材が集まる王国の話。おとぎ話では黄金が広がる国や空に浮かぶ町、星を降らせる巫女なんかの話も大好きでした。本当だったらいいなって、そんな国や場所に自分で行ってみたいって、自分で見てみたいって思ったんです。先生たちは俺に夢をくれたんです。……だから責任なんて言わないで下さい。謝らないで下さい」


 息をするのを忘れるくらいの勢いで自分の気持ちを吐き出した。

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