第41話 ニヤニヤするな!
オスカーさんが発見した謎の魔法道具。
それは、彼の予想どおりの代物だった。
「魔力を誘導する魔法道具……ということは」
俺の言葉を聞いて、エルネスタが答えに行き着く。
俺もオスカーさんもこくりと頷いた。
「でしょうね。こんな物が偶然柱に刺さるわけがない。いつの間に侵入者が……」
確定したのだ。外部の人間による仕業だと。
「こんな面白い魔法道具を開発するくらいですからね。きっと、何かしら他にも魔法道具を持っているんでしょう」
そもそもこの魔法道具があれば、魔法道具自体を無効化できる。
相手がそれをしながらこの魔法道具を柱に埋め込み、退散したのだとしたら……犯人を特定するのは不可能だな。
同じことを考えたのか、オスカーさんも首を傾げながら不安げな表情を作っていた。
それはエルネスタもだ。
彼女は特に顔色が悪い。
無理もないな。自分を狙っている者が身近にいるかもしれないのだ。気が気ではない。
彼女の肩に手を置き、抱き寄せる。
「ゆ、ユークリウス様?」
「平気だよ、エルネスタ。俺が傍にいるし、今回の件が人の手による仕業だと分かったのは大きい。対策を立てよう」
「……そう、ですね。すみません。いざ情報が確定すると、少しだけ怖くなって」
「気持ちは分かるよ。俺も面倒な状況になって気が重いし」
だが、一つだけ光明は見えた。
賊が埋め込んだと思われる魔法道具は、オスカーさんたちに引き抜かれ、その効力を失っている。
後宮の守りをさらに固め、より注意すれば今度は大丈夫だろう。
あの魔法道具さえなければ、遠隔から魔法道具を壊す手段はない。
もしかすると他にも設置されている可能性はあるが、少なくともこの辺りの魔法道具に問題は発生しない。
それなら、今の俺でも対処する方法がある。
「ユークリウス様、エルネスタ殿下。ちょっといいですか」
「ッ」
そういえば周りにはオスカーさんや付与師の人がいたんだった。
不安に震えるエルネスタを見ていたら、そのことをすっかり忘れてしまった。
ちらりと話しかけてきたオスカーさんに視線を向けると、彼を含めてその場の全員がニヤニヤ笑っていた。
気まずい思いをしながらも、どうにか返事を返す。
「な、なんですか?」
「すみませんね、イチャイチャしてるのに邪魔しちまって」
「それはいいですから、用件を!」
やや語気が強くなる。
俺の珍しい怒りの感情に押され、オスカーさんは話を続けた。
「この魔法道具、ウチで解析していってもいいですか? ユークリウス様が鑑定したほうが正確かもしれませんが」
オスカーさんが言ってるのは、柱に埋め込まれていた魔法道具のことだ。
俺はこくりと頷く。
「構いませんよ。その魔法道具がなくなって、俺もやりたいことがあるので」
「ああ、なるほど」
オスカーさんの視線が、いまだ抱き寄せたままのエルネスタへ移った。
再びニヤニヤが生まれる。
「大事な大事な婚約者様のためにも、身を守る道具は必要ですよねぇ」
「~~~~!」
こ、こいつ! 俺のことをよく分かってるな。人の感情の機微に敏すぎるだろ。
いろいろ言いたいことはあったが、後ろに並ぶ付与師を含めて多勢に無勢だ。湧き上がった感情を無理やり抑えつけ、我慢する。
「いいからあなたは、さっさとその魔法道具を持って帰ってください!」
「へいへーい。お前ら行くぞ。今晩はお楽しみだとよ」
「オスカーさん!」
いい加減にしないと不敬罪でしょっぴくぞ!
彼らは俺らがそんなことはしないと高をくくっている。実際、多少のからかいくらいは別に気にしちゃいない。エルネスタも特に何も考えていなかった。俺の胸元で、「ハァハァ。ユークリウス様の匂い」とかぶつぶつ変なこと言ってるし。
「ほら、エルネスタ。そろそろ部屋に戻るよ。オスカーさんたち行っちゃったから」
退散していったおっさんたちの背中を見送り、抱き付いたままのエルネスタに声をかける。
彼女は頬を赤く染めて、
「へ、部屋ですか? 連戦ですね」
とか恐ろしいことを仰る。
彼女の肩を掴み、ぐらぐら揺らした。
「落ち着けエルネスタ。俺はまだ何も言ってない」
こんな状況で連続してやるとか実は体力お化けだな? エルネスタ。
男だから当然そういう欲はあるし、エルネスタほどの美少女に誘われると弱いが、今は状況が悪い。
疲れてるし、先にやらなきゃいけないことが山積みだ。
興奮し始める彼女を必死に説得し、なんとか朝までコースは回避できた。
……まあ、後日やることにはなるんだろうが。
彼女と一緒に部屋へ戻りながら、俺は戦々恐々とするのだった。
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