第40話 不思議な魔法道具

 元付与師のオスカーさんが、右手人差し指で柱の一角を示す。

 そこに、何かがあるらしいが……。


「どういうことですか、オスカーさん。あれはただの柱ですけど……」


 俺が訊ねると、オスカーさんは真剣な表情で言った。


「魔法道具の反応を見るかぎり、他の魔法とは違う、不思議な反応が観測されています」

「ふ、不思議な反応? そんなものあったかな」


 俺は首を傾げる。

 昨日、魔法道具を見たかぎりそんなものはなかった気がするが……。


「この魔法道具に表示されている魔力は、方向しか分かりません。数もまちまちだ。慣れていないと分かりませんよ」


 そう言いながら手にした魔法道具を俺とエルネスタに見せてくる。


「ほら、この辺り。よく見ていると、複数の、違う魔力の波長が見られます」

「……ほ、本当だ」


 言われてじっくり眺めてようやく気づいた。

 断続的に魔力が流れているのかと思えば、微妙に魔力の大きさが違う。

 よく気づいたな、オスカーさん。

 さすが熟練の付与師。ギルドマスターを務めているだけある。


 部下たちも、


「なんだろうなこの反応。魔力の向きも微妙におかしい」

「他の魔法道具が円状に広がるのに対して、この魔法道具は二つのパターンに分かれてる。初めてみるぞ、こんな魔法道具」

「そもそも魔法道具なのか? 柱の中に埋め込まれているっぽいぞ」

「確認したいな」


 とひそひそ声で相談を始めた。


 しかし、今すぐに姿を出せば、近くで魔法道具を操作している何者かにバレる可能性がある。

 それすら遠隔で行っている可能性もあるが、壊れたかどうかの確認のためにも、近くで監視している可能性は高い。

 ゆえに、すぐには動けなかった。


 魔力の反応が完全に途切れるまで待つ。

 すると、先に魔法道具が壊れた。


 そこで不思議な魔力の反応が消える。恐らく、目的を果たして魔法道具を止めたのだろう。遠隔から操作できるなんて便利な代物だ。


「おいお前ら。あと十分経って何もなかったら魔法道具の確認作業に移るぞ」

「了解」


 オスカーさんの指示に迷いなく部下たちが答える。

 俺も一刻も早く原因が知りたかった。


 もしかすると、さらに魔法道具の技術に革命が起こるかもしれない。

 オスカーさんたちも、それを求めてウズウズしていた。


 今まで一番長い十分が流れる。











「……そろそろ十分ですね」


 時間を確認し、オスカーさんたちがその場から立ち上がった。


 付与師たちが姿を見せ、ゆっくりと壊れた魔法道具や柱のほうへ向かう。

 その背中を俺とエルネスタも追いかけた。


 まず真っ先に向かったのは、誰もが気になる柱の一角。

 オスカーさんたちの話が本当なら、そこに何かしらの魔法道具が埋まっているっぽい。


 細かく調べていると、ちょうど外側に向いている柱に、何かが突き刺さっているのが見えた。

 近づき、観察する。


「これは……鉄製の魔法道具ですね」

「素材に金属を使うなんて、ずいぶん高価な代物ですね」


 ただの金属ではない。かなりの量を使って分厚く設計された物だ。

 外見上は太い杭のように見える。これが、連日に渡って魔法道具を壊しているものの正体か?


 ひとまず、オスカーさんたちが慎重にそれを抜き始めた。壊れたらもったいないのだろう。


 深く突き刺さった杭のようなものは、十分以上もの時間をかけてゆっくりと引き抜かれた。

 それを地面に置き、全員で見下ろす。


「重く頑丈な魔法道具にしては、刻まれた魔法式がシンプルだな。少ない」

「ですね。籠められた魔力も微量だ。こんなじゃ魔法道具を破壊するほどの出力は出せませんよ」

「どでかい魔力もこの魔法道具が出したものじゃねぇ。恐らく、この魔法道具は魔力を誘導する役目がある」

「魔力を……誘導?」

「でなきゃ説明できねぇだろ? これ単体にはほとんど意味がねぇからな」

「確かに……」


 言われてみればそうだ。

 この魔法道具が他の魔法道具を破壊しているのだとしたら、魔力を観測した際にこの魔法道具に意識を割かれる。

 しかし、実際には魔力は外から来ていた。何もないところから。


 その魔力をこの魔法道具が引き寄せ、他の魔法道具に当ててるのだとしたら。

 オスカーさんの言うとおり、説明がつく。


「ユークリウス様なら、これに刻まれている魔法式もすぐに読み取れるでしょう? 見てもらえますか」

「了解です。ええっと……」


 魔法式を確認するために顔を近づけた。

 浮き上がる魔力の流れや形を無視して、直接、内容を確かめる。


 普通、魔法道具は魔法式を隠すための加工が施されている。けれど俺には、特別な目があるからそれを無視して魔法式を直接読み取れるのだ。

 なぜなら、魔法式は魔力で刻まれたもの。魔力関係なら俺に見えないものはない——はず。


 そしてこの魔法道具に刻まれた魔法式は……。


「うん、オスカーさんの予想どおりですね。この魔法道具は、魔力を誘導する効果を持っています」

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